$山田隆文の歯医者さん日記


 日本口腔腫瘍学会にもからんでいますので、癌の患者さんも多く診てきました。

 こんな患者さんが来ました。
 口腔癌の既往のある方です。
 ときどき、セカンドオピニオンをしています。
 歯科治療や、リハビリのための入れ歯(顎補綴とか顎義歯と言います)なども診ています。
 患者さんにとって、再発などは不安があります。
 私は、ただ、一つずつ、念入りに、患者さんの疑問に答えていきます。
 それだけです。
 「だいじょうぶ」とか、「がんばれ」なんて使いません。
 なんと、この日は、心配したご家族が3人も付き添いで見えられました。
 もちろん、ご家族の質問にも根気よく答えます。
 大事なことは、知らないことや、専門外のことは、ちゃんと「知らない」と言います。
 あるいは、「調べてからお答えします」と言って、絶対に、見栄は張りません。
 逃げたりもしません。
 疑問は解決して、患者さんは、笑顔を取り戻しました。
 そして、最後に付け加えます。
 「なにかあったら、またいつでも、訊いてくださいね。」
 そして、また、患者さんのファンが増えます。
 別に、難しいことをやっているわけではありません。
 
 ここで、気がついた方はいるでしょうか?
 私は、私の伝えたいことを伝えているのではないんです。
 ましてや、説得なんてしていません。
 自分が売りたい治療法なんてなあんにも言っていません。
 ただ、患者さんが訊きたい情報を、わかりやすく、イラストを書いたり、本や雑誌の病状に資料を見せたり、医学用語を平易な言葉に翻訳して伝えているだけです。

 それだけで、患者さんはリピーターになってくれます。

 サービス(最近はホスピタリティ)の極意でもありますが、それは、また、別の機会に。

 多くの普通の歯医者さんは、歯しか診ていません。
 歯の中だけってのもありますし、歯の色だけを見ている先生も知っていますが……(困)。
 一応、私たちは、学生時代には、全身の解剖や生理や病理を習ってきています。
 隣接医学として、内科学も外科学も、色々と習ってきています。
 心理学だって勉強をしたはずです!
 でも、卒業してしまうと忘れてしまうんですね。

 歯が生えているのはもちろん、人間です。
 感情を持った人間です。
 でも、私たちは何千本もの歯を診ています。
 いつの間にか、歯って、人間にあるんだって忘れてしまいます。

 前にも書いたと思いますが、無言で、黙々と治療する知り合いの先生がいます。
 「……持ってきて」という声すらスタッフにも聞こえません。
 たまに、何かを言うと思うと、患者さんをユニット寝かせたまま、上から低い声でぼそぼそと……(怖)。
 まあ、私だったら、患者さんにはなりたくありません。

 トラブルの起こったとき、「私はいないことにしてくれ」なんてのたまわった先生もいました(をいをい!)。

 私は、大学を卒業後、口腔外科を学びます。
 途中で、大学院は病理に行きました。
 口腔外科で、いろいろな病気を診ていくのに、やはり、病気のことがわからなければいけないと思ったからです。
 病理検査(病気の確定診断に使います)を1000例は診断したでしょうか。
 病理解剖(なぜ亡くなったかを知るための解剖)も三桁。
 研究は、口腔癌や前癌病変の癌遺伝子を探っていました。
 最近流行のDNAってやつを、試験管を振って分析をしていました。
 そして、臨床に戻ります。
 そこで、たくさんの患者さんと出会います。
 患者さんに育てていただきました。

 そんなかで、診断や治療はもちろんですが、患者さんとのコミュニケーションの大切さに気がつきました。

 さあ、こんな風に考えてください。
 商品があります。
 これを、どんな風に、知っていただき、買っていただき、アフターケアをしますか?

 昔の歯医者さんは、待っていれば、患者さんが来ました。
 でも、歯医者さんバブルははじけています。
 待っていても、来てくれません。
 患者さんに、ただ治療するだけではなく、何か、プラスアルファなものを持ち帰っていただかなければ、もう、来てくれません。

 でも、多くの人は、こんな簡単な事にも気がついていません。

 学びの機会は、たくさんあるんですけどね……。