これは2007年、とある町工場を営む家の庭先で撮影された写真である。
写っているのは1頭の白兎、グレート・チョモランマ号。通称「グレちゃん」。
彼はこの頃、バイオ系派遣社員(当時)エムコに連れられてこの家にやって来た。
しかし、その前半生は謎に包まれている。
これは21世紀の初頭を生きたある白い兎の物語である。
「グレちゃん」はエムコが庭先に拵えた高床式の堅牢なカゴに住んだ。
季節の野菜の端っこ、りんごの皮などを食べたが、しばしば生の食物よりも乾燥飼料を好んだ。
庭に土塁を築き、草花を刈り込み、時折犬の綱が届かないギリギリのところへ悠然と寝そべりそれをからかった。
2012年、ある夜「グレちゃん」は忽然と姿を消す。
住まいは整い、毛玉一つ残っていなかった。
「そこにナニカがあるからだ」
冒険に発つ彼を見送った犬にそう言ったとか、言わなかったとか。
2024年2月、とある町工場の最深部にて体長40センチほどのミイラ化した遺体が発見される。
技術士ドゥン氏の観察により、白兎グレート・チョモランマ号と判定された。
「儂が死んだら10年は隠しておけ」
そう言ったとか、言わなかったとか。

