◆小諸市と小諸版MaaS

 小諸市は浅間山南西麓に位置する高原都市。

 小諸ゆかりの文豪・島崎藤村や城下町に由来する歴史文化の街、浅間山を臨む自然豊かな坂の街というイメージが根付いている。

人口は、約4万2000人で、全国の地方同様に人口減少や少子高齢化対策が課題。

 平坦地の少なさから、工場などの誘致や市街地の住宅確保には制約がある。
 

 重要な産業となっている観光では、浅間山をはじめとする豊かな自然、高峰高原のスキーや市内8源泉の温泉、農産物や食、懐古園や北国街道などに残る歴史文化といった数々の資源を有する。


 特色的な行政施策は、「多極ネットワーク型コンパクトシティ」の構築がある。この構想は、市役所や病院など数々の都市機能を市中心部に集約するとともに、市内各地の生活拠点と公共ネットワークでつなぐもの。一度の外出で用事を済ませることができるなどの利便性向上とともに、外出や誘客の喚起による地域活性化も図っている。
 

 市民の多くは自家用車を利用しており、ほかの地方都市と同様に自動車社会。一方で市は、コンパクトシティと合わせて地域交通の取り組みも進めており、予約制相乗りタクシー「こもろ愛のりくん」を運行。

 

 愛のりくんは、サービスも好評で、利用者も増加傾向。ただし、自動車普及や新サービスへの敬遠などから、新規利用までのハードルは低いと言えない。

鉄道は、しなの鉄道とJR東日本小海線共同使用の小諸駅があるが、長野新幹線駅は設置されなかった。
 

 こうした背景がある小諸市で、小諸版MaaSの検討が始まっている。

昨年、小諸市と、ガレージ製造販売などの㈱カクイチ(本社・長野市)、事業構想大学院大学(東京都)の3者で連携協定を締結し、MaaS事業に産学官連携で取り組む体制が整った。
 

 これら事業を具現化して、持続可能な事業として展開するために人材育成や新規事業を構想する「事業構想プロジェクト研究会」が立ち上がった。研究会は、MaaSについて「ヒト・コト・モノを連結した新公共交通プラットフォームの構築」と題した発表を行った。
 

 あわせて、同社から企業版ふるさと納税の寄付と、電動スマートカートやEVバスの貸与を受けた。

これにより、MaaS導入を想定した市街地周遊のスマートカート「egg」や市内巡回線EVバス「こもこむ号」実証実験を実施。

カートとバスは、プラットフォームの役割を持つサービスサイト「こもこむ」で管理された。
 

 サイトではマップ上にカートとバスの運行状況がリアルタイムで表示され、経路上の店なども表示。

さらに、カートやバス利用による飲食店割引など、経路上のイベントとも結び付けた。
 

 今後、さまざまな目的と交通手段を連結することができれば、それらを一つのサービスとして提供が想定できる。例えばアプリで健康教室を予約すると、経路提示と乗車予約や支払いもが行われるといった運用ができる。
 

 MaaS実現には、多様な交通手段との連携やアプリの開発管理運営など多くの課題がある。

 しかし、完成すれば、交通の利便性の向上や物事の連携に起因して、生活や観光、新規事業など人々や物事をいざなう要素に発展する期待が持たれる。

 

 

◆小諸の米谷さんが「egg」試験運行

【小諸駅前に停車するスマートカート

「egg」と米谷さん】

 

 

 小諸市滋野甲在住の農業、米谷一成(31)は、スマートカート「egg」試験運行の運転手の1人。

 運行は、春と秋の金曜日から日曜日に、小諸駅や市役所周辺市街地の決められた一般道コースを周回した。

 車内にはタブレットが取り付けられ、経路上の店舗などを確認でた。
 

 米谷さんは秋、運転手含め7人乗りのカートを運転。

速度20㎞で、小回りが利くため、古い町並みの市街地も運行しやすかったという。課題は気候や自動車との兼ね合い。

 乗り心地について「テーマパークのアトラクションのよう。低速度ながら風を感じ、特に子どもたちが喜んでいた」と話す。
 

 また、低速度なため、自動車とは違った景色が見えるという。

利用者は、普段は素通りしてしまう店舗や建物などにも目を向けることがあり、話が広がるとも多かったという。
 

 カートの利用目的は、観光、地元住民の移動手段、高齢者施設利用者の散歩などさまざま。

 「小諸について、利用者と話しながら運転した。自分は移住者だが、スマートカートを通じてさまざまな資源を知ることができた」と話していた。