「雨過天晴」は、台灣の歌手鳳飛飛(1953年8月20日-2012年1月3日)が、1998年9月5日に発表したアルバム「流行歌林招牌歌系列」に収録している楽曲です。

 

 この曲は、元々日本の歌手山口百恵が、1977年4月1日に発表した「夢先案內人(夢的引導者)」を、その翌年に台灣の音楽家蔣榮伊が台灣國語の訳詞を付けたものです。
 山口百恵版の作曲は宇崎竜童、作詞は阿木燿子の夫妻が担当しています。
 蔣榮伊の訳詞は、内容的には阿木燿子の原詞の詞想を踏まえただけで殆ど別の歌詞になっています。

 

 詞題の「雨過天晴」とは、文字どおり雨が止んで空が晴れてきたことを意味しています。
 「雨過天晴」或いは「雨過天靑」と聞くと、五代十国時代後期の後周の皇帝で後に世宗と謚(おくりな)される柴榮(921年10月27日-959年7月27日)が陶磁器の製作を命ずるにあたりその色合いに関して「雨過天青雲破處,這般顏色作將來」〔雨過天青(うかてんせい)雲破るる處(ところ),這般(しゃはん)の顏色(がんしょく)作將(さくしょう)し來たれ*〕と語ったとする故事に由来して、「雨がやみ、空が晴れわたる」意から「悪かった状況や状態が、良い方向に転ずること」の例えとして使われる成語を直感的に思い起こしますが、それとは直接の関係はありません。

〔*注:「作將來」は、「作り將(もっ)て來たるべし」とも読める。〕

 

 歌詞の大意は、黄昏時から夜明けに至るまで恋人との楽しい時を過ごした乙女が、そのことを忘れないようにするために、全て日記に書いて残しておこうと詠ずるもので、幸せ感満載の微笑ましいものです。
 故事成語に捉われて、彼女の身の上に現在何か不幸なことがあるのかと考えるのは穿ち過ぎというものでしょう。

 

 蛇足ながら、「策士策に溺れる」といいますが、故事成語や慣用句に詳しくなると、往々にして本来の字義を疎かにする弊に陥りやすくなります。
 例えば、「再見(see you again )」とは、慣用句として一般的には別れの挨拶即ち「さようなら」の意で使われています。
 しかしながら、「期待再見」を「さようならを期待する」では意味を成しません。
 字義通り「再び見(まみ)ゆるを期して待つ」即ち「再会を期待する」と解釈するのが妥当です。


 最近、伊賀山人の訳詞について複数の方々からお問い合わせを頂いておりますが、当ブログの訳詞は単純な「翻訳」ではなく、文脈判断と歌詞の創作背景とを勘案した「解釈」であるとお考えください。

 そもそも、異なる言語構造を持つ外国語を日本語に或いはその逆に日本語を外国語に1対1で翻訳することは不可能です。

 それを出来るだけ解りやすく噛み砕いて「解釈」することが、「伊賀山人音樂故事」の方針なのであります。

 

 

 雨過天晴
 雨過ぎて天晴る
             作曲:宇崎竜童 作詞:蔣榮伊 演唱:鳳飛飛
1節
黃昏裡一片彩雲
黃昏裡一片彩雲教我想起你
晚風的歌聲 風中我倆緊緊相依

黄昏時の一面の彩雲が…
黄昏時の一面の彩雲が私に貴方のことを想い起こさせる
夜の風が歌声を届けて 風の中で私たちはしっかりと寄り添った

 

夜幕漸漸升起
夜幕漸漸升起使我更想你
月下的細語 句句都是真情真意
你陪我 我陪你 就陶醉在月夜裡

(西に日が沈み東から)夜の帳が緩やかに昇ってくると…
夜の帳が緩やかに昇ってくると私に更に貴方を想わせる
月の下での静かな語り合い その一言一言は全て真心からの本当の思い
私は貴方の傍 貴方は私の傍 月夜の中で陶酔していた

 

啊-祇要有你在我身邊世界就會更美麗
這份情意深怕它消失去 
悄悄地寫在日記裡
不論何時或何地 都寫在日記裡

あ~ ただ貴方が私の身辺にいるだけで世界はきっと更に美しいものになるでしょう
この貴方への思いが深くて楽しい思い出が消え去ってしまうのが怖いから
こっそりと日記に書いておこう
いつのことでもどこのことでも構わない 全て日記の中に書いておこう

 

2節
昨夜的一陣細雨
昨夜的一陣細雨使我想起你
雨中的漫步 雨中我倆輕輕相依

昨夜のひとしきりの雨が…
昨夜のひとしきりの雨が私に貴方のことを想い起こさせる
雨の中でのゆっくりとした散歩 雨の中で私たちはそっと寄り添った

 

今朝雨過天晴 
今朝雨過天晴使我更想你
黎明的垂釣 釣得滿懷歡聲笑語
你陪我 我陪你 就陶醉在朝陽裡

今朝雨が通り過ぎ空が晴れて…
今朝雨が通り過ぎ空が晴れて私に更に貴方を想わせる
夜明け時の魚釣り 釣れて思いは満ちて歓声と笑い声が起きた
私は貴方の傍 貴方は私の傍 朝日の中で陶酔していた

 

啊~祇要有你在我身邊世界就會更美麗
這份情意深怕它消失去 
悄悄地寫在日記裡
不論何時或何地 都寫在日記裡

あ~ ただ貴方が私の身辺にいるだけで世界はきっと更に美しいものになるでしょう
この貴方への思いが深くて楽しい思い出が消え去ってしまうのが怖いから
こっそりと日記に書いておこう
いつのことでもどこのことでも構わない 全て日記の中に書いておこう

 

(1節再唱)

 

不論何時或何地 都寫在日記裡~
いつのことでもどこのことでも構わない 全て日記の中に書いておこう~

 

 


鳳飛飛-雨過天晴(擬真版)1