星野みちるさんを初めて見たのは、Negicco目当てに行った今年2月の湯会だった。
みちるさんは温泉の宴会場のステージに、ふんわりワンピにハイヒール姿で登場し、少し気だるげな感じで歌をうたい、ゆっくり、ふわーっと踊り、歩いていた。
 
MCでは、「星野みちる、はじめて見た人?」と客席に質問して、「はーい」と手を挙げた人に「さいて~^^」と言っていた。
 
みちるさん本人はもちろん、歌っている曲も、なんか魅力的、なんか可愛い、なんか色っぽいと、すべてに「なんか」がつく感じで、ライブを見たあとからずーっと、なんか気になっていた。
 
でもこの人に近づくのは危険。魔性の香りがぷんぷんして、一度握手でもしてしまったら最後、ライブや特典会には必ず行かねばな気持ちになり、もしも一回でもお休みしたら、次のときご本人に「あー、この前来なかったでしょ~、さいてー^^」とか言われたりして、でもそんな言葉に「覚えててくれたんだ〜」と逆に感激し、ズブズブと魔性にはめられていくような気がしていたのだ。
 
一応ツイッターはフォローした。するとみちるさんは、すぐにフォローバックしてきた。アイドルご本人にフォローされるなんて初めてだった。嬉しくはあったけど、「絶対にはめようとしている。こえー」と、やはりその魔性感におののいた。
なので情報は入りつつも、ライブや特典会の類に行くのは、あえて避けていた。
 
曲はYouTubeで何曲か聴いた。ライブで聴いた「夏なんだし」はやっぱり面白かった。
アルバムもちゃんと聴いてみたくなり、まずはApple Musicで探してみた。でも「星野みちる」で該当はなかった。
ではレンタルと思い、大体なんでも置いてある新宿のツタヤに行くが「星野みちる」はない。渋谷のツタヤにもない。
 
謎だった。これは神保町の最強レンタル屋JANISに行くしかないなと思い、ちょうど神保町に行く用事があったとき、お店に寄った。
しかしお休み。大通り沿いの9階の店舗から、昔あった場所近くの1階に移転中とのこと。
 
「私のこと聴きたいなら、買いなさいよ~^^」とみちるさんが言ってる気がした。
 
神保町に行く次の機会を待った。
しかし日増しに高まる、星野みちるさん聴きたい欲。おそらくその欲求が、自分のなかでマックスに達したであろう頃、「6月23日、銀座山野楽器で無料トークショーやるよ。遊びに来てねー」とツイッターでみちるさんから誘われた。
会社を定時に退社して、フラーっと銀座へ向かった。
 
トークショーは、山野楽器 地下1階イベントスペースで行われるとのこと。現地に着き、階段を降りた。階段のすぐ脇に、折りたたみ椅子が並べられていた。
驚愕した。横に5席 × 3列の、わずか15席。まだ7〜8人しかおらず、余裕で座れる。

「こんな近く。。。もしも目が合ったりしたら、CD買わざるをえないじゃないか〜」としばし立ちすくんだ。でも立って待つのも疲れるから、3列目に座った。
その後、徐々に人が増えて来て、後ろに一列、折りたたみ椅子が追加された。確実にネギなアイテムを着用している人もいたり、この現場も平均年齢は高い。
 
開始時間になって、右手の扉が開き、みちるさんのお姿が見えた。思ってたよりちっこい。ノースリーブの白い水玉ワンピ。首元がしまっていて、今日は色っぽいという感じはさほどなく、小動物みたいでなんかかわいい。笑顔の頬っぺがまん丸で、頬をふくらませたリスみたい、と思った。
 
司会の土橋さんという方と、プロデューサーの「はせはじむ」さんが同席。
ふたりの男性の間にみちるさんが座る。
 
ニューアルバム「黄道十二宮」がリリースされるので、そのアルバムの曲を聴きながらのトークショーという形式だった。ラジオ番組の公開生放送のような雰囲気。
 
話を聞いていると、はせはじむさんが、楽曲のほとんどをプロデュースしているとのこと。この人がブレーンのようだ。
みちるさんはAKBをやめたあと、はせさんに一緒に歌をやろうと誘われたけど、「絶対に怪しい。たぶん入会金みたいのを最初に払わせられるんだ」と思って、お母さんと散々話し合ったらしい。確かにそんな雰囲気はある。
別でもお誘いがあり、そちらは「しばらく作曲の勉強をちゃんとやる。3年間。そしたら表舞台に立てる」というもの。こちらもなんだか怪しげだけど、みちるさんご本人は「いい人でしたよ」と話す。
 
で、はせさんを選んだら、良い環境で歌もうたえて、アルバムも出せて、今に至ったとのことだった。
 
おじさん2人はおじさんらしく、セクハラトークを展開し、みちるさんにセクハラワードを言わせたがる。さてどうなる?とこちらも集中力が高まる。みちるさんは、笑顔で軽くかわしながらも、ふわーとセクハラワードを織りまぜる。軽妙だった。
 
話を聞いていくと、みちるさんは大人しめだけど、ほがらかで、ちゃんと空気を読んで話ができる人なんだなと分かってきた。
 
アルバムの曲を聴いてみることになった。「鏡の中の私」という曲。「ドラム、すげー!めちゃかっこいい」とびっくりした。Negiccoでいうところの「BLUE, GREEN,  RED AND GONE」のような感じ。でも「BLUE, GREEN,  RED AND GONE」のような近未来な感じではなく、もっとオーソドックス。
今回はCDとレコードの音を聴き比べるということで、両方で曲をかける。みちるさんを含めた3人が、その違いを聴くために、客席の横の方に立つ。みちるさんが立った場所は、おひとり横に挟んでいたけれど、自分のほぼ真横。そちらを凝視したいけど、あまりにあからさまなので、周りの皆さんと同じように前を向いて、まじめな顔で一応曲に聴き入っているふりをした。

でもその場にいた全員、音よりも、みちるさんのほうに意識がいっていたのは間違いない!


CDとレコードの両方をかけたあと、3人は前に戻り、「やっぱりレコードのほうが音域が広くていいですね」と、おじさんたちがうんちくを語る。みちるさんも「そうですねー。レコードいいですねー。私、持ってないけど」と話す。
CDとレコードの音の違い、自分はまったく分からなかった。「そんなのどうでもいいわ!」と内心、突っ込みを入れた。 

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星野みちるさんインスタより。はせさん、みちるさん、土橋さん

 

でも最近、CD屋に行って、アイドルのコーナーに行くと、レコードがかなり魅力的なアイテムに見えるようになってきた。

あるときタワレコ新宿店で、Negicco「Rice & Snow」、リリカルスクール「guidebook」、星野みちる「My Favorite Songs」のレコードジャケットが、同じ棚にならべて飾ってあり、それが何とも魅力的で、思わず3枚とも衝動買いしそうになった。でもうちにはレコードプレイヤーもないし、なによりもまず金がない。

Negiccoのコーナーには、EP盤「ときめきのヘッドライナー」も置いてあった。「今後再入荷の予定なし。お早めに!」と書かれたあったので、それは我慢できず買ってしまった。B面「さよならMusic」をプレーヤーで回して聴いてみたかったのだ。

 

今の夢は、レコードプレーヤーを買うことだ。今は1万円ぐらいでそれなりのものが買えるらしい。


しかしその後、タワレコ新宿店に行っても、「今後再入荷の予定なし。お早めに!」というPOPとともに、同じラインナップのEP盤が、以前とまったく変わらない状態で置かれてあるのが気になる。
 
話を戻し、みちるさんのトークショー。
その後もう一曲、オーケストラがゴージャスな、スイング曲「流れ星ランデブー」を同じくCD、レコードで聴く。再び隣に立つみちるさんのことが、全力で気になる自分。音の違いはまた分からなかった。
 
みちるさんは、VIVID SOUNDというレーベルからたくさんの作品を出していて、はせさんはその日、全レコードを持参されていた。シングル盤は相当な数だった。
 
はせさんが「年にシングル5〜6枚とか、全盛期の松田聖子さん並みですよね。まあ売れ行きは、100分の1ぐらいの規模ですけど」と笑いながら話す。
松本隆さんが進めていた松田聖子プロジェクトを思い出す。
「色んな曲があるけど、みちるちゃんは全部自分のものにするんだよね。リズム感もいいし、ちゃんと歌いこなす」という言葉に、さらに松田聖子プロジェクトを思い出す。
 
また、チームはせさんは、杉真理さんや伊藤銀次さんとも親交があり、ナイアガラ・トライアングルの話が出てきたりもした。みちるさんにとっては、大ベテランのたぶんすごいおじさまたちという感じなんだろうけど、はせさんはおそらく、その辺りのポップ職人を意識して、かなりマニアックなことをみちるさんを通じてやっているのだろう、と勘ぐった。
 
「今の環境で音楽ができて楽しい」と話すみちるさん。最後に今後の目標を聞かれ、「歩いてたら、星野みちると認識されて、声かけられるぐらいにはなりたい」と語った。
 
「うーん、どうなんだろ〜? 」と、現状への満足感と目標がなんか矛盾してる感じが最後にしたけど、みちるさんはかわいくて、色々な話が聞けて、楽しいトークショーだった。
 
そしてアルバムのサイン会。みちるさんが階段の横に立ち、サインをして握手している。

「行ったら、たぶん買うんだろうな、俺」と思ってはいた。店内の星野みちるコーナーの過去作品をいくつか手にして、1分ほど悩んだふりをしたが、やはり新譜を買った。最初から、みちるさんとお話して、サインをもらって、握手したかったのだ。
 
列に並び、自分の番になった。
アルバムのジャッケットは、東京の夜景が描かれた素敵なデザインだったけど、ご本人は豆粒程度にしか写っていないので、その裏面にサインしてもらった。

「お名前はどうします?」と聞かれたので、「じゃあ、”みのるん”で」とお願いした。
 

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そしてこれまでの経緯を、みちるさんと、お隣にいたマネージャーさんに話した。
「湯会ではじめてライブ見ました。ネギッコ目当てでいったんですけど。でもそれから、みちるさんのことが気になって、ずっと聴きたかったんですけど、Apple Musicにもないし、ツタヤにもないし、『聴きたいなら買いなさいよ〜^^』ってこと?と思ってました」
みちるさんは「そうです。買えってことです」と頬っぺをまん丸にして、笑顔を浮かべた。
男性マネージャーさんは、ふむふむ、なるほどと神妙に話を聞いてくださり、「あー、配信とかは積極的にはやってないんですよー」と申し訳なさそうに答えた。
 
握手してもらって「アルバム聴いてくださいね。ライブにも来てくださいね」と言われた。
「はい、バリバリ聴きます!ライブも行きます!」と調子よく答えた。
 
帰宅し、アルバムをスマホに落とし、聴いた。色んなタイプの曲があったけど、何度か聴くうちに全体的なイメージは80年代歌謡曲だなと感じ始めた。

ドラムがかっよかった「鏡の中の私」も、最初聴いたときは演奏にばかり耳がいったけど、みちるさんの歌がふわーっとそれを覆っている感じがして、自然と歌に耳がいくようになった。
なるほど、「ちゃんと自分のものにしている」とはこのことか、と思った。
みちるさんはその歌声で、すべての曲をふわーと星野みちる色に染めている感じがした。
ラジオ「ネギスタイル」でこの前Nao☆ちゃんが、「あんまりないんだけど、もしも1曲歌入れのやり直しができるのであれば、『BLUE, GREEN,  RED AND GONE』」と言っていた。「鏡の中の私」を聴いて、その意味が分かったような気がした。
 
アルバム全体をふわーと支配する星野みちる感 = 80年代歌謡曲感なのだけど、さらに何度か聴き込むと、強烈に浮き立って聞こえてきた曲が2曲あった。とにかく歌詞に耳がいき、その世界に引きずり込まれる。


「キライよ」という曲と、「もっともっともっと」という曲。


好きな男性のことを思う、女性の気持ちを歌った曲。その情念は果てしなく深い。ムード歌謡さえ通り越して、もはや演歌の域まで達していると感じた。

かつての石川ひとみ「まちぶせ」を思い出させた。
 
アルバム「黄道十二宮」では全12曲中2曲、星野みちる作詞作曲の歌があるのだけど、情念深きその2曲が、みちるさんのオリジナルだった。
 
みちるさんはこんな風に好きな男のことを思い、悲しんだりしているのかと思うと、何だかこっちがせつない気持ちになって、今すぐみちるさんの元へ駆けていって、「大丈夫だ」と抱きしめたくなってしまう。

 

 ・・・妄想激しく、失礼しました。
 
プロデューサーのはせさんですら制御できない、星野みちるさんが内に秘めたるもの。

それは魔性などではまったくなかった。純粋に好きな男性のことだけを思い、それをストレートに歌う。星野みちるさんはそういう人だということが分かった。
 
自分は結局、みちるさんの魔性ではなく、その純粋さにはめられることになった。
 
星野みちるさん、アルバム全部、聴きます。ライブも行きます。