浩二はふてくされていた。
昼休みの教室に子供たちは少なかった。
昨日降った雪が積もって、
皆外で遊んでいるのだ。
「いいかげん、機嫌直せよ」
正史の言葉に、浩二は口をとがらせた。
「だってさ、
お前たちだけで、
イサベルさんのところに行くなんてずるいよ」
「だから、さっきも謝ったじゃん。
父さんが土曜の朝に、
今日はケーキを作ってお見舞いに行こうって
いきなり言ったんだよ。
それで、タウンページで
ホセさんの教室の電話番号を調べて、
電話かけてさ、
イサベルさんにアレルギーがないか聞いたの。
ケーキを焼く前と、出かける前に、
お前の家にも電話したんだよ。
でも、留守だったから」
「家族で長野にスキーに行ってた」
浩二は不機嫌な顔のまま言った。
「楽しかったんだろ?」
「そりゃあね」
「だったらいいじゃない」
「そういうわけにもいかねえよ」
浩二は頭を抱えた。
二人で話していると、
いきなりクラスの女の子二人組から声をかけられた。
「ねえ、これって正史君のお父さんでしょ」
片方の女の子の手に、雑誌の切り抜きがあった。
パティシエ特集らしく、
守の写真と作ったケーキが載っていた。
「そうだけど」
正史が答えると、女の子は顔を見合せて笑った。
「やっぱり。
隣町のお店でしょ。
一度、ママにケーキを買ってきてもらったことがあるの。
すっごくおいしかった」
「父さんに言っておくよ。
すごく喜ぶと思う」
正史がそう言うと、
女の子たちは何故かくすくすと笑った。
女の子たちが
笑い声をあげながら行ってしまうと、
浩二が首をかしげて言った。
「あいつら、
何が楽しくてあんなに笑っているんだろうな」
「知らないよ」
「でもさ、お前の親父さん、
あの店を辞めるんだろ?」
「うん。
店長さんはどんどん店を宣伝して、
ゆくゆくはデパートに出店したり、
機械化できるところは機械化してさ、
全国規模で店をやりたいみたいなんだ。
でも父さんは地道に一つ一つ心をこめて
ケーキを作りたいんだって。
おいしいケーキがどこでも食べられるようにするのが
店長さんの目的でそれはとてもいいことだけど、
父さんはお客さんの顔が直接見られるような
規模のお店が理想なんだ」
「喧嘩別れじゃなくて、
方向性の相違ってやつね」
浩二が鼻を掻きながら言った。
「うん。
しばらくはあの店で働き続けるけど、
いい後任が見つかったら辞めるって。
自分の店を持てるように、
今準備をしているところ。
あと、アレルギーのある子供の家族のために、
お菓子教室もやりたいって言ってた」
「相変わらず、
夢を追ってる人だなあ。
また、忙しくなりそうだな」
「忙しいけど、
前より楽しそうなんだ。
ちょっと収入は安定しなくなるけど、
父さんが楽しそうなのが一番だって、
昨日母さんと話したよ」
正史はにこにことして言った。
「俺、お前の親父さんのこと好きだよ。
親父さんの作るケーキも」
少し照れているのか、
浩二はあさっての方向を向いていた。
正史はふざけて浩二に抱きついた。
「ありがとう」
「お前、くすぐるのはやめろよ」
浩二が身をよじる。
「なあ、せっかく雪も積もったし、
外の雪合戦に参加しようぜ」
「雪合戦で鬱憤を晴らす気でしょ」
「そんなこと、
あるけどな」
浩二は正史の腕の間から抜け出ると、
大きく息を吸った。
「前から思ってたんだけどさ、
お前って、いつも甘い匂いがするよな」
「そうかな」
正史は浩二の背中を叩いた。
「早く外に出よう。
休み時間が終わっちゃうよ」
窓の外は粉砂糖をまぶしたように真白で、
色とりどりの上着を着た子供たちが
その上で跳ねまわっていた。
「ケーキの飾りみたいだ」
正史は呟くと、
浩二と一緒に教室から駆け出して行った。
(終わり)