夫の転勤に伴い、この職場は今日で最後。
3年間のパート歴、意地悪から始まった毎日も今となれば過去の出来事のひとつ。
こんなに働きやすかった場所ははじめて。
意地悪してきた先輩も今は友人。
最後だから、悲しいけど皆さんには元気に挨拶したい。
最後だから笑顔で終えたい。最後だから、もうひとつの大切な別れも。

グループリーダーをしていた彼は、正社員2年目。あらゆる都合を調整して、パートのおばさまたちをまとめるのはたいへんかと思いきや、とても可愛がられていた。高学歴を鼻にかけない、人懐っこい童顔。

おじいちゃんの話しをよくしてくれた。
優しいものごしは、おばさまたちの娘婿候補に。
私の子供は息子だから、同じ感覚で彼をみていたのかもしれない。
重い箱は、何も言わずに後ろから横取りしてくれて、休憩室で、好きなキャラクターのステッカーを貼ったパソコンでシフトの調整や、在庫管理をしていた姿、仕事中におばさまたちの苦情や冷やかしの横やりが入ると、仕事をやめて向き合う。
私もたくさん話した中で、1度、お客様から猛クレームが来て、その対応をしていた私をかばってさりげなく、割って入り、角を立てることなく終息させてくれた。その時、息子の感覚を越えた頼もしさをみた。
私は、何度も感謝も謝罪を告げると、"何も悪くないですよ。ボクも当たり前のことをしただけですから。"と、笑顔を返してくれた。
いつも、さりげなく、存在してくれた。

その後、自分の好みや、私の好み、個人的なことを深く質問されることが増えて、勘違いかな...ありえないかな...意識してしまい、その感情を"情"と位置づけ納めた。

なにか特別なキモチ...私にはあった。情だとしても特別なもの。
しかし、彼の未来の傷を恐れて、私は距離を崩さなかった。休憩室でふたりになるのを避けた。
胸が詰まってきた矢先の夫の転勤。
神様の思し召しだと受け止めた。
最後の日、彼は私を避けた。忙しく動き回り、目を見て話すことをせずに、いつもの人懐っこい笑顔も口調もない。
私は、それに同調することにした。

はじめてくらいの事務的な対応。

これでいいんだと、自分を納得させた。
"ありがとうございました、お世話になりました。"彼を前に一礼した。

"お疲れ様でした。"パソコンに目を向けたまま。私は職場を去った。

その後、友人にメールでお礼を伝えた、返信の中に、"グループリーダー、目が真っ赤でコンタクトからメガネ姿になってた、結膜炎って言ってたけど午前中は平気だったのにね。それも両目。"と。