山田隆文の歯医者さん日記

 同じではないが、昨日抜いた親知らずはこんな感じ。
 上顎で、まだ、完全埋伏。
 口腔内に顔は出していない。
 一応まっすぐ。

 医学的には、抜歯の対象ではない。
 まっすぐ生えれば使った方がいいのはもちろんだ。
 もし、他の歯がだめになった場合には、移植という手もある。

 さて、昨日の歯は矯正からの依頼。
 上顎の7番の根尖をトルクをかけて遠心移動をしたいので、じゃまになる。
 下顎が曲がっているので、抜歯しているから、生えても使えない。

 これは、理解できる。

 さて、問題がある。
 7番にバンドがしっかりはまっている。
 完全埋伏歯なので、切開も縫合もいる。
 もしかしたら、骨もいじる。
 切開線の上に金属のバンドが邪魔をしている。
 切れない。
 縫えない。
 さらに、その隙間から感染などの機会がある。

 私は矯正医に訊いた。
「本当に、今、抜くんですか?」
「お願いします」
「どうして、今なんですか?」
「早く動かしたいんです」
 (これは、術者側の考え)
「バンドを外してからではいけないんですか?」
「(切れ気味に)今日、抜いて欲しいんです!」
「矯正の親知らずの抜歯は、何か、いつ抜くというエビデンスはあるんですか?」
「ありません」
「では、どうやって決めているんですか?」
「歯を動かすのに邪魔になるからです」
「それは、あなたの考えですか、それとも医学的な判断ですか?」
 まあ、矯正医の考えでしょうが、それは言わずに、かなり切れた声で……。
「早く動かしたいんです!」
「エビデンスないんですね……?」
(矯正医、わなわな)
「でも、感染などの問題からバンドが邪魔です」
「取ればいいんでしょ!(捨て台詞)」

 をいをい!

 口腔外科では、こう考えます。

 メリット>デメリット。
 もちろん抜けます。

 でも、メリット<デメリット。
 これは、抜きません。

 だから、親知らずを見たらこう判断をします。

・感染は?
・下歯槽管との位置関係は?
・骨の厚みは?
・上顎洞に落ちない?
・骨との癒着は?
・全身疾患は?
・アレルギーは?
 ……

 もし、その歯を抜くことで、その歯があることで起こる問題よりも、おおきなデメリットやリスクが起こるとしたら?

 これは、医療ではありません。

 矯正の先生。
 一度、自分で歯を抜いてみて下さいね。
 いわんや、一度、自分の歯を抜かれてみて下さいね!
 患者さんの気持ちを知りましょうね。