山田隆文の歯医者さん日記

 変化する。
 これは、世の中の常です。
 一個の種が、根を出し、芽を出し、葉を出して、成長して、つぼみを作り、花が咲き、花が枯れ、実を結び、種ができて、新しい世代が育つ。
 卵がかえり、幼虫が成長し、サナギになり、蝶になり、卵を産む。
 春が来て、夏になり、秋になり、冬が来て、また春が到来する。
 当たり前のことですね。
 時は、刻々と変化していきます。
 世界も、刻々と変化をしていきます。
 一瞬たりとも、立ち止まったりしません。

 人の心を除いて……。

 人は、何を握りしめているのでしょうか?

 だから、仏は、様々な姿に形を変えて、ありとあらゆる方便を使い、わたしたちに本当の姿を示そうとします。

 でも、なかなか、私たちの凡庸な心には響いていきません。
山田隆文の歯医者さん日記

 わたしたちは、いやでもアイデンティティの階段を上がってきました。
 第5のステップの終点まで来たら、今度は、自分の意思で、その先を探さなくてはなりません。
 とたんに、変化が怖くなります。

 私の部屋に来る学生さんたち。
 今、国家試験のための勉強で一生懸命です。
 「ずーっと、学生でいたい!」
 なんて言っています。
 「卒業したら不安。」
 「歯科衛生士として、やっていけるんだろうか?」
 そんな気持ちもあります。
 そして、もちろん、新しい世界に踏み出す「わくわく」もあります。
 面白いですね。

 そんな、学生さんたちの、芽を、すばらしい花が咲くように育てていきたいです。
山田隆文の歯医者さん日記

 さあ、問題は、そこで怖じ気づいてしまった人たちです。

 変化を望みません。

 だって、住み慣れた環境がいいんです。

 こんな例を書くと、ちょっと、不謹慎になるかもしれませんが、お許し下さい。
 地震で家を失いました。
 たくさんのニュースを見ました。
 ある人は言います。
 「新しい人生を探さなくちゃ」
 別の人は言います。
 「どうしたらいいんだろう」
 こんな人も居ます。
 「また、元の生活を取り戻したい」

 どれが正解なのでしょうか?

 時間も空間も変化します。

 過ぎ去った、どこかの時間のどこかの空間に、いつまでもとどまっていることはできません。
 昔とった杵柄と言うことは、残念ながら、人生には通用しないんですね。

 自分の人生を振り返ってみて下さい。

 私の子供の頃。
 まだ、家の前の地面は、土のままでした。
 仲良しの犬だって、放し飼いです。
 家の電話は、ダイヤル式の黒電話。
 テレビだって、もの心ついて、ようやく、カラーになりました。
 中身は、真空管です。

 ほんの数十年。
 携帯電話も、鞄みたい大きさからあっという間に小さくなって、スマートフォンになりました。
 真空管で、ビルみたいな大きさのコンピューターは、今では、タブレットで持ち歩きができます。
 リニアモーターカーができて、宇宙に人が飛び出す時代になりました。

 自分の生活は、どれくらい変化をしましたか?
 気がつかないうちに、人類の歴史の中でも、加速的な変化の時代に住んでいますね。

 でも、心だけが、変化を求めていません。
 面白いですね。
 心だけが、過去に生きています。
 そして、変化を恐れています。

 でも、否応なしに、変化は訪れます。

 学生さんは卒業をします。
 仕事についていれば、転勤があるかもしれません。
 転職があるかもしれません。
 結婚もあります。
 子供が生まれます。
 やがて、子供が成長をします。
 あなたは、その、子供の成長を通して、時間の流れを知ります。
 そして、いやでも、定年の年になります。
 さあ、あなたの、自由な時間が訪れます。
 何をしてもいいんですよ。
 もう、仕事をしなくてもいいんですよ。
 仕事の愚痴も、同僚の愚痴も、言わなくてもいいんですよ。
 仕事の締め切りで、時間に追われることもなくなりました。
 こんなすばらしいことがあるでしょうか?

 さあ、何をしましょうか?

 そのときに、あなたに、やることがありますか?

 学生さんに聞きます。
 「休みの日には、何をしているの?」
 こんな答えが返ってきます。
 「昼まで寝ていた」
 「ゲーム」
 「カラオケ」
  ……

 もう一度考えてみましょう。

 「あなたの、一番したいことは何ですか?」