昭和をさかのぼる昔のことです。
父が伯母の家からサボテンを貰ってきました。それは背丈が20センチあまりの大きなものでした。
当時の私には、その姿が人の頭を連想させる、不気味なものに映りました。
ある雨上がり、そんなサボテンに、子株ではない何やら突起物が出来ました。
数日後、それがみるみる伸びて、夕暮れに花を咲かせました。
幾重にも重なりあった、細長い純白の花弁が、仄かに光りながら、夕闇に映っています。
まさに自然が織り成す芸術的作品でした。こんなに美しい花があるものかと、子供ながらに感動したものです。
伯母の家ではその鉢を雨のかからない場所に置いていたらしく、一度も花を咲かせなかったようです。いくらサボテンでも雨水は必要だったのですね。
花は一晩でしぼんでしまいました。そして一期に幾たびも花をつけるような品種ではないらしく、その年再び咲くことはありませんでした。
しかしサボテンは夏が来るたびに、その美しさを見せてくれました。
二つの花芽を出し、同時に開花させたこともありました。
数年前、子株を貰おうかと実家へ行ったら、サボテンはとうの昔に枯れて消滅していました。
サボテンは父や伯母のいるところへ往ってしまいました。
しかしその優美な花影(はなかげ)は、今も瞼に焼きついています。
十分に釣れて寂しき小滝かな (をさむ)