でも、こんな事を言う人がいます。
 「選べない……」

 何が、そうさせているんでしょうか?
山田隆文の歯医者さん日記

 それは、あなたが、これまでの人生で選択することを放棄してきたからなんですね。
山田隆文の歯医者さん日記

 それでは、エリクソンの発達心理学に沿って考えて行ってみましょう。

 おぎゃあと生まれました。
 家族の愛に包まれています。
 なんでも、お母さんや家族がやってくれます。
 だから、なんの不自由もありませんでした。

 やがて、一人歩きが出来るようになります。
 言葉も話せるようになってきました。
 でも、まだ、家族の愛に包まれています。
 世界は、あなたを中心に回っています。

 さあ、自我が目覚めてきました。
 目の前には、色々なおもちゃがあります。
 いたずらも楽しいです。
 でも、もし、ここで甘やかされてしまったら……。
 正しい事は,褒めてもらえたでしょうか?
 間違った事をしたら、「ダメよ!」と叱って(怒る・切れるじゃありませんよ!)くれたでしょうか?

 そうして、保育園や幼稚園に行きます。
 と、自分と同じような、自己中の塊が、たくさん居る事に気が付きます。
 おもちゃも、一人で独占できません。
 取り合いになります。
 勝てば嬉しいし、負ければ悔しいです。
 でも、泣くと、優しい保母さんが慰めてくれます。

 さあ、小学校に入ります。
 あなたの自我は、どんどん膨らんでいきます。
 新しく目にする事も多くなってきます。
 好奇心の塊だったはずです。
 でも、それをそぐような教師や親が居ました。
 「あなたは、こうすべきです」
 「そんなことをしてはいけません」
 「男の子なんだから、男の子らしくしなさい」
 「女の子なんだから、女の子らしくしなさい」
 「100点取ったら、おもちゃを買ってあげるよ」
 「宿題をしないと、遊びに行ってはいけないよ」
 ……
 いつの間にか、あなたの行動に様々な条件が付くようになってしまいました。
 あれ?????

 中学校に行っても、高校に行っても、大学に通っても、あなたは、試験の成績や偏差値で評価をされます。
 学校の先生の言いつけを守るのが「イイコ」です。
 学校の先生の言いつけを守らないのは「悪い子」のレッテルを貼られてしまいます。
 あなたは、考えます。
 「赤ちゃんの時には、自由で、何をやってもよかったのに、どうして、自由がなくなっちゃったんだ?」
 でも、どこに行っても、評価や評判がついて回ります。
 いつしか、あなたは、それに慣れていきました。
 飼い慣らされていきました。

 社会に出て、大人になりました。
 彼氏(彼女)ができて、デートです。
 「バレンタインデーにプレゼント上げたんだから、ホワイトデーは三倍返しね!」
 あれ、愛の大きさは、プレゼントに比例するんでしょうか?
 物でしか、愛が評価できないんでしょうか?

 さあ、選択の時が来ました。
 選べません。
 だって、選んだ事がないんです。
 自分の自信がありません。
 「私はこんな人です」って言えません。
 物心が付いてからずっと、何か選択をしなくてはならないときに、いつも誰かが代わりに決めてしまいました。
 「こっちの色の洋服の方が似合うわよ」
 「これ、美味しいよ」
 「あなたの偏差値で行ける大学は、ここね」
 「公務員の方が一生安泰よ」
 「結婚するなら、三高じゃなくちゃ」
 「上司の命令には絶対服従」

 やがて子供が生まれました。
 赤ちゃんの時には、ものすごくかわいがりました。
 でも、だんだんと反抗期になってきます。
 「めし」「かね」「ふろ」って感じになりました。
 あなたは、子どもを躾けるために、怒鳴らなくてはならなくなりました。
 「……しなさい!」
 「……しじゃだめでしょ!」
 「男の子でしょ!」
 「女の子なんだから!」
 あれ、だんだんと口調が、自分の両親に似てきました。

 やがて、部下が出来ました。
 部下は、なかなか言う事を聞いてくれません。
 だから、つい、口調が荒くなります。
 「こんな企画書、通ると思ってるのか?」
 あれ、だんだんと口調が、自分が新人の時の上司に似てきました。

 やがて、あなたは、年老いていきます。
 子どもが結婚して独立しました。
 最愛の配偶者が亡くなってしまいました。
 あなたは、ひとりぼっち。

 あなたが気が付いたとき、あなたは、車いすに座って、養老院のレクレーション室に居ました。
 若い介護職員さんが、「さあ、みんなといっしょに遊びませんか?」とあなたに声をかけます。
 あなたは、もう、誰の命令も受けたくありません。
 こりごりです。
 だから、「ふん」と、突っぱねます。
 介護職員さんの声が聞こえます。
 「……さん、どうして、みんなといっしょにしてくれないのかしら?」
 介護職員さんが、お風呂に入れてくれようとします。
 食事が運ばれました。
 歯みがきをしてくれようとします。
 あなたは、なぜか、素直に「ありがとう」が言えません。

 あなたは、ふと、鏡を見ました。
 車いすの上で、顰めっ面で、不機嫌そうな老人が背中を丸めています。
 (私の人生はなんだったんだ……)
 今まで、子どもや部下に厳しく当たってきた自分の言葉がこだまします。
 誰かに、優しい言葉をかけた事があったでしょうか?
 いつも、誰かに評価され、他人を評価し続けてきた自分が居ました。
 あなたの人生は、いつも<恐れ>や<怒り>や<嫉妬>にまみれていました。
 本当に、心から<喜んだ>ことがあったでしょうか?
 忘れてしまいました。
 もう、涙も出ません。
 あなたは、ただ、しわだらけで表情のない自分の顔を見続けていました。
 あなたは、笑ってみようと思いました。
 でも、そこには、口をへの字に曲げた老人が居るだけです。
山田隆文の歯医者さん日記

 どこで、ボタンをかけ間違えてしまったんでしょうか?
 どこで、変な方向に進んでしまったんでしょうか?


 さあ、「カールじいさんの空飛ぶ家」の始めの15分間を思い出してみましょう。
山田隆文の歯医者さん日記

 一人の少年が居ました。
 カール・フレドリクセンです。
 彼は、冒険に憧れる少年でした。
 そして、ある空き家に探検に出かけます。
 そこで、冒険好きな少女エリーと出会います。
 意気投合しました。
 成人した二人はやがて結婚します。
 そして、初めて出会った空き家に住みます。
 二人の間に子供はできませんでした。
 でも、「伝説の滝」パラダイス・フォールについて夢を語ります。
 そして、いつかそこに行こうと約束します。
 二人の笑顔が画面を彩ります。
 夫婦の時間を楽しみ、長い間共に幸せに生きてきました。
 でも、エリーは病に倒れてしまいます。
 カールは献身的な看護をしますが、エリーは先立ってしまいました。
 偏屈じいさんになったカールに、ラッセルが現れます。
 昔の自分を思い出します。
 ラッセルと鳥のケヴィンを守ろうとしたとき、カールじいさんは、執着を捨てる事が出来ました。
 そして、新たな人生を歩み始めます。
山田隆文の歯医者さん日記

 もう一度、訊いてみましょう。
 あなたの選択は、どちら?
 あっちですか?
 こっちですか?
山田隆文の歯医者さん日記

 夕日に沈む空がお好み?
山田隆文の歯医者さん日記

 それとも、明るい青空ですか?


 でも、大丈夫。
 このブログがあります。
 そんなあなたでも、わたしが、そっと手を差し伸べています。
 見守っています。

 <感情>のお勉強も、だんだんと最終章に近づいてきます。
 もう少し、<感情>を分析しながら、人生の秘密を探っていきましょう。