アンドロイドでも、にのは小さな子なんだから目を離しちゃ駄目なんだよ



お隣の教室に行くだけだとしても、中へ入る事を確認しないから…こんな状況になってしまうんだ



幼い子は大人の予想を超えた行動する事もあるんだから、必ず…近くで見守らなきゃ駄目なんだよ








何か…欲しい物ある?と僕に聞いてくれたよね?

朝は忙しそうだったから…まーくんへお手紙を書いておきます

僕が欲しい物はジグソーパズルで…かずくんと選びたいから先にかずくんのお店へ行くね

まーくんの事をお店で待ってるから僕を迎えにきてくれる?

心配しないでも僕はGPSを搭載したアンドロイドだから迷う事なく最短ルートで行けるよ

まーくんみたいに足は長くないから、かずくんのお店へ辿り着くまで、ちょっと、時間は掛かりそうだけどね

僕が…かずくんに謝る機会を作ってあげるから、ちゃんと、お迎えにきてね



「かずくんのお店って所に行っちゃったのか?」

白い紙を見詰めている俺に大ちゃんは心配そうな顔をしながら聞いてくる。

「そうみたい。ごめんね。悪いけど帰りはバスを使ってくれる?」
「元々…今日は…そのつもりだったから謝らないでくれよ」
「そうだったんだ…じゃぁ……先に帰るね」

ジグソーパズルをカズと選びたいから…先に店へ行くって何?
俺の家じゃなく嵐幼稚園からだと結構な距離もあって遠いのに信じられないよ。
まーくんみたいに足は長くないからって…何の交通手段も使おうとせずににのはカズのお店へ歩いて向かったんだよね?
例え…最短ルートで行けようと遠い事には変わらないんだから。
小さな子が…一人で向かう距離じゃないのに、何を考えてんの?って俺の為だよね?
ジグソーパズルをカズと選びたいからなんて単なる口実だ。
カズに謝る機会を作る事が目的で、にのは黙って店へ向かったんだよ。
きっと、俺の言葉をカズは聞いてもくれないと決め付けた俺の為に。

「お疲れ様っ!」

大ちゃんに挨拶をした俺は職員室へ立ち寄る事もせず、正門から出て駐車場へと走る。

「大丈夫なんだよね?迷ったりしないんだよね?一人で…こわい思いしたりしてない?大丈夫なの??」

不安をブツブツと口から吐き出す俺は車の扉を開けて運転席に座ると、直ぐに…カズのお店へ向かった。
此処から…にのの足だと何分程で辿り着けるんだろう。
最短ルートで行こうと…徒歩だと1時間は掛かるよね?
緑組の教室を出て…直ぐにカズのお店へと向かったのなら今頃は辿り着いてる可能性もある??

「頼むよ……ちゃんと…いてくれ」

少し前から…ポケットの中で震え続けるスマホの存在にも気付かず俺はアクセルを踏む。
無事に…にのがカズのお店へと辿り着いている事を祈りながら。
笑顔のにのに…まってたよと言われる事を願いながら運転する俺は知らない。
ブルブルとポケットの中で小さく震えるスマホが何を伝えようと…必死になっているのか。
真新しい綺麗な緑色の名札は、既に…汚れてしまっている事も知らず握るハンドル。

「……にの」

厄介な渋滞に巻き込まれながら俺は…30分程でカズのお店に辿り着いた。
にのの事を心配してる癖に駐車場へ駐めた後の行動が、随分と…トロトロしているのは昨日のカズの顔を思い出すから。

「もぅー大変よね!」
「ホントにっ!!」

ゆっくりと…開けた車の扉の向こうから聞こえるのは駐車場で佇む二人の女性の声。

「通信システムも使えないし、殆どの機能に不具合が発生してるんだっけ?」
「そうみたい。初めての事なんだってね」
「SAKURAI社って優秀だから狙われたのかしら?」
「多分そうかも??サイバーテロかも知れないのよね?こわすぎっ!!」



は!?
今……何て言った??
サイバーテロって?


フラッと車から降りた俺は聞こえてくる会話に耳を疑う。
彼女達は…にのを作ったSAKURAI社が狙われたサイバーテロが起きた話をしているの?

「アンドロイドのGPS機能も停止して壊滅的なダメージを受けてるらしいわよ」
「うわぁ……持ち主さんは心配よね」
「アンドロイドに用事を頼んでて家にいない時とかだったら…ちゃんと、自分の所に帰って来るか不安じゃない?たっかいお金だしてSAKURAI社のアンドロイドを買ってるのにね」
「私達は持ち主じゃないから良かったわよね」
「まぁね。あんな高価なアンドロイドを買える様な余裕ある訳ないし」

やっと…震え続けるスマホに気付いてポケットから取り出せば画面に表示されたのは『SAKURAI社のアンドロイドの主な機能停止』の背筋が凍りそうな文字。
嘘だよね?
にのはカズのお店の中にいるんでしょ?