ノーベル賞を受賞された山中教授。
 インタビューでそんなことを言っていた。
 まあ、事実である。
 テクニックは、こうである。
 細胞に、あらかじめわかっている遺伝子を、大腸菌のプラスミドなどを使って増殖させて、ファージ(ウイルスのひとつ)などを使って入れてやるのである。
 私が大学院の時には、試薬を一個ずつ作らねばならなかったが、今は、本当に、ちょっと勉強すれば、高校生でもできる。
 私の場合には、癌遺伝子を探していた。
 ただし、P2というレベルの実験室が必要なので、さすがに、高校の理科室では難しい。
 でも、DNAを取り出すだけなら、台所セッケンとアルコールなどがあれば、何とかなる。
 本当である。
 DNAなどの遺伝子のプリン体が、痛風の原因。
 だから、煮物や鍋物の汁の中には、たくさんプリン体が出ているのである。
 でも、毒のあるものは美味である。
 もちろん、言葉の毒はのぞく(笑)。

 今では、指紋からでも、ミイラ化でもDNAを採取できる。

 さて、この細胞。
 万能細胞と呼ばれている。
 でも、勘違いをしてはいけない。
 
 ある、遺伝子から蛋白などを作る。
 それだけでも、何十、何百という遺伝子やタンパク質が、複雑なネットワークを作って、プロモート(スイッチを入れる)たり、抑制したりしている。
 それが、いくつもの、安全装置の上になりたっている。
 NHKのピタゴラスイッチをさらに複雑にしたと思えばいい。
 昔はやったMYSTなどのゲームのようだ。
 あっちのスイッチを入れて、こっちのスイッチを切って、バルブを回して……。
 でも、どこか一つが狂うだけで、問題が起こる。
 難病になったり、癌が発生する。

 さて、普通は、受精卵からさまざまな遺伝子が順番に働いて、皮膚や神経などの細胞になった。
 初期の遺伝子は、染色体の深いところに巻き取られ、使えないようになっている。

 その初期の遺伝子を導入することで、分化した細胞が幼若化する。
 リセットである。

 ただし、強制リセットである。

 問題はここ。

 iPS細胞は、寝ていた遺伝子のスイッチを入れたのではない。
 無理矢理、ハッキングして、横から遺伝子を突っ込んだのである。
 もちろん、はじめの遺伝子は、予定された正しい位置にある。
 でも、あとから入れた遺伝子が、46本もある染色体の、どの位置に入り込んだかはわからない。
 遺伝子は、ただ、適当に並んでいるのではない。
 ちゃんと、順番性もあり、その前後の遺伝子と複雑にからんでいる。
 逆に読んだら、別のタンパク質になるなんて、回文みたいな遺伝子もある。
 だから、適当な位置に入ってしまえば、適当な反応が起こるかもしれない。
 その、長期の報告はない。

 今、危惧されているのは、癌遺伝子などを活性化しないか?
 もちろん、そのための細心の注意は払ってはいるのだが……。

 まあ、今回は4種の遺伝子。
 でも、組合せは無限にある。

 さらに、蛋白をコードしない遺伝子もある。

 実際、なぜ、顔が顔になるのか?
 まだ、そんな遺伝子は発見されていない。

 もちろん、一つの可能性を示した貴重な方法である。

 あとは、安全な組合せを発見できるか?
 そして、本当の意味での、すべての遺伝子の役目と、その複雑なネットワークを解明できる日の来ることを祈りたい。