ストレスを持続的にためこまないように、上手に発散してゆくことが、

癌の治療や予防においても重要です。

 

 

笑うことは、癌細胞を傷害するナチュラルキラー(NK)細胞活性を高めて、

免疫力を増強させます。

(Altern Ther Health Med 2003;9(2):38-45)

 

感動して泣くことは、

リラックスしている時に活発に作用する副交感神経系を活性化させ、

緊張を和らげるので、ストレスの解消に有用な可能性があります。

(Oncol Nurs Forum 1996;23(3):441-8)

 

ただし、悲劇的な内容のビデオ鑑賞では、

交感神経系の活性が減少するだけではなく、

副交感神経系の活性も減少してしまうという報告もあります。

(J Physiol Anthropol Appl Human Sci 2002;21(3):159-65)

 

 

癌によるストレスを経験した後では、

ポジティブな出来事を経験することが有用なようです。

 

癌の診断から5年以上生存している患者さんの9割以上で、

ストレス経験の後で、

最低1つ以上のポジティブな出来事を非常に強く経験しています。

Support Care Cancer 2016;24(11):4607-15

 

 

気力や食欲、報酬感情などに関与している神経伝達物質のドーパミンは、

2017年6月11日のブログでご紹介しましたように、

ストレス処理に関与する可能性や、癌組織の増大を抑制する可能性があります。

 

ドーパミンの分泌を促進するような恋愛などの楽しい出来事は、

ストレスを軽減し、

癌に対する治療効果を生じる可能性があるかもしれません。

Indian J Endocrinol Metab 2016;20(4):558-63

 

 

腸内環境の改善が、ストレスの軽減にも役立つかもしれません。

 

喉頭癌の手術の2週間前に、

腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを改善する微生物

(プロバイオティクス)の投与により、不安が軽減し、

ストレスに関与するホルモンの血中濃度が減少したという報告があります。

Asia Pac J Clin Oncol 2016;12(1):e92-6

 

 

前立腺癌の患者さんでは、

女性ホルモンであるエストロゲンのサプリメントの服用により、

精神的なストレスに対する血中のホルモン濃度の上昇が抑制された

という報告があります。

Clin Endocrinol (Oxf) 2002;56(6):745-53

 

ただし、サプリメントの服用は、

がんやその他の疾患に対して悪影響を及ぼす場合もありますので、

必ず主治医の先生にご相談されて下さい。

 

 

 

ストレスは、癌に対する検査や治療においても生じる場合があります。

 

長期生存している悪性リンパ腫患者さんを対象にした研究では、

CTによる画像検査が、

患者さんの再発への不安や恐怖を増強している可能性が示唆されています。

Ann Oncol 2010;21(11):2262-6

 

以前、築地にある国立がんセンターの総長を務められた先生が、

ご自身が癌の診断をされた時に、

手術を受けられるまでの待っている期間が大変だった

というお話をされていました。

 

2017年5月6日~前回までのブログでご紹介させていただきましたように、

精神心理療状態が癌の予後にも影響を与える場合があります。

 

そのため、癌の検査結果を待つ期間や、手術などの治療を待つ期間に対しても、

不安や恐怖などの精神症状をはじめとするストレスに対する有効な対策が、

その後の予後の改善にもきっと役立つことでしょう。

 

人材育成と財源という問題がありますが、

がん患者さんの精神心理的なケアをできる体制の拡充が進むことを願います。