どうして、こんなに、凸凹になっちゃうんだろ?って…慣れない事に悪戦苦闘

自分の家ではないリビングのテーブルの上には、色んな物が散らかり放題で、目を瞑りたい状態になっている

スマホに表示される時間とも格闘しながら、完成を目指すが、今の所は、評価の低い点数がつけられそうな途中経過

中が見えちゃってるけど…とかブツブツと独り言を言いながら、手元への注意力を疎かにしているとパレットナイフからボテッと生クリームがテーブルの上に落ちる

あっ……後で拭くからねって誰かに汚いと指摘された訳ではないけど、落ちた生クリームへと向かって呟く

どうやっても、不細工な凸凹が綺麗に修正できず、隠す方向で誤魔化して行こうと、出来ない事は諦めた

側に置いてあった苺をポンポンと並べれば、十分な目隠しになってニヤリと満足そうな笑みが溢れる

チラリと時間を確認すれば、予定通りの時刻に安心したのに、廊下の奥から聞こえた物音に俺の体は固まった

えっ⁉嘘でしょ?教えてくれた時間より早いじゃん!何でだよ

ウロウロとテーブルの周りを歩いて狼狽える俺に煩い足音が近付いて…ただいま!って最高の笑顔を披露したあいつは目を丸くする

今年の東京ドームでのコンサートが終了し…翌日は時間が取れそうだと言うから、誕生日は過ぎたけどサプライズで手作りのケーキとかベタすぎる事を思い付いて、頑張ったのに完成前にバレるとか最悪じゃない?

お前さぁ…帰って来る時間が変わったんなら連絡しろよ!って持っていたパレットナイフを突き付けて八つ当たりする俺にキラキラと瞳を輝かせるあいつ

凄い!凄い‼凄~い‼!手作りなの?凄いっ‼!って未完成のケーキを前に大興奮している、あいつにはテーブルに散乱する使用済みの汚れたボウルや、零れたままの薄力粉は、目に入らないのだろうか

まだ…途中なの!って…必要以上にはしゃぐ、あいつを背に目隠しの為の果物達を素早く並べて、完成を急ぐ

ランダムに並べられた果物達に彩られた手作りケーキは…ゴチャゴチャしていて、お世辞にも美味そうには見えない

本当は、完璧に完成されたケーキを冷蔵庫に隠しておいて、晩ご飯後に披露して、喜んでもらうつもりが大失敗した俺は完成度なんて二の次で仕上げた

う~ん……って唸りつつ、完成度の低いケーキが乗るプレートをクルリと回して眺めていたら自分でテーブルに落とした生クリームを触ってしまい、指先をベットリと汚してしまう

食べよっか?って言ってくるあいつに…今から?晩ご飯を食べた後の方がよくない?ってスマホの右端に表示される時間をチェックしていたら、手首を掴まれて、あいつが食べると言った物が俺が思っていたケーキではない事が、すぐに、分かった

最初に、味見したいなと思って!ってニヤニヤするから俺の耳の色が変わりだす

……好きにすれば?って…相変わらず、上手に、甘える事が出来ない俺は、そっぽを向いて俯く

そんな可愛くない恋人相手でも…じゃあ、遠慮なくって…あいつは嬉しそうに俺の頬に優しいキスをする

指先に視線が落ちると、あいつは唇から舌を覗かせて、生クリームを舐めながら口内へと含む

生温かい感触に指先が包まれると、あいつの口内でピクリと震えた

舌で綺麗に生クリームを舐め取られた指先が口内から開放されると、俺の顎に、あいつの指が伸びてきて顔を持ち上げられる

近付く唇が重なると、すぐに、侵入してくる舌先には生クリームが残っていて、俺の口内に甘ったるい匂いが広がった

絡まってくる舌が甘くて、つい…顔を逸らしてしまうが、追ってくる唇に、もう一度、塞がれる

塞がれた唇の奥から漏れる自分の息が、妙に…淫らに聞こえて、あいつの服をギュッと掴む

唇の端から流れる唾液にも甘さが混ざり、首筋を伝って流れ落ちる

背中に回っていた、あいつの指先がエプロンの結び目を見付けると、器用に解きスルリと床へと落ちた

甘い唇が離れると至近距離で見詰めてくる視線から逃れられず、煩い鼓動が早さを増していく

熱を含む視線に耐えきれずに…一歩だけ、後ろへと下がると、背後のテーブルへと腰がぶつかって揺れたボウルが派手な音を立てて落ちた

ビックリした俺の体は面白いくらいに肩を震わせるから、あいつが笑いながら抱き締める

やばっ!止まらなくなるトコだったよ!って…先程までの表情をコロッと変えて、俺のほっぺをムニッと両手で挟むから、当然…面白い顔になった

アハハハハッ‼って大声で笑うあいつは、本当に、失礼な奴だよね

頬を挟む両手を思いっ切り抓ってやると…ごめんごめんって頭を撫でられる

今日の主役を除け者にする所だったねって優しく笑うから…誕生日は過ぎたけど、主役は、お前でしょ?何を言ってるの?って首を傾げたら、あいつはテーブルの上を指差しながら俺を背後から抱き締める

違うよ?俺の為に作られたケーキが主役!食べちゃうの勿体ないけど、食べよ!って顔は見えないけど嬉しそうな声が耳に届く

勿体なくないよ?来年は、もっと、練習して、美味しそうなのを作るからって…後ろを振り向けば、優しいキスが降ってくる

来年だけじゃ嫌だよ?

再来年も、その次の年も

勿論って意味を込めて背伸びして俺からのキス



   ずっとだよ