今回は、うしろゆびさされ組のファーストオリジナルアルバム、『ふ・わ・ふ・ら』についてレビューしてまいります。



発売は86年6月5日。

2thアルバム『ANbALANCING TOY』が実験的で結構攻めた内容だったのに対し、『ふ・わ・ふ・ら』はうしろゆびならではの可愛さと遊び心、そして王道かつ普遍的なアイドルらしさが見事に両立した名盤として完成されていると言える作品でしょう。



①『SE・KI・LA・LA』


イントロからなんだかワクワクさせられる、オープニングタイトルに相応しい一曲。
作曲はゴッキー。

1番Bメロのソロパートなどを聴くと、やはりマミちゃんって歌心あるよなぁ、と思わされます。
初々しさと、清純な母性を内包した女性らしい歌声。

2番Bメロのゆうゆソロパートも聴き応えあり。
彼女は特徴あるアイドルボイスなので、ソロ名義のシングル表題曲などではなかなか伝わりづらいのですが、わりと柔軟に曲によって声色や歌い方を変えられる器用さがあります。
そんなゆうゆの歌い手としての技量が垣間見えるソロパートでもあるのではないでしょうか。

歌詞は、おニャン子クラブ色の強い、まさしく「赤裸々」な内容ですが、下品に聴こえず可愛らしさが保たれているのには、うしろゆびさされ組の、アイドルとしての品格が感じさせられます。



②バナナの涙


2thシングルのLPアレンジver。
これはシングルverの時点で既に完成していたので、正直アレンジの必要をあまり感じませんでした。
若干、LPverの方がテンポが早いです。

それはそれとして、やはり名曲だなぁと思わされる一曲。

ゴッキーがこの曲に関してはかなり音作りにこだわったそうで。

ポニーキャニオンの吉田氏が、「これは悪いけど力作。コンセプト、サウンド、衣装その他うしろゆびの路線を確立した記念すべき作品。異常に南国をディフォルメして、昆虫・植物・極彩色の鳥をSFちっくに混ぜ合わせた熱帯サウンド」とのアツコメントを、『バナナの涙』には残しています。

個人的にちょっと寂しいのは、ゆうゆがハモりの裏パートに徹していて、あのアイドルボイスの主張が少ないこと。
ゆうゆのバランスの取り方とかは、さすがだなぁと思うのですが。



③偏差値BOY


これまた可愛らしい一曲。
作曲はやはりゴッキー。
こういう、学生生活やそれにまつわる青春模様にフォーカスを当てた曲こそ、うしろゆびの真骨頂だと思うんですよね。

打ち込みの音が可愛らしさを演出しているのですが、その中に割り込んでくる間奏のサックスが小洒落ています。



④お呼びじゃないの
実質ゆうゆのソロ曲。
作曲は岩崎良美さんの『タッチ』などで有名な芹澤廣明氏。
ツイスト調の、ノリの良いメロディとゆうゆのボーカリストとしての力量が存分に発揮されている点が、この楽曲の魅力と言えるでしょう。

前述しましたが、ゆうゆは曲によって声色や歌い方を変えることができる器用さのあるアイドルでした。

ソロ名義の曲では、甘さを前面に押し出した歌声が目立っていましたが、この曲では甘さは控えめ。
深みのある歌声と、どこか力強さも感じさせる歌い方でこの曲を歌いこなしています。

しかしその一方で、2番サビ前に挿入されている「アラ?アラララ?」というセリフがいかにもうしろゆび、そしてゆうゆらしかったり。
「あっちへ行ってと振り向いたら意中の人が目の前に! 心の準備ができていない」と慌てふためく恋心の描写がとてつもなくいじらしかったり。

そんな可愛らしさや遊び心と、わりと太めな歌い方とのギャップが不思議な心地良さを演出している曲ではないでしょうか。

「私は青春ひたむき路線」「私は初恋純情路線」というサビ終わりのフレーズが大好きで、聴いては元気をもらっています。



④猫舌心も恋のうち


これぞうしろゆび! という魅力大爆発の一曲。
『象さんのすきゃんてぃ』B面で、ハイスクール奇面組のEDとしても採用されています。

恋のノウハウを方程式や教科書に喩えるのは、昭和アイドル曲においてはテンプレで珍しくも何ともないのですが、うしろゆびが歌うと学校風景やそれにまつわる心象風景に一気にリアリティが生まれ、凡百のアイドルソングとは明らかに違った楽曲として響いてきますね。

ハイスクール奇面組のED映像も素晴らしくて、授業中にこっそりラブレターを書く唯ちゃんの姿が描かれているのですが、あえて顔を映さないことで、観る側が唯ちゃんの表情を自由に想像できるような余地が意図的に作られていて、秀逸です。
 

⑤うしろゆびさされ組


デビュー曲のLPver。
これも個人的には、EPverの方が好きなんですよね。
こちらの方が音は洗練されているとは思うんですが、それ故に、EPverにあった初々しい荒削りさが多少損なわれてしまっていると言うか。

とは言え、やはり名曲であるには間違いありません。

私は、うしろゆびシングル曲の中で、何だかんだ言ってもこの曲が1番好きです。

なんと言っても、歌詞に滲み出る少女の不器用さと、デビューしたてのうしろゆびの、剥き出しで真っ直ぐな歌声との親和性が素晴らしい。

この曲のヒロインは恋をしているのですが、周りから「趣味が悪い」と想い人の事をけなされます。

それに対するヒロインの答えは、「だけど愛はいつだって答えがあるわけじゃない」。

「趣味悪いぜ、やめとけよアイツなんて」という周囲の冷やかしめいた助言に対する答えとしては、非常に曖昧で、実際のところ返答として成立していないような内容の言葉です。

しかし、この返答の不器用さ、自分の気持ちや恋の理由について上手く言えないでいるところが、むしろ学生の初々しい恋愛のリアリティを他のどの曲よりも見事に表現していると私は思います。

そして何よりこの歌詞は、アイドルであると同時に等身大の女の子、イミテイションで飾っていない女学生だったうしろゆびだったからこそ説得力をもったリリックだと思うのです。

秋元さんは「それっぽい」曲を書く天才、曲における空気感の魔術師だと個人的には思っているのですが、変に気をてらって何かの技を凝らすより、『うしろゆびさされ組』みたいに、彼本来の不器用さをもっと実直に言葉にした方が、ダイレクトに響く詩になると思うんだけどなぁ。



⑦上手な恋の飲み方


アルバムのオリジナル曲では1番好きかも。

初めて聴いた時、衝撃を受けた曲です。

地声→裏声の歌い方によって、歌詞に出てくるサイダーのような飲み物(恋)の空気が抜けていく様子を表現するテクニックと、その発想がとにかく秀逸。

地声から裏声に切り替えるのって結構難しい技術なんですが、この曲ではそれがサラッと歌われていて驚きました。

作曲は、当時イケイケだった陣内孝則氏。



⑧ジャンケンポンのヒロイン


『お呼びじゃないの』が実質ゆうゆのソロだったのに対し、こちらは主旋律を担うマミちゃんのボーカルの印象が強い一曲。
ゆうゆも、しっかりハモってはいるのですが。

この曲も好きだなぁ。

ゴッキーの魅力炸裂! って感じで、ベース音とかゴリゴリ鳴ってるし、メロディーや音質はカッコいい寄りなのに可愛くなるのがうしろゆびクオリティだと思う。

この曲をうしろ髪が歌ったら、おそらく全く違う印象になることでしょう。



⑨天使のアリバイ


これまた陣内孝則氏作曲。

ザ・ロッカーズの面影なんてまるで感じさせないようなカワユイ楽曲ですが、間奏のギターソロにしっかりロックのテイストが滲んでいて、良いスパイスになっています。

ロックとうしろゆびの世界観、そして2人の少女の歌声がここまで心地良い調和を成立させているのは、ひとえに編曲家の矢島賢さんの手腕によるものでしょう(『上手な恋の飲み方』もこの方の編曲)。



⑩象さんのすきゃんてぃ


どう考えても卑猥な歌詞なんですが、「卑猥と思う人の心が卑猥なんです〜」的な事を言われているような、太々しい開き直りをこの曲からは感じます(気のせいでしょうが)。

実際、マミちゃんとゆうゆのひたむきな歌声を聴いているとそんな風に一瞬でも思ってしまった自分が恥ずかしくなるし、その上めちゃくちゃ可愛い曲に仕上がっているから、最初の恥ずかしさもどこへやら、結局はハマってしまう。これがうしろゆびマジック。

サビ前の「カワユイ」と「よいしょ」は、当時のややマンネリ化しつつあったアイドル歌謡界に投下された爆弾だったと思っています。

それくらいのインパクトがあった。

ユルいのに尖っていて、他にない音楽性を内包しつつ、王道や正統派以上に可愛い。

うしろゆびって、そんなアイドルですよね。





以上、うしろゆびさされ組の『ふ・わ・ふ・ら』レビューでした。

皆さんは、アルバムのどの曲が好きですか?