「人は基本的に、自分より立場が下の人よりも、目上の人に対して気配りしがち。上司や先輩は、部下や後輩に対してあまり気を使わない傾向があるため、気づかないうちに部下や後輩の神経を逆なでする言動を取っていることが多い。それが、部下・後輩が離れていく原因になっています」
部下・後輩が上司・先輩から気持ちが離れる言動は、大きく分けて3つあるという。
1つは「見下した態度を取る」こと。下の立場の人が、最も敏感になるポイントの1つだ。「いつも通り指示を出したつもりなのに、部下や後輩から「上から目線」だと受け止められることはよくあります。自分の立場が上であればあるほど、『謙虚な態度』と『丁寧な言葉』で、人に接するよう心掛けてください」。
2つ目は、「ぶれている」「いいかげん」と感じさせること。「ぶれている」と感じさせる振る舞いの代表が、言行不一致だ。「飲み会などカジュアルな場であっても、部下や後輩はあなたの言動をよく見ています。オフタイムこそ、慎重な言動が必要です」。指示の出しっ放しは「いいかげんな人だ」と思われ、信頼を失う原因になる。「業務の意義や目的まで伝えて初めて、『指示を出した』と言えるのです。そうでないと、指示を出された側に戸惑いが生じます」。
3つ目は、「育成・指導が十分にできていない」こと。現場にすぐに介入したり、自分のやり方や考えばかりを説明したりして、部下や後輩の成長の機会を奪ってしまう上司は少なくない。本人に「教えているだけ」という認識しかない場合は、余計に厄介だ。「『やりたい』という気持ちを引き出し、仕事に取り組ませるのが上司や先輩の役目。代わりに仕事をやってしまったり、自分のやり方ばかり押しつけてはいけません」。
次ページからは、この3つの言動を具体化した「やってはいけない10の行動」を挙げた。思い当たる部分が少しでもある人は、注意したい。
■上司・先輩としてのあり方
部下や後輩を見ながら「使えないヤツが多い」「戦力になるヤツがほしい…」。そう思ったことはないだろうか。そうした考えは、口に出さなくても態度ににじみ出るもの。「自分を支えてくれている人たちがいる」ことへの感謝の気持ちを持とう。
「上司は監督役・コーチ役に徹し、“プレーヤー”にはならないのが原則です」(小倉さん)。部下の仕事の進め方が拙いからと、すぐに現場に介入するのは「上司失格」。致命的な失敗の可能性がなければ、介入はギリギリまで我慢しよう。
職場では「顧客第一主義」と言っているのに、飲み会の席で「客のわがままなんて、いちいち聞いてられないよ…」とぼやいてしまうと、周囲に「一貫性がない」と思われる可能性も。カジュアルな場であっても、軽率な発言は厳禁だ。
■相談を受ける
部下や後輩に「何かあったら相談して」と言った場合、実際に相談が来ることはまずない。「部下から支持される上司は、自分から積極的に声をかけ、話を聞く習慣を持っています」。声を掛けるタイミングは、部下が気軽に応じやすい昼食時がいい。「会社の外に連れ出した方が話しやすいものです」。
部下・後輩を指導する時に、よかれと思って「正解」を教えたり、自分のやり方ばかり説明したりすると、「押し付けがましい」と思われる。逆に「君はどうしたい?」など相手に考えさせるようにすると、「自分の意思を尊重してくれている」と受け取られ、部下・後輩から支持を得られる。話を聞く時は、相槌を打つなど、「聞き役」に徹するのが望ましい。
■指示を出す
「仕事だから」「給料をもらっているんだから」という正論は皆、分かっていること。「正論を押しつけるのは“最悪のマネジメント”です。『それでもできない事情』を抱えた人がいるのが職場。それに気づき、適切な対応を取るのが、『部下から選ばれる上司の役目』と心得ましょう」。
「指示通りに部下が動いてくれないのは、指示を出した上司に問題がある可能性もあります」(小倉さん)。「指示が自分の意図通りに伝わっているか確認することも、上司の仕事です。それをせずに、部下が失敗した時に叱責すると『いいかげんなうえに責任転嫁する人だ』と思われます」。
部下に対して「これをやってもらいたいが、できるか?」など、“二択”で仕事を頼んではいけない。上司の依頼に「NO」と言える部下など、ほとんどいないからだ。「仕事を押し付けられている」と思われることさえある。「やる/やらない」よりも、部下の意見を聞いたうえで、頼みたい。新規案件で部下が不安に感じている場合は、今後の方針について話し合うなど、仕事の進め方について話し合うチャンスにもなる。
■ミス、失敗時の対応
「原因の追及は上司の“本能”です。しかし、部下の本能は『追及から身を守ること』。執拗な原因追及は、傷口に塩を塗るだけです。そのうち反省すらしなくなり、反発されるだけ」。事態を把握したいなら、「起こったことを時系列で教えて」と聞けば充分だ。事態を把握したら次は、「これからどうするか」という対応策に話を移そう。
失敗の原因をすべて、部下や後輩の能力のせいにしていないだろうか。たとえ口に出さなくても、そうした気持ちはすぐに態度に出てしまうもの。自分のマネジメントは十分だったか、部下との意思疎通は十分だったか、振り返ってみよう。
小倉 広さん
Hiroshi Ogura
組織人事コンサルタント。リクルートなどを経て独立。管理職向けにマネジメントスキルを指導している。著書に『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』(日経BP社)ほか多数。
[日経ビジネスアソシエ 2015年9月号記事を再構成]
日経新聞2015/11/7の記事より引用










