私は歯科医師である。
 一応、大学院で学位ももらったし、(社)日本口腔外科学会の認定医・専門医ももらった。
 でも、歯科医師にも色々な生き方がある。

 年頭にあたって、ちょっと考えてみた。

<開業医>
 これが一番多いだろう。
 開業している歯医者さんの数は、コンビニよりも多い。
 2011年10月のデーターでは、コンビニ数が44062件に対して、歯医者さんは68155件。
 新潟市は、市町村別の人口10万人対比ではトップだ。
 でも、その開業の仕方。
 それが、なかなか難しい。
 ・都市部タイプ
   サラリーマンやいい患者さん(デンタルIQが高い)が多いかもしれない。
   土日休業が多い。
   PMTCやホワイトニング、そして、インプラントや審美歯科治療が中心になるだろう。
 ・住宅地タイプ
   家族が多い。
   土曜日にやって、木曜日に休むケースが多い。
   患者層は、子どもからお年寄りまで様々。
   むし歯の治療から入れ歯までなんでもある。
 ・訪問診療タイプ
   最近増えてきている。
   私も、1000回以上は訪問歯科診療に行っている。
   最高年齢は、106歳!

<勤務歯科医>
 総合病院や大学病院、大きな歯科医院の勤務医である。
 開業前に、あるいは、研修医の後、腕を磨くために勤める事も多い。
 私も、医科歯科大学で医員をやったし、伊豆日赤病院にも行ったし、開業歯科医でも働いた。

<大学医局勤務>
 医局もなかなか複雑なのだが、ひとつは診療業務、そして、もうひとつは研究、そして学生教育である。
 それをバランス良くこなさなくてはならない。
 みんな、教授を目指して頑張る!

<行政>
 厚生労働省に行った後輩もいるし、保健所や県の職員などもある。

<教育>
 私が居るのは、ここである。
 かなりの、少数派かもしれない。
 歯科衛生士と歯科技工士と言語聴覚士と、前には医療秘書さんも教育していた。

 なんで、それを選んだのか?

 もちろん、卒業後の選択は自由である。

 いくつか理由があるみたいだ。

・マンネリが嫌いである
  毎日、同じ事を繰り返していく事が耐えられそうにない。
  だから、開業は難しいと判断した。
・パワーゲームが嫌いである
  人に命令をしたり、誰かに命令される事も嫌いである。
  だから、医局や大病院などは、私にはあまり向かない。
  別に、誰かを自分の思うとおりに動かしてなんて、面倒くさい事は考えない。
・牛後となるよりも鶏口
  従って、ナンバーワンよりもオンリーワンである。

 じゃあ、何が好きなん?
 ということになる。

・人に教える事が好き
  という事に気が付いた。
  学生が、成長していくのを見ていくのが楽しい。
・患者さんが好き
  乳飲み子の子どもから、障害者から、癌患者さんから、もうすぐ死んじゃうかもしれない超超高齢者まで、私の守備範囲である。
  歯科心身症の患者さんも多い。
  末期の人も多い。
  実際、肺癌の方も、ALSの方も、白血病の方も……。
  たくさん、見てきた(看取ってきた)。
  そんなときの、私の口癖である。
  「入れ歯、痛かったら、化けて出てきて下さいね」
  今のところ、どなたもお見えにならないので、入れ歯の具合は大丈夫らしい(笑)。
  でも、患者さんの笑顔を見るのが一番大好きなのだ。
  だから、泣いている子どもを笑わせるのにファイトが湧く。
  悩んでいる患者さんを、笑顔にしたいと心から願っている。
  もちろん、審美治療やインプラントはあまりない。
  まだ、新潟のこの辺では、むし歯を治したり、入れ歯を作ったりが多い。
  それも、ひとつの歯科医としての生き方である。


 ということで、今は、新潟の医療系の短期大学の教員を楽しんでいる。

 大事な事。

 「楽しんでいる」ということである。

 みんな、仕事に愚痴を言う。
 「嫌なら、辞めてしまえ!」と言いたい!
 なにも、嫌いな事をする必要はない。
 そんな歯医者さんに見てもらう患者さんがかわいそうである。
 そんな教員に教えを受ける学生さんが気の毒である。

 世の、歯医者さんや歯科衛生士さんや歯科技工士さんに問いたい。

 「今、楽しんでいますか?」

 そうそう、紀要の原稿で、こんな事を書いてみた。



「学生とともにすすめる教育」

 教育は「教員が、何を教えたか」ではなく「学生が、何を学んだか」とへとシフトしてきている。
 現在の教育の問題点は、教えたい事と、学びたい事の乖離である。それゆえ教員は、ただ教科書を読んで線を引けばいいのではなく、学ぶ事を問いかけ、その内容を消化・吸収し、教員自身が「自らの言葉で語る」ことが求められる。一方で、学生のアイデンティティ確立を手助けするのみならず、教員自身も自己成長を急がなくてはならない。うかうかしていると、教員の成長前に学生は卒業をしてしまう。
 教育に於いてもパラダイムシフトは起こっているのである。
 教員として、「今」大切な事がある。
 ① 教える事が楽しいか?
 ② 学生の成長をみていくことが楽しいか?
 教育の極意はこうである。
 「教員は、学生に教える事で、自らも学び、成長をしていく」のである。
 教員が楽しければ、学生も楽しくなる。
 ともに、<win-win>の関係を築くにはこれが近道である。