自由貿易協定(FTA)と原産地規則 | ideamngのブログ

自由貿易協定(FTA)と原産地規則

これまで日本とフィリピン、日本とマレーシアのFTA交渉について何度か書きましたが、FTA自体に対する説明がまだしていなかったので、ここでしておきたいと思います。

日比FTA交渉に見る日本の強気外交
追記:日比FTA交渉に見る日本の強気外交
日本・マレーシア間のFTA交渉における農業分野の合意について

自由貿易協定(Free Trade Agreement)とは戦前のブロック経済のようなものを起源とするもので、もともとは同盟国間のみで有利な条件で貿易を進め、利益を分かち合うというような性質をもっていました。

しかし戦後WTO体制が構成される際に、FTAはたとえ二国間であっても無関税で貿易制限措置のない地域を増やしていけば、多角的な交渉において関税引き下げにプラスになるという理念の下に、協定締結前より貿易制限的にならないことなどの条件をつけて再構成されることになりました。

今ではFTAは最恵国待遇、内国民待遇を基礎とするWTO協定24条に明文の規定があり、自由貿易を促進し得るものであるとされています。

ではFTAの内容に入ります。

FTAは二国間もしくは数カ国間で協定を締結し、協定締結国の間で他の国に対するよりまた他のWTO締約国に対するよりも有利な貿易条件を設定することを主な目的としています。

またFTAには昔から協定締約国と協定非締約国との間の関税について二つの方式が存在しました。

一つはFTA締約国が足並みをそろえて域外共通関税を設定する方式であり、もう一つはそれぞれの国が異なる関税率を域外に対して設定する方式です。

域外共通関税を設定する方式は協定締約国間の繋がりが強固になりますが、それぞれの国は自国の関税自主権を放棄しなければならず、またあるFTAの締約国が他のFTAの締約国になるときに域外関税の適用をどのようにするか等で問題が発生するために、独自に他の国との貿易交渉を進めることができなくなり、常に同じFTAの締約国と共に他の国との交渉を進める必要に迫られるために不便な点が多いので、あまり一般には普及しませんでした。

したがって日本が進めているFTAも含めて現在のFTAはそのほとんどが域外共通関税を設定しないFTAの方式をとっています。

しかしながら、域外共通関税を設定しないFTAにも次のような問題がありました。

例えばA国とB国、B国とC国がそれぞれ別のFTAを締結しているとき、域外共通関税が設定されていないとA国からB国に無関税で輸出された製品がさらにB国からC国に無関税に輸出され、A国とC国はFTAを締結していないにもかかわらず、B国を経由することでFTAが締結されているのと同じ状況になってしまうという問題です。

この問題を解消するために考え出されたのが原産地規則です。

原産地規則とはFTAの特別な関税率を適用するのは、FTA締約国内で生産されたものに限るという考え方です。

実際の適用上では原産地がどこであるかは、当該製品の価値の何%以上がFTA締約国内で付加されたかによって判断されます。

この何%以上の価値が付加されたかという割合はそれぞれのFTAによって異なりますが、基本的には50%から60%程度に設定されているようです。

したがって日本のような原料を輸入して製品を輸出する国においてFTAの恩恵を受けるためには自国内で何%の価値が付加されたかを常に考えなければなりません。

またこのFTAや原産地規則は基本的に属地主義によっているので、海外拠点で生産した日本企業の製品は日本が締結したFTAの恩恵は受けられないことになります。

このような原産地規則が考え出されたことで複数のFTAが共存できることになり、各国は独自に貿易交渉を進めることができるようになりました。

しかしながら原産地規則によって各国の関税率はさらに複雑化し、より制限的になったことは否めません。

もし域外共通関税を設定するようなFTA交渉が世界中で進められたら、FTA締約国が増えるにつれて自由化された貿易地域が拡大することになり、すべての国がFTA締約国になった時点で世界的な自由貿易が実現することになります。

しかしながら域外共通関税を設定せず原産地規則によってFTAの関税が適用される国を制限する方式では、たとえすべての国がFTA締約国になったとしても、自由貿易は実現しません。

むしろいくつのFTAを締結しているかによって、国際的に貿易活動をする上で有利になったり制限を受けたりするようになってしまいます。

近年各国は自国に有利な貿易地域を拡大するためにFTA交渉に力を尽くし、多角的な自由貿易を進めるWTO交渉の方があまり進展しないという状況になっています。

各国が自国産業のためにFTA交渉に力を入れるのは良いとしても、最恵国待遇と内国民待遇に基づく本当の意味での自由貿易を実現するために各国はWTO交渉により力を注ぐべきであると考えます。

日本は昔から戦前のブロック経済の影響を受けた経験からか、地域間の自由貿易交渉よりも世界的な多角的貿易交渉に力を注いできました。

しかしながら近年のWTO交渉の停滞と各国のFTA交渉締結に向けた動きの活発化により、日本もまたFTA交渉に力を入れるように方針転換を行ないました。

世界中の国、特に経済的にある程度発達した国は今多角的な貿易交渉から背を向け、地域間の自由貿易交渉に向かっています。

自国産業保護のために地域間のFTA交渉を進めることは仕方ないとしても、各国はFTAの理念を忘れず、多角的貿易交渉の進展に、より多くの力を注ぎ世界的な自由貿易の実現に尽力するべきであると考えます。

FTAが世界中に乱立することは地域間の経済対立を生みかねません。

そのような事態を避けるためにもWTO交渉の更なる進展に期待したいと思います。