【仕掛け人の小諸観光局・花岡さん】

 

【戌亥とこ「初恋」ポスター】

 

 

 「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり・・・」―。島崎藤村の詩「初恋」の一節だ。

 

 小諸にゆかりある明治の文豪の詩が令和の若者に刺さる楽曲としてよみがえった。

昨秋、若者に人気のライバー(VTuber)「戌亥とこ」が歌う「初恋」としてYouTubeに公開されると話題を呼び、小諸城址懐古園には多くの若者が訪れ観光客数は昨年比1.4倍に。

 新たな手法で地域をアップデート(更新)する仕掛け人に聞いた。

 

 小諸は藤村ゆかりの地として全国的に知られて久しいが、それが通用するのはどの世代までだろうか。はたして今の若者に「藤村」や「小諸」が響くのだろうか―。

小諸市の地域ブランディングを仕掛ける(一社)こもろ観光局・企画情報戦略部副部長の花岡隆太さん(41)=菱野温泉薬師館代表取締役=は5年前、首都圏の2000人を対象に行った調査で「10代から20代が壊滅的に小諸を知らない」ことがわかり、認知度を上げる方法に思いを巡らせ続けた。

 

 

◆高校生ら流行のバーチャル
 若者の興味や流行りを調べるようになった花岡さんは、当時高校生や自分の娘の周りに教えてもらったのが、イラストで描かれたバーチャルキャラクターらがYouTube配信などを行うVTuberだった。

 元々、アニメ「あの夏で待ってる」の聖地巡礼として小諸にファンが訪れ、制作関係者らとも関りがあった花岡さんは、若者に届く方法で小諸を知ってもらうアイデアを温めた。

 

◆転機となったコロナ禍
 転機となったのは「コロナ禍」。

 「今後の観光って何だろう」、人の移動が制限される中での「観光素材を提供していかないと成り立たなくなるんじゃないか」。

どうしようと思っていた時に「そうだ、VTuberを使って楽曲作ってオンラインで配信しようと思ってたんだ」

 「まさに今やるべきじゃないだろうか」。
 「コロナ禍になり、時間はあった」と花岡さん。「コロナになったからこそできることを前向きにどうやるのか」。

 オンラインでの配信は、時機を得ていた。

動けなくても小諸をどうみてもらえるか―。

かねてより温めていたアイデアに取り掛かった。

 

◆「にじさんじ」と地域初の本格的楽曲タイアップ

 花岡さんは、多種多様なインフルエンサーのVTuber/バーチャルライバーが所属する「にじさんじプロジェクト」に問い合わせて交渉を始めた。

にじさんじ側から提案のあった6、7人の中から、動画を全てチェックするなどして、歌唱力があり人気の高い”戌亥とこ”を選んだ。

 大手事務所VTuberと地域との初めての本格的な楽曲タイアップは話題を呼んだ。

 

◆戌亥とこ「初恋」大きな反響
 ミュージックビデオ「初恋」は、YouTube上で公開されると約2時間で1万回再生超え、約1カ月でハーフミリオン(50万回)再生突破。

 SNSの告知ツイートでも関連キーワードがトレンド入りするなど大きな反響を巻き起こした。

 

◆秋になる度小諸思い出す

 「成熟産業より成長産業に投資すべきと考えた」と花岡さん。

 「VTuberは年々ふくらみはじめ、再生回数も業界の成長とともに伸び続ける。末永く小諸を知ってもらえる」。
 藤村の中でも「初恋」を選んだのは「若者に響くし入りやすい。体験として身近に感じてもらえる」と考えた。

 また「若い頃に好きだった曲はいつまでも忘れない。その人の中にずっと残り続ける」と話す。秋になる度に小諸を思い出してもらえる。
 初めての恋にゆれる少年の心を美しく描き出した藤村の「初恋」は、自由恋愛の結婚がまだ一般的でなかった明治期の若者たちに大きな反響を巻き起こした。

 

 時代を超えて、スマホから流れる「初恋」を聴きながら訪れた小諸はどのように映ったのだろうか。

 きっと”青春の1ページ”として残っていくのだろう。