金曜の夜は一般的に、サラリーマンやOLさんが浮かれる日とされている。かつて『はなきん(花の金曜日)』と呼ばれた時代もあった。月末の金曜にいたっては『プレミアムフライデー』と呼ばれた時代もあった。しかし我々Negiccoファンにとっては、アルバム『ティー・フォー・スリー』収録曲『恋のシャナナナ』で提唱してあるとおり、「金曜の夜は、Friday Night」なのだ。


「金曜の夜」に修飾語なんてつける必要はない。その純然たる事実をネギッコファンである自分はつねにストレートに受け止め、ふだんの曜日と変わらず毎週Friday Night、特に忙しくはないが残業代を稼ぐために社畜のフリをして会社に居残っていた。

しかしこの4月の最終金曜は違った。僕は浮かれていて、ワクワクしていた。街に繰り出したら、素敵なOLさんと出会えるかもしれない!!! いや違う。シングル『クラウドナイン』でソロデビューしたNegiccoのKaedeさん(かえぽ)のサイン会があるのだ!!!

場所は吉祥寺のココナッツディスクというレコード屋さん。吉祥寺は自分の勤め先から電車で数駅。特に忙しくはないが仕事を定時できちっと片づけたフリをして、終業のチャイムが鳴ると同時に会社を出て、18時10分ごろ吉祥寺駅に到着した。

地図を見て大体の方向を定め、ココナッツディスクへ。にぎやかな街並みを通り過ぎ、車が行き交う二車線の道路の歩道を歩くこと6~7分。こんなところに果たしてレコード屋があるのだろうかと不安になりかけたとき、左手、小さな道の奥のほうにそれらしき人たちが20人ほどたむろしていているのが見えた。

ココナッツディスクはふつうの住宅地のマンションの1階にあるレコード屋だった。そのレコード屋風情は、ちょうど昭和が終わるころの東京のそれを感じさせるものだった。

 

ある日のココナッツディスクさん


 

マンションの駐車スペース奥の壁際に、(前回はいじり倒してごめんなさい)Yさんがいた。Yさんはかえぽ推しの、笑顔が素敵な好青年だ。その笑顔を見ると大体いつも無表情な自分でさえつい良い笑顔になってしまう。「やあどうも(^_^ゞ」「月曜ぶりです!相変わらずいい笑顔してますね」「いやいや、Yさんの足元にも及びません」「いやいやいやそんなことないです。しかし今日はなんか寒いですねぇ」「そうだねぇ。4月も終わろうとしてるのにねぇ」「でも雨はもう降らないみたいですねぇ」「そうだねぇ」などの会話を交わしていると、可憐なオーラが道の向こうからしずしずと近づいてくるのを感じた。

ワンピースの上にベージュ色のトレンチコートを着たかえぽが、マネージャの雪田さんとともに歩いてきた。やわらかい笑顔とその出で立ちを見て、そこにいた全員が固まった。かえぽが前を通り過ぎ店内に消えたあと、界隈が一斉に以下のようにざわついた。

「素敵OLを見てしまった」「やばい、得した」「OLかえぽ、たまらん」「本当に得した」「OL、かえぽ、ラブ」「OLなかえぽを応援します」など。

ココナッツディスクの店内にイベントスペースはない。マンションの部屋に例えるなら、1LDKほどの広さ。サイン会は少しずつお客さんを店に入れて行われるのだろう。店に入りレジで予約していた名前を告げ、CD2枚を購入し、2枚のかえぽ券を取得した。順番は特にないらしい。

サイン会は19時から開始。始まる前にかえぽからなにか一言あるはず。外にいたら聞き逃してしまう。早々に店内レコード棚の間の列に並んだ。

19時になりかえぽ登場。店内中央のCD棚の向こうに立つ。いつもの事務用テーブルなどと違い、棚は高さがあって、かえぽのお姿は肩から上しか見えない。ご挨拶などは特になく、いつの間にやらサイン会は始まっていた。高い棚の上にやや身を乗り出してサインするかえぽ。なんだか変わった光景だった。

 

 

写真中央の棚にて、かえでさんサインしてました

 

 

ぼーっとかえぽを見ていたら、いつの間にか自分の番。

「こんばんは」と言ってかえぽにCDを渡した。

「こんばんはー。ありがとうございます^^」と言って、サインを書きはじめるかえぽ。ジャケットにまず「CO…」とアルファベットを書いたことに「はて?」と思ったが、「COCONUTS DISK」という文字列を見て、合点がいった。

 

 

 

 

さて、かえぽはサインに集中しているが、ここで何か話しかけなければ、「ありがとうございます^^」「いえこちらこそどうもありがとうございます」というやり取りだけで終わってしまう可能性が高くなる。YouTubeにアップされていた、3日前の新潟ジョイアミーアでのライブ動画の感想をお伝えすることにした。

 

「『クラウドナイン』のライブ動画みました。ピアノだけだとバンド演奏と雰囲気が全然違いますね」

「あぁそうですよねぇ。確かにあの曲はとくにそうかもしれません」

 

 
 

この翌日に東京キネマ倶楽部でバンド編成でのライブがある。新潟でもピアノを弾いていたsugarbeansさんがバンマスということは知っていたが、『クラウドナイン』をプロデュースした佐藤優介さんは出ないのかな、とその点は疑問だった。質問してみよう。

 

「明日のバンドはキーボード、佐藤さんとシュガビンさんのお二人とも出るんですか」


「いえ、明日は優介さんは出ないですよ」

「あっそうだったんですね!」

「そうなんですよ^^」

「そうなんですねー。……では明日、楽しみにしてます!」

「はい、お待ちしてます^^」

 

かえぽに握手してもらい、さよならした。

 

 

店を出て、外の列に並んでいたYさんに「ではまた明日!」と声をかけ、19時20分、家路に着いた。

かえぽは相変わらず可憐だった。そして何より今日は、OL風かえぽを目撃できたことがあまりにもプレミアムだった。ありがとう、プレミアムフライデー! とっくに終わっていたと思っていたこのキャンペーン、僕は今後支持していこうと思う。