「何してるの?暇なんだけど、出てこない?」
未登録の番号で着信した携帯から、あいさつも名前も言わずにいきなり聞こえる声。
誰なのか?その“感じ”で分かった。それでも知らないフリをした。
「失礼ですが、どちら様ですか?」普段の私は知り合いにこんな話し方はしない。
「俺だよ俺。分かんない?」分かっていた。でも、知らないフリを続けた。
「はぁ。あいにく私の友人であいさつ名前も言わないまま話す非常識な人はいませんので。」
切られると思っていたけど、そこで初めて名前を口にした。
「あぁ、こんばんは。」と思いだしたふうに言うと、
「こんばんは~。」最初のいきなりの尖った声が和らいで聞こえる。
「なんで、番号分かったの?教えてないと思うけど?」
「置いてった時に自分の電話に掛けた。」昨夜、彼が隣、少し席を離れた時だと分かった。
「今夜は行けないかな?でも、また今度。」そういうと、
「また、こんど~」と繰り返す。悪い奴じゃない。年下の彼が可愛く感じた。
数日後、着信。「こんばんは~」と声が聞こえた。あいさつできるじゃない・・・
その夜、一緒にご飯を食べた。電話は同じタイプの最新機種を持っていた。
私のは少し古い型だったけど操作はほぼ同じ。心の中で少し笑った。で、聞いてみた。
「ねぇ、私はあなたの電話になんて登録されてるの?」彼は画面をこちらに見せた。
“わ”だった。自分の名前に一文字も使われていない“わ”それだけ。
多分、あの時、私の電話から自分の携帯に着信させて急いで登録した。そんな想像をした。
「とりあえず、記憶させた?」そう聞くと頷いた。私はあきれたふうに笑う。
そして、彼の携帯を手に取り“わ”から自分の名前に打ち直して、上書き操作をした。