CAR-T(キメラ抗原受容体発現T細胞)療法は、
腫瘍細胞の特定の標的物質と結合して活性化するT細胞(Tリンパ球)を、
遺伝子操作により体外で作製して、そのT細胞を投与する新しい癌治療法です。
詳細は、2017年3月18日~20日のブログをご参考にされて下さい。
B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)に対する
CD19を標的とするCAR-T療法
CD19は、CD21、CD81、Leu13とともに、
抗原に対するB細胞(Bリンパ球)の反応性を増強させる機能を持つ
B細胞の補助レセプター(受容体)複合体を形成している物質です。
(J Immunol 1997;159(7):3278-87)
下記にご紹介します臨床試験では、
CAR-Tの治療効果を高めるために、CAR-T療法前に、リンパ球減少目的で、
シクロホスファミド等を用いた抗がん剤治療が実施されています。
成人の再発・治療抵抗性のB-ALLに対して、
約9割という高い割合で微小残存病変も消失した完全寛解(CR)が得られました。
一部にサイトカイン放出症候群による発熱・低血圧や、神経障害などの
有害事象が生じました。
(J Clin Invest 2016;126(6):2123-38)
成人の再発したB-ALLに対して、約9割で完全寛解(CR)が得られました。
CAR-T療法は、腫瘍細胞にフィラデルフィア染色体が存在する場合や
同種造血幹細胞移植後の再発例でも有効でした。
(Sci Transl Med 2014;6(224):224ra25)
フィラデルフィア染色体は、
9番染色体の一部と22番染色体の一部が相互に移動(相互転座)した結果、
9番染色体のABL遺伝子が22番染色体のBCR遺伝子に結合した
異常な22番染色体です。
成人の再発・治療抵抗性のB-ALLに対して、
5例全例で微小残存病変も消失した完全寛解が得られ、
治療は耐えられるものでした。
(Sci Transl Med 2013;5(177):177ra38)
小児・青年(83%)と成人(17%)の、
再発・治療抵抗性のALL(B細胞性が97%、T細胞性が3%)に対して、
9割で完全寛解が得られ、
造血幹細胞移植後の再発例や、ブリナツモマブ抵抗例も含まれていました。
6か月の全生存率は約8割で、寛解が24か月持続している例もありました。
約3割で重いサイトカイン放出症候群が生じましたが、
トシリズマブ(IL-6阻害薬)により治療可能でした。
(N Engl J Med 2014;371(16):1507–17)
ブリナツモマブにつきましては、
2017年2月11日~13日のブログがご参考になります。
小児の再発・治療抵抗性のB-ALLに対して、
2例全例(1例はCAR-T療法前の抗がん剤治療なし)で完全寛解が得られ、
1例では完全寛解が治療後11カ月間持続しました。
サイトカイン放出症候群、Bリンパ球の無形成などの重い有害事象も生じました。
(N Engl J Med 2013;368:1509–18)
小児と青年の再発・治療抵抗性のB-ALLと非ホジキンリンパ腫に対して、
一部に発熱などのサイトカイン放出症候群、低カリウム血症、発熱性好中球減少症、
などの有害事象が生じましたが、全て治療により回復しました。
(Lancet 2015;385(9967):517–28)
急性骨髄性白血病(AML)に対するLeYを標的とするCAR-T療法
LeY(Lewis Y)抗原は、正常組織では発現が少なく、
急性骨髄性白血病を含む多種類の悪性腫瘍細胞で発現している腫瘍抗原です。
成人の再発した急性骨髄性白血病に対して、
リンパ球減少目的でのフルダラビンを含む抗がん剤治療後に、
LeY抗原を標的とするCAR-T療法では、
4例中3例で治療効果が生じ、1例で細胞学的寛解が得られ、
重い有害事象は生じませんでした。
(Mol Ther 2013;21(11):2122-9)