Uzumaki (渦巻) | 8-hour workdays

8-hour workdays

音楽を中心に、気ままにブツブツ

 「エイトさん(仮名:自分),先ほど

 矢沢くんから人生相談されて,

 エイトさんと飲みたいと言われました

 いかがですか?お付き合いくださいますか?」

 

5月中旬頃、残業時に

出社しているアナ

(仮名:グループ40代2児の女性)から

テレワーク中の自分に

Lineメッセージが届いた。

 

矢沢というのは,

20代後半の他部署の男性だ.

他部署と言っても,同じフロアーで

自分たちのすぐ後ろのエリアに

いるため非常に近い存在だ.

業務も協力して行うことがある.

 

矢沢の印象について言えば、

とにかく女性を集めて

飲み会をしているというイメージだ。

フロアーの男性飲み会には

ほとんど顔を出さない.

 

そんなことに加え、

昨年の長老(元グループ定年退職者)の

送別会の件もあったため

自分は矢沢をあまり

よく思っていなかった。

 

それはエルサ(仮名:グループ30代女性管理職)

リモート会議で画面共有をしている時の事だった。

彼女は突然,業務用チャットの内容を

拡大して自分に見せてくれた.

 

「こんなのが来てましたよ」

 

それは矢沢からのメッセージで

「今度,4人で長老の送別会をしましょう」

と書かれていた.

 

4人とは矢沢,エルサ,長老,

そして長老と親しい

還暦前の矢沢の上司だった.

 

エルサはそのメッセージに対して

「エイトさんは呼ばないの?」

と問い返していたが,

 

「人数が多くなると面倒だから

 4人でやりましょう」

と返信されていた.

 

エルサと長老と自分は

同じグループであったが,

矢沢は自分には参加して

欲しくないというような感じであった.

おそらく矢沢は送別会より

エルサと一緒に飲むきっかけが

欲しかったんだろう.

 

自分は,今回の場合も

アナが目当てなんじゃないかと

踏んでいた.

 

エルサは華やな美人だが,
アナは癒し系で

違ったタイプの美人だ.
ただ彼女は既婚者なので
当然差しで飲むことなどない.

 

アナが自分を巻き込むように

仕向け,矢沢は仕方なくそれに従い,

しぶしぶ自分を誘ったのか.

もしくは矢沢が自分を出しに

アナと飲む口実を作ろうとしたのか,

それはわからない。

 

全く乗り気ではなかったが,

ここで無下に断るのも

大人げないと思い,

受ける事にした.

 

「わかりました.参加します」

 

「ありがとうございます.

 森川さんにも声をかけてみましょうか」

 

「任せます」

 

森川さんとは,同じフロアーにいる

他部署の女性だ.20代後半の女性で

よく矢沢とも飲んでいる.

 

「エルサさんは呼びますか

 それとも...」

 

業務用のチャットを

閉じようとしたときに

アナから再びメッセージが来た.

 

「エルサさんは業務外で

 極力,私と接したくないと

 思っているので,どうでしょうかね.

 それにその日は本社ではなく,

 別の本部にいるので,そんな状況で

 わざわざ来るかどうか」

 

「わかりました.では今回は4人と言う事で」

 

よくよく考えたら,

自分は長老の時の矢沢と

同じようなことをしていた.

 

「では再来週で調整しますね」

 

自分はそのメッセージを見た後,

PCを閉じて業務を終えた.

 

今週木曜日,業務終了後,

焼き鳥系の飲み屋に

アナと向かった.

 

席に通されると

矢沢と森川さんがすでに

座っていた.

 

「お疲れ様です!」

 

矢沢が自分を見て

挨拶をした.

 

「今日は来てくれて

 ありがとうございます!

 さあ飲みましょう」

 

奴はやけにテンションが高かった.

自分は矢沢の前に座り,

一応話は聞きますよという

ポーズを取っていた.

 

「カンパーイ」

 

飲み放題付きのコース料理が始まり,

矢沢の饒舌ショーの幕も上がった.

 

まずは隣の森川さんと

頻繁に飲みに行っていること、

そこには同じフロアーの

30代前半の女性もいるなど,

相変わらず女性を交えた飲み会を

よく開いている事を聞かされた.

 

その他、歴史マニアで三国志が好きなこと、

他の部門を含めた同期が矢沢によって

まとめられていることなどが話された。

いったいどこに悩みがあるのだろうか?

という内容だった.

 

仕方ないな

 

「あのさ,今日は何か

 話したかったんじゃないの?」

 

「そうでした,そうでした!すいません!

 実は自分の部署の事なんですけど,

 もう限界なんですよ.

 先日,先方と会議があったんですが..」

 

要約すると,上司たちの

コミュニケーション能力が低く

先方に不愉快な思いをさせてしまい,

翌日矢沢がまずいと思い

謝罪の電話を入れたと言う内容だった.

 

その他にも矢沢自身に

決裁権限はないのに

彼にその案件が振られ

それを処理したところ

先方から矢沢のポジションでの

判断ではなく上長から欲しいと

言われ,問題になりそうになった事

等が語られた

 

「僕はですね,何度も上長に

 おかしいですよと言ったんですけど,

 先方が小口だったのか

 やろうとしなかったんですよ

 おかしいですよね指揮系統として.

 それ以外にも判断をしてくださいと

 いう場面で,『もう少し待ってみようよ』

 とか言われ,結局進捗が遅れたんですよ

 コミュ力も低ければ,決断もできないんです!」

 

矢沢が言っていることは

あながち間違いではなかった.

この部署にはスペシャリストは多いが,

ゼネラリストがいない.

本来は部長や課長がその役割を

担うのだが,その能力が低い

それは自分も共同で業務を

行っている時に実感した.

 

「確かにあなたの所は,

 管理職が他の人をバックアップする

 姿勢が低いかもね.何か深い専門性を

 アピールするのが上司だと

 思っている風潮がある」

 

「そうなんですよ!!!」

 

その後も他部署の質問や照会に対して

矢沢がその回答対応を行っているが,

それに対する最終判断を上司が

なかなかできない

という愚痴がこぼされた.

 

「で,あなたは会社は嫌いなの?」

自分は聞き返した.

 

「そんなことはないです.

 この会社は好きです.

 今の仕事は気に入っていますし

 いい同期にも囲まれています.

 森川みたいな飲み仲間もいますし」

 

社歴が上の先輩を

「森川」って呼び捨てるんだ.

 

「極言すると部署が限界って言うより

 直属の上司と合わないだけじゃないの?」

 

「それはありますが,

 部署全体も人と接すると言う事を

 軽視していると思います.

 そのため生産部門とも

 円滑になるどころか

 何も改善されません」

 

残念ながらこの会社には

社員に対する人事考課がなく,

異動などの希望ができない.

そのため大きな問題が起こらない限り

その場所で我慢するしかない.

 

「3つ選択肢がある.

   1つ目は現状に耐えて,頻繁に愚痴を言う

 2つ目は転職.3つ目は基準を自社の部署に

 置かない事.自分は前職ではそうしてきた.

 業界団体とかに出て,そちらの高いレベルで

 活動を行い,会社など関係なく

 どこでもやって行けるような

 人間力と実務能力をつけた.

 そして転職した.

 あなたは今いる部署のメンバーに

 目を向けるのではなく,

 高い業界基準に目を向けなさい.

 そうすれば自部署の

 低レベルなやり取りなど

 微笑ましく思えてくるはずだ」

 

自分はもっともらしい

適当なことを言った.

 

「ありがとうございます.

 考えてみます!」

 

どうせ飲み会が終わったら

忘れるだろうと思っていた.

 

その後も同じような内容の

話しがが繰り返され,

気づけば午後10時を過ぎていた.

 

「そろそろ帰りますか」

 

自分はアナに言った

 

「彼らの支払いは少なくていいですよね」

 

「あなたも少なくていいよ」

 

「ダメです!この間エルサさんの

 昇格お祝いで,私は関係ないのに

 まとめて全部払ってくれましたよね」

 

そんな細かいこと覚えてたんだ.

 

「いや,あれは1年間しっかりやってね

 という前払いで...

 ほら,今年はいつもよりも

 忙しい年度なので.

 ただできなかったら

 払ってもらいますから」

 

アナは苦笑いをしていた.

 

「ではまた機会があったら」

駅に着いた時,矢沢に言った.

 

「ありがとうございました!」

 

矢沢は酔っているのか

深々と頭を下げたままだった.

 

自分はそのまま自宅方面の

電車を目指し走って去った.

 

帰宅後アナからLINEが届いた

 

「お疲れ様でした!

 今日は矢沢さんのお話聞いて頂き、

 ありがとうございました。

 感謝しています。

 またの機会?がありましたら

 よろしくお願いします」

 

何だろうこの親心みたいなメッセージは.

どういう目線なんだろうか.

 

「お疲れ様です.

 矢沢は頑張っている自分自身を

 誉めて欲しいんだなと思いましたよ。

 だから褒めてあげたつもりです.

 それとアナさん,いつもグループの

 バランスを保ってくれてありがとう.

 感謝してますよ。

 ゆっくり休んでください。

 ではまた。」

 

返信をし,やり取りは

このターンで終わるかと思ったが,

再びメッセージが返って来た

 

「私は、どんな人でも

 自分に無いものをもっていると思っていて、

 それが羨ましくもあり、リスペクトをしています。

 そんな私ですが、調整役でも

 お役に立っているなら、よかったです。

 この間外出時,グループの3人で食べた、

 お昼は楽しかったです。

 また、お願いします」

 

疲れたけど,

何か良かったみたいだな.

 

週末はよく寝れそうだ.