【新たに発見された1918年から1932年に撮影された菅平高原。樹木が少なく草原が広がる。(所蔵・提供 岡本透)】
上田市菅平高原の「筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所」はこのほど、古い時代の絵図から菅平高原の300年前の植生の変遷を追い”当時の草原の面積”を明らかにした研究結果を発表した。
研究では、国立公園化が草原面積の減少を加速させており、自然環境の保全に結びついていないと実態も指摘している。
平成29年から行われた、同実験所の田中健太准教授らと「森林総合研究所関西支所森林環境研究グループ」=岡本透グループ長=の共同研究。
現存する古地図や航空写真などを組み合わせ、植生概況を1722年まで、草原面積を1881年までさかのぼって研究した。
具体的には、新たに発見した絵葉書の写真、古地図、文献、写真など7点の歴史資料を独自の手法で分析。
その結果、1881年当時、菅平高原には、広大な草原が広がっていたことが明らかになった。
また、県立歴史館などに所蔵されていた複数の資料から、草原面積を高い精度で復元することに初めて成功。高原全体の98%にあたる44・5㎢だったことも分かった。
研究ではさらに、同高原の草原面積と分布の変遷を追跡。
開拓や植林、草原の草を用いた肥料生産、戦時中の人手不足、化学肥料の普及による草原放棄など、様々な要因で、草原の割合は徐々に減少。
1949年の「上信越高原国立公園」指定以後、40年代から70年代に至るまで、草原の減少速度は加速した。
2010年までに88%もの草原が森林化によって失われたことが分かった。
グループは、国立公園化で原生自然を保護することによって、侵入した樹木の伐採の手入れが減ったことを指摘。
国立公園の指定では、「人手を加えることに対する支援も同時に行なわなければ草原などの二次的自然を保全できない」と新たな問題を提起している。
グループは、研究結果の論文を「保全生態学研究」2021年26巻第2号に掲載予定(10月オンライン先行公開予定)。
また、サイトで原稿を公開している。
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