デビュー曲のインパクトと、変わった芸名から「スターボー路線のイロモノか?」と思われてしまいそうなのですが、実は音楽的に結構硬派な実力派。

それが、キララとウララです。



いや、昭和アイドルに詳しくない方からすると、そもそも誰やねんってなるのかもしれませんが…

キララとウララは1984年にデビューしたアイドルデュオです。

芸能通の方ならば、このユニットの片割れ、キララ(大谷香奈子さん)が小室哲哉の最初の奥様だったという事をご存知かもしれません(ちなみに私はウララこと天野なぎささん推し)。
お二方とも可愛らしい顔立ち。
※キララ

※ウララ


井上大輔作曲のデビュー曲、『センチ・メタル・ボーイ』はイントロの「水金地下木土天海冥」というフレーズや、尖りまくりのテクノサウンド、近未来的な世界観とそれを意識したスタイリング・振り付けなどが相まってインパクトが凄まじく、テクノ歌謡好きやB級アイドル好きにはわりと高い知名度を得ています。

『センチ・メタル・ボーイ』



私は最初この曲を聴き、歌うキラウラの姿を目の当たりにした時、「嗚呼もうこれでお腹いっぱい」と思い、この曲だけでキラウラを十分知った気になり、それ以外の曲はシングル曲を簡単に聴き流す程度で、熱心に聴こうとはしませんでした。

インパクト重視の気をてらったプロデュースによって産み落とされ、コケていったタイプのアイドルだと思ったのです(アパッチの『宇宙人ワナワナ』が大好きな私にとっては、結構好きな曲だったのですが)。

2ndシングル『多感期のフラミンゴ』が、一切テクノ要素を排除した作りになっていたのも、その予想を強めました。
「宇宙的テクノ路線が失敗したから、早速テコ入れしたんだな」、と…。

※『多感期のフラミンゴ』
デビュー曲よりむしろ、こちらの方がどちらかと言えば井上大輔っぽい





ところがどっこい。

彼女達の真価は、アルバムの中でこそ、大いに発揮されていたのです。


デビュー翌年の1985年に発売された、キララとウララのアルバム『ダブル・ファンタジー』。

クレジットを見てびっくり。
作曲家には細野晴臣、EPO、井上大輔らが名を連ね、アレンジャーも清水信之、船山基紀、萩田光雄といった豪華な面子が並んでいるではありませんか。

このクレジットを観たら、本腰を入れて聴かないではいられないのが当然と言うもの。

で、実際にじっくり聴いてみたところ…

私が当初よりキラウラに対して抱いていた「気をてらってイロモノ化してしまった宇宙的テクノデュオ」という印象は、すっかり覆されてしまいました。


まず、聴いてみてわかったこと。

この『ダブル・ファンタジー』は、極めて緻密な音楽性をもって作られたアルバムです。

EPO、細野晴臣、井上大輔らというミュージシャンがそれぞれの持ち味、音楽家としてのカラーを存分に生かした楽曲を提供していますが、それらを名アレンジャー達が上質で、なおかつアイドルらしい可憐さを持たせながらの編曲を施し、アルバム全体に作曲家の個性が光りながらもアルバムとしての統一感がしっかりと保たれた作品として完成させられています。

そして何より感動させられたのは、キララとウララが楽曲の持つポテンシャルに対し、きちんと相応のパワーで応えることができていた事です。

もともと、デビュー曲の時点からアイドルとしては及第点以上の歌唱力をもっていたキラウラですが、『センチ・メタル・ボーイ』はあまり「聴かせる」タイプの曲ではないので、その実力を十全に把握することが少々困難でした。

しかし、アルバム『ダブル・ファンタジー』では、彼女達の歌い手としての魅力が存分に発揮されています。

それでは、参考として、アルバム曲の中から私が特に気に入っている数曲をレビューしてまいります。


『タキシード・ムーンで夕食を』
作曲:細野晴臣
編曲:船山基紀
作詞:岩里祐穂



チャイニーズ調のメロディーに、この頃の細野さんらしいテクノサウンドが心地好い。
船山さんのアレンジが、尖りがちなテクノ音を丸みのある音に作り変えています。
お洒落な楽曲でもあるのですが、岩里さんの作詞のおかげでキュートさもある、これぞアイドルテクノ歌謡という秀作。



『素敵なラジオ・スター』
作曲・編曲:船山基紀
作詞:売野雅勇


打ち込みの、キラキラした感じの高音が可愛らしい。ベース音がしっかりしているからこそ映えているんでしょうね。
タキシードムーンと同じ船山さんが今度は作曲まで手がけている事もあってか、タキシードムーンと通じるような雰囲気のある曲に仕上がっています。
派手さはありませんがら聴くほどに味わいがにじみ出てくる一曲。





『恋のアドリヴ』


※CD版にのみ収録されている『センチ・メタル・ボーイ』のB面
作詞・作曲:EPO
編曲:清水信之

CD版のみの収録ですが、私が1番好きな楽曲。
センチ・メタル・ボーイでキラウラを知った時、B面まできちんと聴こうとしていれば、もっと早くに彼女達の魅力に気づけたのに…と後悔。

この曲で特筆すべきは清水信之氏のアレンジかなと思います。
EPO個人の楽曲でも、数多く編曲を手がける清水氏ですが、『う・ふ・ふ・ふ』などに代表されるような、華やかなアレンジがもともと印象的な方でした。
しかし、このキラウラの『恋のアドリヴ』では、極めて繊細で、優しい音作りに心を砕いてくださっているのがわかります。

特に、「私のピアノ線が」のフレーズのあたりで、切なさのボルテージが綺麗に作詞内容と一致してピークを迎えていて、素晴らしい。
これが従来通りの、華やかさに溢れたアレンジであれば、同じ歌詞内容でも全く印象が異なったはずです。
こんな風に、じっくり聴かせるタイプの曲に仕上がっているのは編曲の力によるものが大きいと言えるでしょう。



三曲をピックアップしてご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

2人組の女性アイドルユニットは、ざっくり分類すると「声質の異なる2人組によるハモリで音楽性を豊かにしていくタイプ」(うしろゆびさされ組など)と、「似た声質の2人組によるユニゾンの親和性、充溢したハーモニーで音楽性を豊かにしていくタイプ」(ポピンズなど)の2種類に分けられると個人的には思っています。

キララとウララは後者のタイプです。

2人とも柔らかさと女性らしさが際立つソプラノボイスで、ユニゾンに聴き苦しさが一切ありません。
2人の声が、どこまでも心地良く溶け合っていく。

それこそが、アイドルユニットとしての、キララとウララのボーカル面における最大の魅力です。

『ダブル・ファンタジー』は、そんなキラウラの歌い手としての長所を良く生かした作品だったと思います。

デビュー曲で披露したテクノ要素をベースにしつつも、それを「宇宙的」ではなく浮遊感のあるサウンドに仕上げる事で、アルバムタイトル通りのファンタジックなテクノワールドを展開。
この浮遊感あるファンタジーサウンドが、キラウラの溶け合ったソプラノボイスと非常に相性が良かったわけです。


アパッチの『宇宙人ワナワナ』が大好きな私にとっては、あの尖りまくりのデビュー曲、『センチ・メタル・ボーイ』も凄く面白い曲でかなり気に入っているのですが、何せ、宇宙的な世界観×テクノ×アイドルの方程式は成功しにくい。
聴き手が曲の世界観に共感し辛いし、下手したらイロモノ感が出てきてしまうからです。

多少派手さに欠けますが、この『ダブル・ファンタジー』で展開した音楽性でデビュー曲を飾っていたら、84年はビッグネームと言えば桃子とユッコちゃんだけですから、もしかしたらもう少し、その後のセールスやメディアでの露出の量が変わっていたのかもしれません。


でも、この『センチ・メタル・ボーイ』というキレキレの変化球でスタートしたからこそ、ある意味今なお続くニッチな人気と、インパクトある爪痕を残せたわけなんですよね…。


ちなみに、現在アルバム『ダブル・ファンタジー』はLPもCDもネットオークションなどではわりと高額で取り引きされており、後年どれほど評価されているかがうかがえます。

セールス的には伸び悩んだアイドルだったとしても、アルバムがかなり作り込まれていたり、シングルでは垣間見れなかった魅力が十全に発揮されていたりするから、昭和のLP界は面白いですね。