「少子化の一番大きな原因は、望めば結婚をして子供を持ちたいという世代に十分な経済的報酬が行きわたっていない」

(注1)経団連の十倉会長

 

「経済的な理由で結婚しても子どもがいらない、少なくてもいいと考える人が増えている」

(注2)日本総合研究所

 

「賃上げや雇用の安定で、若い世代の将来不安を和らげることが必要だ」

(注3)第一生命経済研究所

 

現在、このような見解が社会全体をリードしているようです。

 

いや、子どもを持たないというのはお金の問題じゃないでしょっ、と反論する人がいたらそれは時代錯誤でしょうか?

 

確かにお金はかかりますよね、本当に、莫大な金額が!

親は想像以上のお金を費やして私たちを社会立ちできるまで育ててきたのです。

親の経済力のおかげで独り立ちするまで生きてこれた。

親から子への愛情も、その過程についても、どれだけお金を費やすかで成り立つという視点があるのも否めないと思います。

 

では、人は経済的に恵まれていたから生きてこれたのでしょうか?

 

子を持つ意欲が減っているのは生活費や教育費などの負担が重いからと一般的に信じられています。

子を持つ意欲が無い、という気持ちは夫婦の価値観も大きな要素だと私は思っています。

子どもを持ちたいかそうで無いかという想いは複雑なことがいろいろと関係することはわかりますよね。

なにしろ一人の人間を育ててゆくということなのですから。

 

ここでは主に

「夫婦が抱いている親子の人生の価値観」

ということにフォーカスを当ててみました。

 

現代の少子化は主に経済的理由による、という認識が一般的になっているようです。

この「経済的理由」の意味は、子どもが国内で人並みに生きてゆけるために必要不可欠な程度、という意味なのだと私は理解しています。

 

収入が充分無い、または見込めないから妊娠、出産、育児、教育ができない。

もし経済的に難があったら自分もこどもも不幸になると思っている。

だから子どもを持つという決断に至らない、とかいうレベルではなく、自らの人生を守りたいという心情もあるでしょう。

 

いくつもある原因の中であくまでもほんの一つの視点ですが。

 

でも、だとしたら、経済的報酬を充分に得られずして子を持った親と子は幸せにはなりにくいのでしょうか?

 

親の経済力があれば親子とも幸せに生きられる可能性が高いのでしょうか?

 

幸せかどうかそういうことではなく、何か別な価値観があるのでしょうか?

 

親の人生のいくらかを費やすこと、つまりお金も時間も精神的エネルギーを費やすことをどう考えるのでしょうか?

 

子どもを持ち、育ててゆく過程での困難や幸せをどう解釈するのでしょうか?

 

教育と言う視点で見るなら確かに親の経済力と子の大学卒業率は関係しているというデータはありますが、大卒歴と人生の価値は直結するのでしょうか、だとしたらどれくらい?

 

一方で、私の母は離婚後ひとりで僕と妹を、6畳間と2畳のアパートで育てました。

お風呂は無かったけど、ほどほどの安らぎはあった。

生活保護という制度によって生かされていたことが後になって分かりました。

 

私の妻が妊娠したその後、私は小型機のパイロットの仕事を辞めました。

安定とベター収入のリムジンドライバー専属になりました。

当時の私たちは子どもを持つことの不安も希望も共有していましたが、お金のことでは大口論になりました。

 

でも、

お金が無いことを理由に子どもを持つことが容認されないような社会にはなって欲しくはないです。

 

人は本来、人間関係や社会環境によって、希望も、安心感も、満足感も自己肯定感も感じられるはず。

経済力も大きく影響しますが、お金の価値は通常は金額としての価値以外にはありません。

お金の力で得られるものは多いです、大きいです。

お金では買えないものも多いです、大きいです。

 

お世話になっていた産婦人科医が私に言いました。

「今の社会、お金なくして幸せなんてあり得ないですよ!」

 

私たちが毎日を暮らしている社会環境の中では、

いじめや犯罪などの恐怖も存在するし、

事故、心身の病、災害などの不安もあるし、

自分の存在価値が低いとか、個人の努力が報われにくいとか、希望が無いと感じたりもするし、

そういうことを実感するなら、子どもを育ててゆきたいという意欲はマイナス方向に傾くのは自然だと思います。

 

少子化の原因について考えるなら、生まれてくる子の将来の展望が明るくなくて、例えば理不尽なつらい体験をするなら、不幸に陥りやすいとわかっているなら、子を持たないという選択をする、とかそういう単純な思考だけでもない気もします。

 

親にとって辛いことは、子に好きなことをさせてあげられないこと、好きな物を与えられないこと、という気持ちを友達ママから聞きました。

こういったことを先輩ママから聞いて育った夫婦が、それなら生まないことを選択する、というのもうなずけます。

 

しかし、それらのネガティブ面を和らげるのに最も単純で即効性のある方法のひとつがお金の力だということが、大方の見解のようです。

もちろん、子どもを育てることが、経済力だけで上手くゆく訳がないことは誰でも承知していますが、

「いまできること的」

な経済的な対策を政府や自治体は考えているのでしょうね。

 

また、夫婦に

「いくらあったら子どもを持ちたいと思いますか?」

と聞くのは的外れな気もします。

 

育った世代が違う大人が現代の少子化についてもしも、

「経済力が豊かでないなら、子どもに塾も習い事も行かせずに、スマホも与えずに育てたって幸せな人生を歩む方法はいくらでもあるでしょう」

こんなふうに言ったとしたら、それはどういうことなのでしょう?

 

政府や、経済界が考えていることは国や経済の発展というような漠然としたことだけでなくてこういうことでしょうか?

「子どもを持つということが、社会から賞賛され、他人から高評価され、親子共に幸せに生きてゆくための、効果的な対策とはなんだろう?」

 

私自身その考えはあります。

それは純粋な人間の本質でありとても単純なこと。

でも現代社会の価値観では実行するのは難しいこと。

 

ところで、子どもを持ちたいと思っている夫婦で、

お金があっても子どもを持たないかもしれないし、

お金が無くても子どもを持つかもしれない、

人生ってわからないものです!

 

(注1)2023年6月1日、NHKニュース「おはよう日本」

(注2)2023年6月3日、読売新聞、日本総合研究所の上席主任研究員・藤波匠

(注3)2023年6月3日、読売新聞、第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミスト