山田隆文の歯医者さん日記

 ネガティブな感情には、もう一つあります。
 <嫉妬>です。
 嫉妬は、赤ちゃんでも見られる基本的な感情です。
 弟や妹が生まれて、お母さんの愛情が自分から逸れてしまうと、わざと泣いたり、悪戯をしたり、甘えて見せたりします。
 一度、独り立ちしたおしっこの習慣が、突然、おねしょという形で現れたりします。
 犬もそうですね。数匹の犬が居て、一匹だけを可愛がると、他の犬が割り込んできたりします。

 さて、原始の時代はどうだったでしょうか?
 毎日、獲物を捕りに行ったのに、いつも逃げられたり、大型の肉食獣に横取りされたりで、腹ぺこでした。
 ところが、隣の洞窟は大きなマンモスを仕留めて、大宴会の真っ最中で、たらふく夕飯にありついています。
 この時に、いいなあ、羨ましいという感情が生まれます。

 嫉妬というのは、自分の持っていないものを他の人が持っているときに生まれてくる感情なのです。
 つまり、嫉妬を言い換えれば、「自分自身の所有物を認識する能力」です。
 自分自身の所有物と、他の人の所有物との違いを認識する能力なのです。

 日本語で嫉妬や所有欲というと、ネガティブな意味に考えられがちです。

 一応、ネガティブという分類でお話をしていますが、これは、本能的な行動なのです。
 嫉妬は、執着を生みます。
 子供は、おもちゃを取り上げられると泣きます。
 おもちゃを買ってあげると、もっと、他のおもちゃも欲しくなります。
 一方で、ネガティブな方向に働いた場合には、お金や権力への所有欲となります。
 ブランド品も執着の対象ですね。
 執着とは捕らわれることです。
 他の人からよく見られたいという見栄や虚栄もこの一種です。
 自分より優れた人に嫉妬心を感じるのは当たり前なのです。

山田隆文の歯医者さん日記

 嫉妬は、大きく分けると、二つのものが含まれています。

1)自分の持っていないものを、他の人が持っている
  感情としては羨ましいとか羨望です。
  そこにたどり着けないと悔しいになります。
  さらに二つの方向の考え方があります。
  もし、その感情の原因が自分にある場合には、切ない・虚しい・情けない・無力感という感情が生まれるでしょう。
  自分の責任ではないとすれば、それは不条理ということになりますね。

 遊園地の遊具が思いました。
 「観覧車のやつめ、でかい面しやがって!」
山田隆文の歯医者さん日記

 でも、遊具は思いました。
 「俺の方が、余計に回っているぞ!」

 さて、もう一つの<嫉妬>です。

2)自分持っているものが失われる
  嫉妬のもう一つの意味です。
  この嫉妬からは、喪失感が生まれ、悲しみが生まれます。
  自分の力の及ばない何かによってそれがもたらされた時には、無常感を感じるかも知れません。

 <嫉妬>は、自分自身が何を持っているかを気が付かせてくれる感情なんですね。
 嫉妬心そのものは、ポジティブな方向に働けば「健康や精神を良い状態に保つものを所有」ですが、多くは、「感情が貧しい状態の時に起こる気持ち」なのです。
 「心身の健康状態を維持できれば、自分が何を持っているかという事がわかって、自分に自信を持つことができる」のですが、そういった考え方の変容やシフトは心のキャリブレーションの項で論じます。

 一つの例を書きます。
 他の人の所有しないものを所有しているかも知れないとう例え話です。

 「王様と乞食」という物語は読んだことのある方も多いでしょう。
 顔かたちの似ている王様と乞食がいました。
 いつも、優雅な生活をしている王様の憂鬱は、お金も名誉もあるが自由がないとうことです。
 一方、乞食の憂鬱は自由はあるがお金も名誉もないということです。
 王様は乞食の自由に嫉妬し、乞食は王様な優雅さに嫉妬しました。
 では、取り替えてみようとおうことになりました。
 事の顛末は、物語でお楽しみください。

 ここで言いたかったのは、人の欲求には色々なものがあるという事のです。
 問題は、その使い方にあるのです。
山田隆文の歯医者さん日記

 <嫉妬>というものは、ポジティブに利用すれば、鏡のような存在です。
 隣同士のガラスのコップが、お互いを映し出しているように、他の人と比べることで、等身大の自分の存在が明らかになるのですね。

 さて、<嫉妬>にも色々あります。

 <ジェラシイ>
 <jealousy>は<妬み><嫉み><羨望><やきもち><嫉妬>を意味し、その<心>も意味します。
 語源は中期フランス語の<jaloux>、俗ラテン語の<zelosus>、後期ラテン語の<zelus>で、<zeal>は<情熱>を表します。
 <-ous>は……を<持つ>という意味ですから、<zeal>プラス<-ous>で<情熱>を<持つ>ものが<嫉妬>になったわけです。
 <情熱>そのものは、後の項で詳しく述べますが、ポジティブな<感情>です。
 でも、上にも書いたように、物事への<執着>が限界を超えてしまいますと、それは<嫉妬>になってしまうのですね。
 でも、そのものにどっぷりと<執着>して浸かりきってしまった私たちには、客観的に置かれた自分の回りの状況が判断できなくなってしまいます。
 その状態がネガティブな<感情>になると言うわけです。
 <jealousy>には<油断のない配慮><警戒心>という意味もあります。
 せっかく集めたものを、他の人に取られないようにしなければ成りませんから、<警戒>も怠れないのですね。

 <エンヴィ>
 <envy>は<妬み><嫉妬><羨望>です。
 または、<羨望>の的を表します。
 <jealousy>はどちらかと言うと<envy>より個人的な<感情>で優越者を<妬み><憎悪する>感情ですね。
 <envy>は他人の持っているものを自分も持ちたいと<羨む>気持ちです。

 おもしろいところでは、こんなのもあります。
 <エミュレーション>
 <emulation>は人に対する<競争>意識、<対抗心><張り合い><真似><模倣>と言う感じです。
 例えば、能力がないのに、見栄を張って偉ぶったり、真似をしたりすることがありますね。
 コンピューター用語でエミュレーションというと、Windowsの上でMacOSを動かしたり、MacOSの上でWindowsを動かしたりするソフトなどもありますね。
 非常に古くは<嫉妬><羨望>という意味があります。