よいですか、お館様、
昔々、ある湖の畔に立つ城に若君がおりました。
若君は元服を迎え、明日の祝いの宴で方々の城から来ている姫の中から結婚相手を選ぶことになっています。
その夜更け、若君は湖面に遊ぶ白鳥達を眺めておりました。
雲間から月明かりが差したその時、白鳥達が一羽また一羽と娘の姿に変わっていったのです。
若君はその中の一人、白い衣を纏った美しい娘に近付きました。
娘は驚いた様子でしたが、やがて身の上を語り始めました。
わたくしはこの湖の主の娘です。主は一人娘のわたくしを嫁に出したくないので妖術で白鳥の姿にしたのです。他の娘達は皆、主に差し出された人質なのです。
若君は言いました。
あなたを妻に迎えたい。この城ならお父上もいつでも会いに来られます。そうしたら、人質の娘達は皆帰してあげましょう。
今夜のことは決して人に話してはいけません。約束を守って下されば父も認めて下さるでしょう。
再び月明かりが差すと娘達は元の白鳥の姿です。白鳥達は湖の靄の中に消えて行きました。
美しい姫だったが、人が白鳥になるはずも無い、夢でも見たか化かされたのかもしれないと思いながら若君は城へ戻って行きました。
さて、翌日、宴が始まりました。
見合い相手の姫君が次々と舞を披露しますが、若君は上の空です。
そこへ見慣れぬ大尽が、娘を若君に娶せたいと黒い衣を纏った姫を連れて現れました。
大層美しいその姫は、なんと、昨夜の白鳥の姫にそっくりです。
若君はこの姫こそ我が妻となる人だと言いました。
昨夜、湖でこの姫の幻を見たのはきっとお告げに違い無い。
すると、姫は面を曇らせます。
言わないでと言ったのに、言ってしまいましたね。
若君は狼狽します。
昨夜のは夢でも幻でもなかったのか。てゆうか、本人にも言っちゃ駄目なのか。
大尽は高笑いします。
こんな口の軽いお人好しでは、この乱世、到底渡っては行けぬ。
やはり娘はやれぬな!
大尽が衣を翻すと姫は白鳥に、大尽も黒い怪鳥となると飛び去ってしまいました。
「イデ版白鳥の湖」
…前に見たのと違うようだが、
ええ、イデ版ですから。
