「忘川河」(ぼうせんが)は、台灣の女歌手龍千玉(1961年7月30日ー)が2012年11月15日に発表したアルバム「 幸福之戀」に収録している楽曲です。
 龍千玉は1979年にデビューしていますが、その当時は「江玉琴」という芸名を名乗って主として台灣國語(台灣華語)の歌を演唱していました。
 1987年に現在の「龍千玉」に改名してからは主として台灣語(台灣閩南語=台語)の楽曲を演唱しています。

 

 「忘川河」の作詞・作曲は台灣の自作自演歌手江志豐(1968年5月20日─)の手になるものですが、この歌詞も台灣語で書かれています。

 

 歌詞の内容は、先の記事で紹介した「忘川河傳説」(ぼうせんがのでんせつ)を踏まえたもので、この世とあの世とを隔てる忘川河で今世の記憶を残すために千年の苦行に耐えて、愛する人に来世で再び巡り会うことを願う心情を詠じたものです。

 

 詞中に見える「忘情的水」(ぼうじょうのみず)とは、別名「孟婆湯」(もうばとう)と称するスープのことで、これを飲むと今世の記憶をすべて忘れ去る効果があるので、「忘川河」を渡る前に飲むことになっているものです。
 恋人や家族などとの今世の記憶を残して来世で再会することを切に願う人はこれを飲まなくても済みますが、その代わりに忘川河に飛び込んで千年の苦行に耐えなければなりません。

 

 今回は、台語の歌壇で「情歌天后」と称されている龍千玉本人の原唱でご紹介します。
 なお、歌詞は相当難解なものなので、伊賀流の意訳にしています。
 万一誤訳があるとすれば、博雅の教えを請います。

 

 

  忘川河
  記憶を忘れ去る河
                      作詞/作曲:江志豐 主唱:龍千玉

口白:
傳說中 愛一個人
只要惦在忘川河受苦千年
就會在千年以後 找到心愛的伊

台詞:
伝説の中に言い伝えられている 一人の人を来世まで愛したいのであれば
ただ忘川河の中で千年の苦しみに耐えて待ち続けなければならない
千年の修行ののち 心から愛するその人を見つけることができると

 

所有愛情的意義 編成流傳的故事 *1
全部寫底這裡面 只為愛恨甲傷悲
因為迷戀伊的痴 因為貪戀伊的甜
因為愛伊的纏綿 所以甘願等千年

愛情に価値が有るからこそ 広く伝わる物語が作られた
その物語の中にすべての真相が書かれている ただ愛するがための悲しみや恨みの心情が
その人を夢中になって恋することや その人の優しさを一途に恋願うことや
その人の思いやりを愛することこそが 千年待ち続けることを願う所以であることが 

 

為你不願輪迴 只為來生再相會
因為愛你我甘願一切受苦罪

あなたのために今は輪廻転生することを願わない ただ来世に再び巡り合うために
あなたを愛するがために 私は甘んじてすべての苦しみや罪を受けることを願う

 

我在忘川河修千年 我在忘川河看你 *2
看你千年輪迴中飲 忘情的水
雖然今生放袂記 雖然來生放袂記
我在忘川等千年 會擱見面 
*3
私は忘川河の中で千年の修行に耐える 私は忘川河の中であなたを見るでしょう 
あなたが千年の輪廻転生の中で 忘情の水を飲むのを何度も見るでしょう
たといあなたが今世の記憶を失くしても また來世の記憶も失くすとしても
私はこの忘川河の中で千年待ち続ける 耐えてあなたにまた巡り会うために…

 

(間奏)

 

*1~*2~*3再唱
*2~*3再唱

 

 

 


龍千玉-忘川河