「今日は現場を回してきました」

 

アイドル現場に出入りするようになってから、その言葉をよく聞くようになった。「現場を回す」とは一体どういうことなのか?

 

説明しよう。

例えばある土曜日、愛してやまないアイドルグループOのライブが14時からあり、ライブを見て、その後の特典会で、愛してやまないメンバーMさんと「いやー今日も最高だった。Mてぃ、かわいかった。好きです」「ありがとうございます!」などの言葉を交わし、サインや握手やチェキ撮影をしてもらったのち、電車で1時間移動。18時から愛してやまないアイドルグループNのライブを見て、その後の特典会で、愛してやまないメンバーMさんと特典会で「いやー今日も最高だった。Pちゃ、かわいかった。好きです」「ありがとう!」などの言葉を交わし、サインや握手やチェキ撮影をしてもらう。さらにハイレベルな人たちはこれがさらに増し増しになったりするわけだが、このように丸一日アイドル現場をハシゴすることを「現場を回す」というのだ。

自分はそのような体験をまだしたことがなかった。しかし2019年春の4月27日、ついにその日がやってきた。自分が愛してやまない2大女性シンガーがライブをぶつけてきたのだ。

 

1現場目は正午から東京代官山、2現場目は17時から同じく東京の鶯谷だ。両現場間の移動は1時間弱。余裕をもって回せる時間設定ではあったが、現場回しに慣れていない自分は焦っていた。「1現場目のライブ後、特典会に参加できる余裕はあるだろうか。間に合わない場合はサインと握手と会話はあきらめざるをえない。でもできればお話したい!」と焦っていた。


■星野みちる@代官山 晴れたら空に豆まいて(←ライブハウス名)

みちるさんはVIVID SOUNDから(なんちゃって)独立後、よいレコード會社を設立した。今回は、その社長就任後の初シングル『逆光』のリリースパーティーだ。

Negiccoがライブ活動をお休みしていた3月、みちるさんにはかなり慰めてもらった。リリースイベントやライブで5回ほどお会いし、そのたびにお話させてもらった。その甲斐あってみちるさんには「(最愛の)みのるんさん」と書きまくってもらい、ようやく全アルバムをコンプリートすることができた。
 



 

ライブもチェロ吉良 都 (きら みやこ)さん、パーカッション山下あすかさんを入れ、みちるさんはボーカル&ピアノという3ピーススタイルが確立し、その編成による音はなんの不足もなくほとんどバンドのそれであり、演奏はキレキレだった。色々あって去年の後半頃から「みちるさんはもうダメかもしれない……」と正直思っていたのだが、今はよりキラキラになって、シンガーとしての輝きを取り戻してくれたように思う。

 

みちるさん完全復活の下北沢風知空知でのライブ(3/3)。

この3ヶ月後Kaedeさんがここに立つなんて想像もしなかった。

 

 

 

今回のチケットは予約開始からすぐに手配していたが、同日鴬谷現場とのダブルブッキングが発覚したときは呆然とし、行くのはあきらめようかとちらりと考えたりもした。しかしその後、ソールドアウトの知らせがあり、「やはりこれは絶対に行かねばならないやつだ。回す。回してやる!」と決心することができた。

そして当日12時半、ライブ開始。みちるさん、いつもの電子ピアノではなく、今回はでっかい生のグランドピアノ。良い音。かっこいい演奏。素敵な歌声。おもしろトーク。

 

この日のライブ。2列目だった。最高だったのである。

 

シンガー星野みちるさんを存分に堪能できた。ライブ後、時間もじゅうぶんあったので「すごい良かったです。素敵でした。(好きです。)」「みのるんさんでしたよね?(書き書き) いつもありがとうございます」と会話することができた。

大満足のライブであった。そして本日2現場目、山手線で180度向こうの鶯谷へと移動したのであった。



■「Kaedeソロ始めます。を伝えるライブ 2019春」@東京キネマ倶楽部

16時前、鶯谷に到着。東京キネマ倶楽部。その名称はSNSでよく目にしていたが訪れるのは初めてだ。古いビルディングの建物内にあるホールらしい。ビル前にはすでにたくさんのネギな人たちがたむろっていた。キャパは700人。ライブが発表されてからほどなくしてソールドアウトが報じられた。かえぽソロへの期待の高さがうかがえる知らせであり、やはりこちらも絶対に行かなければならないライブであることが判明した。

ビルの入り口付近に事務用の机が出され、ソロデビューシングル『クラウドナイン』が販売されていた。今回は購入特典として、昨年11月の中野サンプラザ Negiccoライブでバンド演奏されたかえぽソロ曲『あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)』のライブ音源CD-Rが付属される。ジャケットも素敵そうだし、欲しい。しかしどうしよう。今日はみちるさんライブ料金が当日払いで、おまけに特典会のためにアルバムも買ってしまった。ここで6枚目の『クラウドナイン』を買ってしまうとこの日の散財が1万円を超えてしまう。「現場回しは大変だぜ。やっぱりやめておこう」と決心したとき、右側から「来ちゃいました」とある人物が声をかけてきた。DMではしょっちゅうやり取りしていたが、直で会うのは1月のエビネギ以来でお久しぶりです、各種ドルヲタ北村さん(仮)だった。予期せぬその登場におったまげ、腰を抜かした。

「き、北村さん!なぜ来てるんですか?かえぽソロは全パスって言ってたじゃないですか?!」

「チケット買ったからしょうがないじゃないですか」

「しょうがない……。なんだかんだ言ってやっぱり北村さん、かえぽのことが好きなんですねぇ」

「チケット買ったからしょうがないじゃないですか!」

「はいしょうがないですねぇ。で、リリイベではお見かけしませんでしたが、今回のCDは買ったんですか?」

「買ってませんよ」

「今日は、ライブのCD-Rがオマケでつくそうです」と教え、販売コーナーを指差した。

「やれやれ、買いませんが一応見に行ってみます」。北村さんはそう言って、ゆっくりと道の向こうへと歩いて行った。

スマホを見ていると、「やあどうも。お待たせしました」と同氏が戻ってきた。その右手にはタワーレコードの黄色い袋が握られていた。

「買ってるじゃないですか!やっぱ北村さん、かえぽのこと、大好きなんですねぇ」

「売ってたからしょうがないじゃないですか!」

「しょうがない……。まぁよいでしょう。おまけのCD-R見せてください」とお願いすると、同氏は「やれやれしょうがない」と言いながら震える手で袋からCD-Rを取り出し、見せてくれた。

 

 

『クラウドナイン』の横顔が髪の毛で隠されたかえぽと対照的に、こちらは正面、俯いた表情のかえぽだった。

「素敵だ。シックでたまらないです。『クラウドナイン』は、このジャケットと対でコンプリートみたいなもんじゃないですか!ください!」

「いやです!」

「北村さんのけちんぼ!僕はコンビニのトイレに行ってきます(怒)」

「ふっ、私レベルになると、トイレ、いわゆる小ごときはギリギリまで行きません!」

先人の知恵をまた授かったが、そんな先人北村さんとはこの日はここでおさらばした。



用を足し、入場の列に並ぶと、こちらもお久しぶりです、ブログ先輩nkさんと偶然にも順番が連続だった。「お久しぶりですねぇ」とご挨拶した。

nkさんはおそらくかえぽが大々々好きだ。しかし「ネギッコでは誰推しですか?」と訊いても、毎回「みんな好きですよ。箱推しです」と仰るばかりでいつも絶対に口を割らない。しかしブログやツイッターにかえぽの写真を連続投稿したり、その挙動からもかえぽ大々々好きであることは明白だ。あるとき「nkさんはずばりかえぽ推しでしょう!」と追求したが、「そこは推し量ってください」とニヤリとするだけだった。nkさんにしても、北村さんにしても、僕が親しくさせてもらっているネギッコファンの人はこのパターンの人が非常に多い(と言っても3人)。かえぽ推しの人は、やはり推しに似て、主張が控えめで慎ましいのだろう(※)。しかしnkさんがかえぽ推しであることがこの日改めて明白になった。5階の会場へ上がるエレベーターに(一緒に乗れたけど)人員オーバーの可能性が感じられたとき、「にひひ、(かえぽ推しじゃなくて)ぽんちゃ推しの人は今日は乗れませんよ」と軽く迫害を受けたからだ!(※北村さんに関しては、「ネギッコはNao☆ちゃん以外推しです。なぜならNao☆ちゃんは私の手に負えそうにないからです!」など主張が極めて激しいので、「慎ましやか」という文字列とは対極にあることを付け加えておこう。)

整理券番号は270番台。会場に入り、前から10列目ぐらい、Negiccoライブのかえぽサイド(下手側)にnkさんと並んで立った。SEは、80〜90年代UKインディーロックの曲がずっと流れていた。定刻となり、キーボードsugarbeansさんをバンマスとするバンドメンバーが拍手をもって迎えられ、その後かえぽがしずしずとステージに登場した。アンティークな雰囲気のワンピースがよく似合っていて、あいかわらずの可憐っぷりだった。

1曲目。SEからの流れを組むように、歪んだギター音が鳴り響く。『あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)』からライブスタート。

<本編セットリスト>
01. あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)
02. めまい(オリジナル:Advantage Lucy)
03. ブルーでハッピーがいい(オリジナル:Chocolat)
04. それもきっとしあわせ(オリジナル:鈴木亜美 joins キリンジ)
05. 愛は光(オリジナル:Negicco)
06. あたらしい歌
07. 銀河絵日記(オリジナル:原田知世)
08. スウィート・リグレット
09. クラウドナイン
10. おめでとう

最近のかえぽはご本人が「緊張する〜」と言っていても、見ているこちら側にはそれをあまり感じさせない。しかしこの日は3曲目までその緊張がひしひしと伝わってきた。ギターポップ感あふれる2〜3曲目のカバーは高めの音程がメインで、ファルセットの声音に揺らぎを感じさせた。

その後バンドメンバーとのなごやかな会話をはさみ、緊張もほぐれてきた模様。そして4曲目『それもきっとしあわせ』。その歌声と凛とした表情に、シンガーかえぽの圧倒的支配力を感じた。

 

<ナタリーさん写真より>

 

MCではかえぽ、メンバーにいつの間にか話を振ってゆく。ベース千ヶ崎さんのべらんめー口調が粋だった。

「千ヶ崎さんはなおちゃんと仲良いですよね」
「あぁ、なおちゃんね、仲良いよ。人妻になっちゃったけどさ!でもさー、

〜〜〜〜〜〜〜〜(中略)〜〜〜〜〜〜〜〜

って俺こんなにしゃべっていいの?!あの人、かえぽより全然しゃべってたとかツイッターでつぶやいたりするのやめてよね!

〜〜〜〜〜〜〜〜(中略)〜〜〜〜〜〜〜〜

ところでかえぽのツイッター、面白いよね。しょっちゅう面白いことつぶやいてる」
「最近は、そんなにつぶやいてませんよ^^。最近は、もっぱら首と肩と腰がつらいです。なのでここ何日か毎日スーパー銭湯に行ってました。皆さんは行かれます?」
「僕は行かないですね。温泉旅行とか疲れちゃう」とシュガビンさん。分かる。温泉旅行はかえって疲れる。移動でヘトヘトになり夕方旅館に着いて、なんだかんだで深夜に寝て、そして翌朝10時には旅館から追い出され、また帰路でヘトヘトになる。湯につかっても、結局体は休まらず、疲れまくって帰宅する。かえぽも「あぁ、なんか分かります^^」と同意。
「分かる!疲れるよね!」と千ヶ崎さんも同意。「でも白いお湯は違うよ。あれは効き目がある。東京の黒いお湯がダメなんだよ!東京の温泉はさー、とにかく深く掘りゃー出るって思想のもとに汲み出された湯だからダメなんだよ!」

 

<ナタリーさん写真より>


「で、かえぽはマッサージしてもらったの?」
「してもらいましたよ」
「してもらいながらよだれ垂らして寝てたでしょ?」
「な、なぜそれをご存知で?」
「それはねー、勘だよ。勘!」
「ツイッター、見たんですね…」などのトークが心に残っている。

 

<可憐でキュートなかえでさん。ナタリーさんの写真より>

 


ギターのアルペジオから始まった『愛は光』も、いつもNao☆ちゃんが歌っている高音パートをかえぽが歌い、その繊細さがさらに際立っていた。


今回のメイン曲『クラウドナイン』が演奏されたあと、バンドメンバーがステージを去り、かえぽ「次で最後の曲です」と告げる。キーボードが前に出され、かえぽ作詞の『おめでとう』が弾き語りされることが分かった。

「弟が結婚しまして、今回そのことを歌ったり、文章を書いたりしたのですが、周りがおめでたいことが続いてまして……、なんかいいなぁと思いました、結婚」

静かに動揺する客席。それを察し「いやいやしないけど。まだ全然しないけど^^」という言葉で安堵させる。

「さて」とキーボードに手をかける。「うひょー、緊張するー!」と語気は朗らかだったが、リアルな緊張感がひしひしと伝わってきた。

鍵盤に静かに指を置きはじめるかえぽ。歌い出す前の休符で、「やっぱだめー、むりー!」と舞台袖に走り去っていかないだろうかと妙な心配にかられたが、それはもちろん杞憂に過ぎず、心地よい声が響き始め、約2分、かえぽひとりの世界に引き込まれた。


「以上、Kaedeソロ始めます。を伝えるライブ 2019春でした。ありがとうございましたー!」で本編終了。今日はまだあの曲やってないし、アンコールがあるのは確実。拍手と「かえぽ」コールがしばらく続いたあと、バンドメンバーとかえぽが再登場した。


<アンコール>
11. 飛花落葉
12. ただいまの魔法
13. クラウドナイン

新曲の『飛花落葉』は再びファルセットを多用する曲。このときはまだピンと来ていなかったけど、後々この曲の凄さに気づくことになる。お待ちかねの『ただいまの魔法』が歌われ、ライブ終了と思ったところに、かえぽが申し訳なさそうな表情で「最後にもう一回……、もう一回『クラウドナイン』歌っていいですか?」と客席に問いかけた。客席はもちろん大歓迎の拍手で演奏開始となった。

2回目の『クラウドナイン』は、1回目より伸びやかで祝祭感に溢れ、アウトロで演奏がさらにスパーク。ステージから紙吹雪が吹き放たれたような、大きな色とりどりの風船が客席を舞っているような錯覚を覚えた。

 

<イメージ動画>

 

 

 

 

素晴らしい演奏。素敵な歌声。素敵な曲とこれからますます増えるであろう素敵な曲たち。かえぽのソロ活動のはじまりに2019年春、現在進行形で立ち会えていることをとても幸せに思った。

 

 

 

 

 

■もうひとりの(多分)かえぽ推し

ライブ終了後、「今日は直帰です」というnkさんと別れ、学生時代の後輩杉くんと待ち合わせた。杉くんは去年1月のNegiccoの『お友達連れてきてねライブ』に招待以来、東京でのネギッコ単独ライブには必ず来るようになった。

ふたりで鶯谷のガストに行き、今日のライブの話をした。杉くんは「クラウドナイン、本当に良いですよね。かえぽの歌も、ギターの音とかもたまらないです。今日は2回目のクラウドナインが最高でした」と慎ましやかに話していた。

「で、ネギッコは誰推しなの?」。この質問を杉くんにも以前何度かぶつけたことがあった。「僕はまだそういうのはなくてハコ推しというやつです」。いつもそう答える彼であったが、今回のかえぽソロライブ、当然のごとくやって来た。生誕ライブもネギッコではこれまでかえぽだけ参加しているという事実もある。杉くんはおそらくかえぽのことが大々々好きなのだ。しかし推しに似て慎ましやかだから「かえぽ推し」と明言しないだけなのだろう。

 

ちなみに僕も、かえぽのことが大々々好きだ!みちるさんのことも大々々好きだ!しかし二人にはそれを伝えることがまだできていない。なおちゃんとぽんちゃには「大好きです」と何度も告白できているというのになぜだろう。

 

まあ理由は明白だ。自分が慎ましいというわけではない。お二人には、それを言うと困った顔をされ、妙な間ができそう。それが怖い、怖すぎる。ただそれだけなのだ。

 

 

最後にネギッコあるあるをひとつ。

「ハコ推し」と 言い貫く人は 大体かえぽ推し。