癌患者さんの精神心理状態が、

癌に対する免疫反応に影響を与える可能性を示唆する報告が多数あります。

Acta Derm Venereol 2015;95(6):691-5

J Neuroimmune Pharmacol 2006;1(4):421-7

 Brain Behav Immun 2005;19(3):243-51

Semin Clin Neuropsychiatry 2001;6(4):277-94

 

 

 

早期の乳癌患者さんでは、患者さんの精神心理状態が、

Bリンパ球による抗体産生に影響を与えるという報告があります。

Lancet 1979;2(8146):785-7J Psychosom Res 1981;25(5):453-8

 Lancet 1985;1(8431):750

 

ただし、リンパ節転移の有無を確認していない症例も含まれていますので、

下記のような可能性もありうるという程度にご理解して下さい。

 

この報告によれば、手術後3か月の時点で、

癌を厳しく受け止めるか、支援や希望が無いという感情を抱いた患者さんや、

癌と闘う気持ちを持った患者さんよりも、

癌を否認した患者さんでは、血液中のIgM抗体の値が高かったです。

 

癌を厳しく受け止めるか、支援や希望が無いという感情を抱いた患者さんよりも、

癌と闘う気持ちを持った患者さんでは、血液中のIgG抗体の値が低かったです。

 

 

抗体とは、Bリンパ球が産生し、抗原(こうげん)と呼ばれる特定の物質

(病原微生物や癌抗原など)を認識して結合する物質です。

 

抗原に抗体が結合することにより、抗原に対する免疫反応が生じます。

 

癌細胞への直接的な傷害作用は、

NK(ナチュラルキラー)細胞やTリンパ球などの免疫細胞が担っています。

 

癌細胞で発現しているがん抗原に抗体が結合すると、

NK細胞などが活性化して癌細胞を傷害する、

抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)が生じる場合があります。

 

IgM抗体は抗原抗体反応の最初に産生される抗体で、

抗原と結合すると細菌などを破壊する補体系という免疫反応を強力に活性化し、

血液中の抗体価は比較的短期間で低下します。

 

IgG抗体はIgM抗体よりも後から産生される抗体で、

ウィルスや細菌などの病原微生物や毒素を中和する作用などを持ち、

血液中の抗体価は比較的長期間持続します。

 

病原微生物に対する抗体の場合には、IgM抗体の上昇は最近の感染を意味し、

IgG抗体は過去から現在までの間での感染を意味する場合が多いです。

 

 

癌を厳しく受け止めるか、支援や希望が無いという感情を抱いた患者さんや、

癌を否認する患者さんと比較して、

癌と闘う気持ちを持つ患者さんでは、

IgM抗体もIgG抗体も低い傾向にあることは興味深いです。

 

癌と闘う気持ちにより、ストレスに対抗するホルモンが増加することで、

リンパ球の数が減少して、抗体の産生量が低下した可能性や、

リンパ球が血液中からリンパ節などの組織に移行した可能性が考えられます。

Cell Immunol 2008;252(1-2):16-26

Rom J Neurol Psychiatry 1994;32(4):231-6

 Psychoneuroendocrinology 2012;37(9):1345-68