インプラントが、色々な意味で問題になっている。
 私は、口腔外科の立場として、無くなる、あるいは、もっといいものが出来るまで経過処置として使うのがよい、という考え方である。
 今の、チタン製のインプラントが出来るまでに、ブレード、鋳造する骨膜下インプラント、人工サファイア、結晶ガラス、アパタイトコーティング、カーボンコーティングなどなどなど、その開発過程や研究過程、さらには、口腔外科でしなくてはならない後始末の数々を見てきたから言える。
 大学の動物舎には、インプラントの実験用のおサルさんや、わんちゃんがたくさん居た。
 人間のためだとは言え、そのあと標本にされる。
 結論からいうと、ほとんど生着する事もなく出てきた。
 むしろ、昔はやった、アンダーカットのあるブレードや、T型やU型のインプラント。
 取り外すことのことは、全く考えていない。
 ごっそりと、骨もなくなる。
 その後の補綴処置の方が大変だ。

 あるとき、80を過ぎたおばあちゃんの、サファイヤインプラント(私が埋めたのではありません)が折れて、さらに、炎症を起こした。
 麻酔医に相談すると、全身疾患があるので、とても、全身麻酔は無理。
 ということで、セデーション(静脈内鎮静法)で、だましだまし抜いたことがある。
 ようやく、チタン製のインプラントが出てきて、テクニックも安定してきた。
 少し前は、インプラントの埋込み部分を、手袋でべたべた触っていた時代もある。
 絶対に、くっつかない!
 糖尿病や、骨の薄い場合など、「できません」とお断りもするようになってきた。

 さて、数日前、こんな事例があった。
 本や雑誌やテレビなどで見て、インプラントをしたいという患者さん。
 患者さんの御希望は、上顎に埋め込んで、それを支台に総義歯を安定させたい。
 さて、レントゲンを見る。
 普通は、上顎の犬歯部あたりに埋め込んで、磁性アタッチメントを入れたりする。
 ところが、骨がない。
 サイナスリフトも無理。
 やるとすると、骨移植しかない。
 これは、うちではむり。
 さらに、Pもコントロールされていない。
 タバコも毎日1箱。
 下顎も臼歯部が咬合していない(義歯)なので、前歯でかみ癖が付いている。
 たぶん、埋めても、側方力が強く、かなり厳しい。

 基本的には、CTなどで精査をした後に、たぶん、お断りする方向に行くだろう。

 仮に、骨移植まで行って、それに伴う痛みや不自由がある。
 切開した部分は、当然、感覚も鈍くなる。
 移植骨に感覚があるわけもない。
 たぶん、現在の問題点を、改善するに足りる満足度は得られないだろう。
 むしろ、術後の方が、患者さんの期待が大きいだけに、ギャップが大きく、不満が残る可能性もある。

 なかなか、難しいものだ。

 前にも書いた。
 ある患者さん。
 インプラントが不調で、動揺も排膿もあり、投薬をした。
 もちろん、私が埋めたのではない。
 「埋めてもらった先生に相談するのがいいでしょう」
 と、私は帰した。
 ところが、後日談。
 その患者さんがこう伝えてきた。
 その歯医者さんに、こう言われたそうだ。
 「新しいインプラントが入りましたから、植え替えましょう。
  ◎◎◎万円です。」
 もちろん、私は絶句した……。