JAにはどう話がいっていたんだろう。今まで通されたこともなかった来客用会議室にはすでに部会長たちが顔を揃えていた。彼らは、七瀬が持参した見積書を手にした先から広げはじめる。
外注である自分には金額に関する権限は一切ない、そうはっきりと明言した上で、この席で出た要望を三谷にバックすると伝えるしかない。七瀬は、同席した亮子を目の端に留めながらそう腹を括った。
「うちの部は、売り上げからもいっても、まあ、総額の十%がいいところでしょうな」
「ここはひとつ、柑橘部さんにがんばってもらいましょうか。なんたって、花形商品いっぱい抱えてますからなぁ。ハッハッハッ」
柑橘、花卉、野菜、製茶、米穀と、格幅はいいが、どこか緊張感を感じさせない部会長たちの話は、すぐにこのプロジェクト費の賦課金の駆け引きに移り、七瀬を傍観者の立場へ追いやった。
あらためて見積書を見てみると、そこには一目瞭然、上乗せられた数字が並んでいた。デザインやコピー、撮影などの制作費、印刷代、web関連の費用を加えた総額は軽く二千万を超えていたが、部会長たちは、広告の実勢価格というものをまるで知らないのか、誰も値切ろうとする気配すらない。
日々、販売競争とコスト削減に身をやつしている民間企業では、見積書を出せば、「高い!」というのが挨拶代わりになっているご時世を思えば、三谷がJAを大切にしてきた理由が飲み込める。
印刷物担当ということで呼ばれたのだろうが、亮子もまた七瀬同様、この席ではカヤの外に置かれていた。彼女は周囲の喧噪に気を奪われることなく、ただ黙々と見積書に視線を落としたままでいる。そんな彼女にひとたび意識が傾くと、男たちの声がしだいに遠ざかっていって、七瀬は何度も亮子を盗み見した。二人だけで何度も会ってはいたが、その時、彼女のことを観察する心の余裕などなかったのだ。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
15年前の2001年が舞台の古いお話です。