山田隆文の歯医者さん日記

 青年期。
 つまり、子どもから大人になる時期。
 どういうことか?
 高校生くらいまでは、親の保護の元にあります。
 生活も支えてもらいます。
 でも、青年期。
 あなたは、自分の将来を選択しなければなりません。
 高卒で働く人もいます。
 専門学校や短大や大学へ行く人もいます。
 大事な事は、自分の力で生きていくための力を付ける、大事な時期です。

 でも、人間は遅いんですね。
 動物の世界での子別れは、たとえば、キタキツネなどは半年。
 もう、誰も助けてくれません。
 自分の力で生きて行かなくてはなりません。
 そして、伴侶を見つけ、子供を作り、育て、そして、一人前にして送り出していきます。
 でも大事な事。
 動物園など、特殊な環境にいる動物さん以外、すべて、誰の力も借りずにやってのけます。

 面倒くさいのは、人間だけ(笑)!

 さあ、このステージのことを、同一性とも言います。
 エリクソンは、「自我同一性」(最近は自己同一性)という言葉を使いました。
 「自」も自分。
 「我」も自分。
 「自我」に対応する言葉は、「非我」です。

 「自我」は、哲学の世界ではこう考えます。
 『知覚・思考・意志・行為などの自己同一的な主体として、他者や外界から区別して意識される自分。』
 (http://dic.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa&p=自我 より引用)
 精神分析では、こうです。
 『イド・超自我を統制して現実への適応を行わせる精神の一側面。エゴ。』
 (http://dic.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa&p=自我 より引用)

 最近は、「自己同一性」ともいいます。
 (セルフ・アイデンティティ:self identity)

 つまり、こんなことです。

 『わたしは、こんな人です』

 それだけ。

 簡単ですね。

 えっ?
 簡単じゃないんですか?

 なぜでしょうか?

 それは、ここまでに至る4つのステージで、アイテムを集めてこなかったからなんです。
 あなたの魔法の人生呪文ノートには何も書かれていません。

 だって、自分で決めた事がありません。
「……しなさい」
「……しちゃだめ」
と、言われ続けてきました。
「……ちゃん、このお洋服が似合うわよ」
「……さん、あたしの事を好き?」
「……できたら、おこずかいあげるよ」
「学生は、先生の言う事を聞いていればいいんです」
「……の言う事は、絶対服従!」

 さあ、聞いてみます。
「あなたは、どんな人ですか?」
「……」
 答えが出てきません。
 だって、考えた事がありません。
 いつも、両親が代弁してくれました。
『……ちゃんは、イイコね』
 一生懸命、記憶の中にある人生ノートをひっくり返します。
 でも、あなたの人生のノートに書いてあるのは、全部、他の人の言葉です。
 さあ、ステージ5のページに来ます。
 白紙です。
 雪の降り積もった草原のように、なあにもありません。
 真っ白です。
 あなたの思考も真っ白になります。
 だって、他人の評価でしか、自分を考えた事がありません。
 誰かに評価をしてもらわないと、自分自身を維持できません。

 でも、大学生。
 母親が付いて来るなんてことは無理ですね。
 あなたの代わりに、答えてくれる人はいません。
 あなたが、自分で答えなければなりません。
 あなたが、自分で決めなくてはなりません。

 よく、学生さんに聞きます。
「自分を、3分間でアピールしてみてください」

 よくて30秒でしょうか……。
 名前を言って。
 出身校を言って。
 生まれたところを言って。
 ……
 星座と血液型が、何とか出ました。
 ……
 考えてみたら、趣味がありません。
 打ち込むものもありません。
 ……
 あれ、もうない……。

 笑い話ではありませんが、真っ赤になって、みるみる、じん麻疹まで吹き出してきた学生さんが居ました。
 本当です。
 ストレスが、体に影響を与える良い例ですね。
 自我と同様に、心身も同一性があるんです。

 つまり、自我同一性とは何か?
「わたしはわたし」
「これは、他の人」
 という区別が、ちゃんと付く事です。

 おもちゃの取り合いで、すでに、様々な経験をしましたね。
 様々な感情を感じましたね。
 そのなかで、おもちゃというものを、他人との関わりのなかで、どのように扱ったらいいのかを、ちゃんと学んできたはずなんです。
 その時に、喧嘩したり、泣いたり、笑ったり、同情したり……。

 でも、もし、そんな経験をさせなかったら……。
 あなたは泣いています。
「あら、そのおもちゃがほしいの、同じの買ってあげるわね」
 いじめっ子が居ました。
「……ちゃん、いじめちゃダメでしょ!」
「どうして、……ちゃんをいじめるのよ!」
 学校で習います。
「人類は、みな、平等です」
 あなたが、好き勝手な事をします。
「どうして、……ちゃんは、協調性がないの?」
「みんなと、同じにしなさい」

 あなたは、間違った事を学びました。
<個性は、出しちゃいけないんだ!>

 でも、やがて、親や教師の庇護が無くなります。
 大学を卒業したら、社会に出なくてはなりません。

 でも、言えないんです。
「私は、こんな人間です」

 だって、ここに来るまで、一度も、そんなことを考えた事もありません。

 どこかで、ボタンを掛け違えました。

 さあ、いろいろな大人の出来上がりです。

・おたく
  だって、二次元の世界は裏切りません
・ニート
・引きこもり
・パラサイト
・ピーターパン
・権威主義
・ワンマン
 ……

 笑い話ではなく、ある交通機関で隣に座ったおじさん。
 けっこう、いい年です。
 一生懸命に、動画を見ています。
 で、見えてしまいました。
 AKB48です(笑・困)!

 最近は、こんな言葉を使いますね。
「自我同一性の崩壊」
「自我同一性の拡散」
「アイデンティティ・クライシス」
「アイデンティティの危機」

 でも、もう一度、子どもの時から、あなたの人生を思い出してください。
 どんなアイテムがありましたか?
 拾い忘れていませんか?
 あなたの人生のなかで、アイテムは、ちゃんと、輝きを放っています。

・魔法の鍵
・魔法の呪文

 それは、<感情>です。

 動物と違って、人間だけが、複雑な<感情>を感じるすべを与えられたんです。