NegiccoのKaedeさん(かえぽ)がソロデビューする。その知らせは2月1日、おそらく全てのネギッコファンに驚きと喜びをもって迎えられた。

デビューシングルは『クラウドナイン』というタイトルで、4月23日にCD-Rで発売になるとのこと。作詞・作曲・編曲はネギッコファンにはおなじみのバンド、スカートでキーボードを担当している佐藤優介さんが手がける。

佐藤さんのお姿はかえぽ生誕祭などで何度か見たことがある。佐藤さんはイスに座り、両手を足のあいだに置いたまま大体いつもうなだれている。キーボードを弾くときだけ、手をおもむろに上げて鍵盤をおさえる。そして用を足すと、また両手を下ろしがっくりとうなだれる。その姿があまりにも印象的すぎて、なんだかとても変わった人なんだろうなーというイメージを持っていた。

同CD-Rのカップリングは『おめでとう』という曲。佐藤さん作曲で、かえぽが作詞初挑戦となる。

4月23日のリリースに合わせ、リリースイベントとライブの日程が発表された。まずは4月22日のタワーレコード錦糸町店でのリリイベが、かえぽソロ一発目の表舞台となる。2月半ばの沖縄でのネギッコライブ以降、自分にとっては長いネギッコ断ちの日々が続いていた。2ヶ月以上ネギッコメンバーの誰にも会わず、果たして俺は精神の安定を保てるのだろうかと不安視されていたが、星野みちるさん、ソレイユちゃん、東京女子流、ヌュアンス、南端まいにゃ、桜エビ〜ずなどのライブやイベントに行ったりしてたら、案外あっという間に4月22日(月)になった。

当日、仕事を30分早退して18時すぎ錦糸町に到着。そのひと月ほど前に新たにオープンしたパルコの、その5階に1年2ヶ月ぶりに復活したタワーレコード錦糸町店に入った。まだそんなに混んでいなかったレジカウンタで予約していた名前を告げ、CD3枚を買い、かえぽ券3枚を取得した。今日の特典会はかえぽ券1枚で握手、3枚でツーショットチェキなのだ。

これまでの自分のツーショットチェキ経歴は、Nao☆ちゃん1枚、ぽんちゃ1枚、ぺろりん先生1枚、かえぽが今回で通算3枚目となる。かえぽ独走に拍車がかかる。これは2016年12月、シングル『愛、かましたいの』の広報担当としてかえぽがひとりでリリースイベントを敢行したことがその大きな要因と言える。思えばあのときの1枚(↓)が自分にとってアイドルとの初チェキだった。
 
2016年12月18日 新宿ALTA HMVにて
 
 
レジ近くのスペースにネギ友のYさんがいた。Yさんはかえぽ推しの、笑顔が素敵な好青年だ。その笑顔を見ると大体いつも無表情な自分でさえつい良い笑顔になってしまう。「久しぶり~(^_^ゞ」「お久しぶりです!相変わらずいい笑顔してますね」「いやいや、Yさんの足元にも及びません」などの会話を交わしていると、可憐なオーラが店の奥からしずしずと近づいてくるのを感じた。

その方向に背中を向けていたYさんに「うしろうしろ」と小声で伝えた。後ろを振り向くYさん。その瞳孔がカッと開いた。

フロアの別室に向かっているであろうロングワンピースのかえぽが、やわらかい笑顔でマネージャーの雪田さんとともに歩いてきた。適当にたまっていた人の群れに自然と道が開けていった。かえぽがその道をふんわりしずしずと歩いていく。通り過ぎてゆくかえぽ。皆がその後ろ姿に見惚れた。「かわい~」「やっぱり一般人とは違う」「可憐だ」「やっぱり一般ピープルとは違う」「美しい」「やっぱりパンピーとは違う」「はぁ、好き……」などの言葉がささやかれた。

しばらくしてイベントスペースへの入場が始まった。初めて来た新しいタワレコ錦糸町店。イベントスペースは広くて、ステージが高め。自分の番号が呼ばれ、人垣の真ん中あたりに進んだ。今日は前から5列目ぐらいの位置で見ることになった。
 
待っている間にCDのビニールを剥がし、中に封入されていた歌詞カードを読んだ。そこには歌詞とともに、カップリング曲『おめでとう』に関連する文章が印刷されてあった。昔の思い出が淡々と綴られていてさらりと読めるものだったが、その結びに少しいびつな言葉が使われてあって、そこが何ともかえぽらしくニヤリとさせられた。そして自分が子供だった頃を思い出し、しばし物思いにふけった。

開始10分前。オフィスカジュアルな男性スタッフさんがマイクでアナウンスした。

「本日はタワレコ錦糸町店へお越しくださり、誠にありがとうございます。このあと19時より、Kaedeソロシングル『クラウドナイン』のリリースイベントが行われます。あと10分ほどで開始となります。もう少々お待ちください」

錦糸町店のスタッフさんなのだろうか、営業スマイルが板についていて、アナウンスがうまい。


「さあいよいよあと5分ほどでKaede登場いたします。もうしばらくお待ちください」


「さあいよいよあと3分ほどでKaede登場いたします。あと3分です。皆さん、心の準備はいいですか。あと3分、3分です。今しばらくお待ちください」


「さあいよいよあと1分。あと1分でついにKaede登場いたします。皆さん、心の準備はいいですか。あと1分です。私、派手な呼び込みなどはいたしませんので、暖かい拍手をもってお迎えください」

抑制されたお声ながら徐々に会場を笑いに包み込んでいったこのスタッフさんは、後日のココナッツディスク吉祥寺店でのリリイベと東京キネマ倶楽部でのライブの日にもお見かけしたので、ネギッコ事務所もしくはT-Palette Records関係のかたと思われる。いづれかの日に、ジャケットの下に「NEU!」のTシャツを着用されていたのが印象的だった。


さて、イベントスペース前方から拍手が沸き上がり、かえぽが登場した。美しい佇まい。やはり可憐。

「こんばんは、Kaedeです。たくさんの人に来ていただいてとても嬉しいです」など短めのご挨拶。そして「早速ですが、一曲歌います」という言葉のあとスピーカーからギター音が鳴り始めた。
 
 
 
かえぽは曲間で手持ちぶさたな感じで上を向いたり、絶賛花粉シーズンということで鼻のしたを右手でこすったり、そんな何気ない仕草の一つひとつが、やはり今日はステージにひとり、とても目を引いた。そういえば、かえぽソロ歌唱はバンドやピアノなどいつも誰かがバックにいるステージでしか見たことがない。オケをバックにしたかえぽの歌を聴くのは(自分は)初めてだった。

歌い終わり、「ありがとうございます。改めましてこんばんは、Kaedeです」とMC。「ひとりなので緊張しますが」と言いつつ、にこやかにすらすらとお話になり、言葉が途切れると「はぁい^^」とジャンポケ斉藤さん風(たぶん違う)に締め笑いを誘った。『クラウドナイン』について軽くお話してから、同曲開始。
 
 
 
 
歌い終わり『クラウドナイン』について、始まりを感じさせるワクワク感があって、すごく良い曲だと思ってますと解説。そして「次で最後の曲ですが」とのこと。客席からは「えーーー!」の声。「まあまあ、初日ですしねぇ、これからたくさんあるし、今日はこれぐらいにしておきましょう^^。では最後の曲、聴いてください。『ただいまの魔法』」
 
 
 
 
歌い終わりかえぽは「ありがとうございましたー^^」と言って、ステージ右奥の扉の向こうへと消えていった。Kaede名義で出されたシングル表題曲がすべて歌われた。全3曲ではあったが「なんて贅沢なリリイベなんだろう」ととても満たされた気持ちだった。どの曲も良い曲ばかりだ。かえぽは本当に曲に恵まれている。と言うか、かえぽの声が良い曲たちを自然と引き寄せているのだろう、と思った。


しばらくしてかえぽ再登場し、まずは握手会開始。Yさんと合流した。Yさんはまっすぐにかえぽ推しだ。かえぽのことをいつもまっすぐに「かえでさん」と呼んでいる。それがあまりにも自然なので会話をしているときは何も気にならないのだけど、時々ふと考える。「Yさんはなぜかえぽのことを『かえぽ』と呼ばないのだろう。それがYさんなりの、かえぽへの愛の流儀なのだろうか。もしかしたら『ねぇバーディア』などの曲中でのコールのときも、Yさんは『かえぽー!』ではなく『かえでさーん!』と呼んでいるのかもしれない。あれ?!でもYさん、ぽんちゃのこともさらりとメグと呼んでるよな。俺はぽんちゃ推しだけど、ぽんちゃのこと、畏れ多くてまだメグと呼ぶことができていない……。むむむ、さてはYさん、クラスのいけてる女子とすぐに仲良くなって、すぐに下の名前で呼べる類の人なのかもしれない!むむむ!」など時々思ったりしている。

チェキ会が開始となり、列に並んだ。クラスのいけてる女子とすぐに仲良くなって、すぐに下の名前で呼べる類の人なのかもしれないYさんだが、推しとの対面はやはり緊張するようだ。「緊張します」「緊張するねー。Yさん、何話すの?」「分かりません」「分からないよね。俺も緊張しすぎて、もううちに帰りたい」「帰っちゃダメでしょ」などの会話を交わすうちに列が進み、まもなく僕らの番になった。Yさんはシャツの胸のポッケに「おめでとう」と書かれたポチ袋のようなものを忍ばせていた。色々な意味での「おめでとう」を手紙に書きしたためてきたらしい。

自分の番になった。

「こんばんは」とかえぽに言って、まずはツーショットチェキした。
 
「なぜ俺がほぼセンターに?!」と思ったら、
Yさんのチェキも同様でした
 
 
「ありがとうございます」と言ってかえぽが両手を差し出してくれた。一瞬ワケが分からず戸惑ったが、握手もしてもらえるのか!と分かり、嬉しくなった。そして握手してもらいぽーっとなった。笑顔のかえぽにこう話しかけた。

「CDの中に入ってる文章読みました」

かえぽは小さく頷きながら「はぁい」と言った。

「エッセイみたいな文章が最後だけ理系になってて面白かったです」

かえぽは小さく頷きながら「はぁい」と言った。

「……ではまた!」

「ありがとうございました^^」


かえぽに手を振って、さーっとスペースの脇へ向かい、深くため息をついた。可憐なかえぽを前にし、またいつものように言葉が思い浮かばず固まってしまった。ダメだ、俺は本当にダメだ、と自分を責めた。しかしまあそんなのいつもの事と気持ちを切り替え、会場脇からYさんの状況を見守ることにした。

ツーショット後、ふたりは話していた。とても楽しそうだ。「さすがYさん。クラスのいけてる女子とすぐに仲良くなって、すぐに下の名前で呼べるような類の人(推定)はやはり違うな」と感心した。

約10秒後、Yさんは手を振りながらかえぽの前を去った。「おっとYさん、ちょっと待った!それでいいのか!?」と声を上げそうになった。まあでもYさんに限ってそんなミスを犯したりはしないはず。おそらく自分が壁際で落ち込んでる間にコトを済ませたのだろう、声を上げるのはやめておいた。

満面の笑顔で戻ってきたYさん。ミスしてないか一応訊いてみようとした時、Yさんはハッと我に返り、胸のポッケに左手を置き、右手で頭を抱えはじめた。

「あーーーー、しまった! 手紙渡すの忘れてました!」

「やっぱそうだったんだ。どうするの?」

「……スタッフさんにお願いすることにします」

その後Yさんは肩を落としながらも、申し訳なさそうにスタッフさんにポチ袋を託していた。
 
 
特典会が終わり、「今日はありがとうございました。こんなにたくさんの人にきてもらえて本当に嬉しかったです」とかえぽ最後のご挨拶。かなりの人がいたにもかかわらず、かえぽソロ初めてのリリースイベントは、開始から約1時間半で終了した。ふだんのネギッコ特典会に比べるとかなり短い。タワレコ錦糸町店から「特典会の予約枚数が規定に達しました」と早々にお知らせがあったので、かえぽ券の枚数は少なめの発行だったのだろう。その控えめでこじんまりとした感じにかえぽらしさを感じた。
 
 
 

ラーメン屋でも行こうかとYさんを誘い、ふたりエスカレーターで下り、パルコを出た。1年2カ月前、旧タワレコ閉店イベントのときに行ったことがある『真鯛らーめん 麺魚(※)』を目指し、錦糸町の通りをしばらく歩いた。(※麺魚さん、パルコ1階のフードコートにも出店されていました)

その道すがら、Yさんがこう言った。

「手紙も直接渡せなかったし、話も全然うまくできませんでした」

「そうだったんだ。すごい楽しそうに見えたけど」

「そんなことないです。みのるさんのほうが楽しそうに見えました」

「いや、俺も全然話せなかったよ。かえぽとうまく話せるまであとどれぐらい、んー、あと8年はかかると思う」

「そうでしたか、また年数が伸びましたね。僕も本当にダメでした。ダメだ、ダメだ、全然ダメでした!」

「お互いダメだったんだね。アイドルイベントのあとの飲み会を、皆さん『反省会』と呼ぶ理由が今回分かった気がするよ。これまで違和感しか感じなかった言葉だったけど」

「反省しかありません。ラーメン屋で反省しましょう。でも今日の特典会で、みのるさんはメグ(ぽんちゃ)のことがほんとに大好きなんだなってことがよく分かりました」

「はい?なぜここでぽんちゃが?」

「いつものネギッコ特典会のあとのみのるさんの笑顔が100%だとすると今日は50%でした。やっぱりみのるさんはメグ(ぽんちゃ)がいないとダメなんですよ!」

「いやいやいや、俺、かえぽのことも大好きなんだけど」

「いえ、認めません。みのるさんはやっぱりメグ(ぽんちゃ)がいないとダメなんですよ!」

いつも穏やかなYさんなのだが、その語気は珍しく強かった。YさんはまっすぐにKaedeさん推しなのだ。そんなYさんの前では、「かえぽのことも大好き」という僕の言葉など吹けば飛ぶよな将棋の駒(歩)ほど軽いものなのだろう。でも「歩」は成ったら「金」と同等なのだよ!と一瞬反論しそうになったが、今日はYさんに同意しておいたほうが無難な気がした。

「うむ、そうだね。俺は、メ、メ、メ、メ、メ、やっぱ言えない、ぽんちゃが大好きです」

「そうです。みのるさんはやっぱりメグ(ぽんちゃ)なんですよ」


そして僕らは真鯛らーめんに舌鼓を打ったあと、「また金曜に吉祥寺で!(かえぽサイン会)」と100%の笑顔で握手し、さよならした。これにより本日反省だった気持ちが完全に補完され、やっぱりそうだったかと認識できた。
 
Yさんは「今日のみのるさんは50%」と言っていたけど、僕の中でのベストな特典会は、ネギッコメンバーと握手したあとYさんとの握手で締める。これなのだ。
 
Yさん、そこんとこ理解しといてください。よろしくお願いします。