山田隆文の歯医者さん日記

 あなたが、望んでも望まなくても、最終ステージです。
 この人生ゲームは、時間制です。
 人生は、80数年。
 頑張っても、100数十年。
 タイムアウトは目前です。

 このステージで学ぶのは、「成熟期」です。
 「老年期」ともいいます。
 あなたの感じるのは「自我統合感」です。

 あなたは、あなたの人生を振り返っています。
山田隆文の歯医者さん日記

 あなたは、ステージ1からステージ7まで、大人の階段、登ってきました。
 すべての、経験をしてきました。
 良かった事も、悪かった事も、すべて、あなたの糧になります。
 人生の総まとめの時期です。
 そのなかで、あなたは人間的な円熟を迎えます。
 こころの平穏が得られたでしょうか?
 心理的な安定が得られたでしょうか?
山田隆文の歯医者さん日記

 そんなお年寄り。
 老健施設でも、みんなのお気に入りです。
「……さん、かわいいわよね」
 もちろん、あなたにとって、人生にはいろいろなイベントが発生しました。
 でも、あなたは、そのすべてを学びの機会として、ポジティヴにとらえる事ができました。
 だからこそ、今のあなたが居ます。

 えっ?
 学べなかった……。
 あなたは、絶望と、嫌悪感の中にいます。
 後悔と挫折感の中にいます。
 あるのは、<怒り>と<むなしさ>だけです。

 あなたにとって、人生はどんな意味があったのでしょうか?
「私の人生はなんだったんだろう……?」
 探しても探しても、答えは見つかりません。
 目の前には、施設の天井。
 鼻には管。
 足腰は弱り、自分で歩けません。
 ときどき、誰かが来て、管から食事を入れていきます。
 ただ、お腹がふくれます。
 充実感なんてありません。
 生きている実感もありません。
 嫌だというのに、無理矢理、歯を磨かれます。
 抵抗しても、力ずくで口を開かれました。
 嫌だというのに、無理矢理、お風呂に入れられます。
 誰も来てくれません。
 たまに、ボランティアの人が、変な格好をして、笑わせに来てくれます。
 でも、笑えません……。
 ……。

 大丈夫。
 まだ、間に合います。
 ちゃんと、チャンスは用意されています。

 ある日、ボランティアの人があなたのベッドの脇にやってきました。
 これまでのボランティアは、ただ、あなたを笑わせようとします。
 無理矢理、歯みがきをします。
 でも、何か違います。
 あなたの手を誰かが握りました。
 ただ、握っているだけです。
 優しい手です。
 大きな手です。
 温かい手です。
 柔らかい手です。
 気持ちがいいです。
 なんだか、力が伝わってきます。
 あなたは、そっと目を開きました。
 笑っている目がありました。
 その目を見たら、涙がこぼれてきました。
 あなたの心の壁が、消えていきます。
山田隆文の歯医者さん日記

 ポール・ギャリコの「雪のひとひら」では、最後のシーンで、こんな声が聞こえました。
 『おかえり』

 前にも紹介した、こんなお話もあります。
 「ペール・ギュント」です。
 ヘンリック・イプセンの戯曲です。
 それを、グリーグが劇付随音楽にしました。

『母オーゼと暮らしているペール・ギュント。
 彼は、怠け者。
 しかも、ホラ吹き。
 ある日のこと、パーティ会場で、清純な乙女ソルヴェーグに出逢います。
 彼女は、ペール・ギュントに一目惚れをしてしまいました。
 ペール・ギュントは、ソルヴェーグを奪って、逃げてしまいます。
 でも、彼女に飽きてしまったペール・ギュントは、彼女を捨てて旅に出ます。
 その時、山の魔王ドヴレの娘に逢いました。
 魔王の娘もペール・ギュントに恋して、宮殿に連れて行き、彼に結婚を迫ります。
 ペール・ギュントはいやがり、怒った魔王から逃げ出します。
 なんとか危機を逃れて、ペール・ギュントは故郷の村に辿りつき、ソルヴェーヴと再会します。
 今度は、そこに魔王の娘が現れました。
 そして、連れていた子供を彼との間の子供だと迫ります。
 ペール・ギュントは母親の元に逃げました。
 息子の顔を見た病床のオーゼは、息子の無事を知ってホッとします。
 でも、彼の空想話を聞きながら亡くなってしまいました。
 再び旅に出たペール・ギュント。
 モロッコでは大成功しました。
 でも、だまされて無一文になってしまいます。
 アラビアでは、酋長の娘アニトラと出逢います。
 彼女ペール・ギュントを偉大な預言者と勘違いして、誘惑をしようとしましたが、またまた、逃げ出します。
 今度はエジプトに向かいます。
 そこで、彼は、ふと、ソルヴェーグの夢を見ました。
 金鉱を掘り当てて再び大金持ちになったペール・ギュントは、故郷を目指して帰路に着きました。
 でも、嵐に遭って船は難破して、金塊と共に沈んでしまいました。
 結局、彼はまたしても文無しです。
 命からがら救出されたペール・ギュントは、ぼろぼろになりながらも、家にたどり着きました。
 そこにはすっかり白髪となって年老いてしまったソルヴェーヴがいました。
 ず~~~~~~~~っと、彼の帰りを待っていたのです。
 そして、こう言います。
 『おかえり』
 ペール・ギュントは全てを悟りました。
 そして、ソルヴェーグの膝枕で、彼女の子守歌を聴きながら静かに息を引き取ったのです。
 めでたしめでたし』

 如何でしょう?
 ここにも、たくさんの教訓が含まれている事にお気づきですね。

 もし、あなたが、これまでのステージでたくさんの間違いを犯したとしても。
 でも、人生ゲームです。
 ゲームですから、最後のステージには、大逆転だってあります。

 「ああ」
 その気づき。
 前に書いた、<悟り>への一歩の「嘻」「嗚呼」「譆」です。
 その一瞬のために、あなたの人生はありました。
 それで、すべてのステージクリアです。

 さあ、気づけますか?

 みんなで、
 一緒に、人生ゲーム、全ステージクリアと行きましょう!