一人暮らしのTさんは、農協に勤めていた頃に手がけた、村の奥にある開拓地にやってきました。
開拓地の入り口には、Tさんが揮毫した開拓記念碑が建ちます。

戦時中は内地勤務で都市近郊の保線区にいたこと。
お兄様が他県に開拓に出たため村の家を継ぐことになり、働きに出ていたK市から戻ったこと。
町場育ちの妻がよく村についてきてくれたこと。
父親が書道家でもあった隣村の学校の先生に書道を習い、自分も父親から教わって書道を習得したため、村ではなにかと頼まれて筆をふるったこと。
開拓の時は農協の組合長として、陣頭指揮をとったこと。
いろいろな歴史が次々よみがえります。
私たちは90年にも及ぶTさんの人生を、そのまま受け止めお聞きするだけです。

帰り道に通った森には、新緑を抜けてまぶしい光が林床まで差し込んでいました。
村はもう初夏です。