密室の鎮魂歌(レクイエム)/岸田 るり子
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あらすじ

ある女流画家の個展会場で、一枚の絵を見た女が、悲鳴をあげた。

五年前に失踪した自分の夫の居場所をこの画家が知っているにちがいない、というのが彼女の不可解な主張だった。

しかし、画家と失踪した男に接点はなかった。

五年前の謎に満ちた失踪事件…。五年後の今、再びその失踪現場だった家で事件が起きる。

今度は密室殺人事件。そして密室殺人はつづく。

『汝、レクイエムを聴け』という問題の絵に隠された驚くべき真実!魅力的な謎といくつもの密室に彩られた第14回鮎川哲也賞受賞の傑作本格ミステリ。

感想

これまでにない圧倒的な速さで読んだ。二日。前半部分の半分を一日かけてじっくりと読み、後半部分は夜、床についてから朝の五時になるまで一気に読んだ。それだけ、面白い作品だった。ミステリーでここまで女性の心理描写を武器とした作品は新しいと思う。そして、読んでいると、この世の中に死んでもいい人間っているよなあ、なんて、人間として最低なことを考えさせるような作品だった。作品に登場する麻美、由加、麗子の、心の中では軽侮し合っているのに、大人という建前でスレスレの会話をするのがまたいい。飲食店を営む一条や、麗子の双子の子供という脇役キャラも光っていた。これを読んでいて思い知らされたのは、人を憎む気持ちは、大人になるにつれて制御のきかない重いものになっていくというものだった。僕にだって嫌いな人はいる。だけどもう大人だから、そういう偏見は持ってはいけない、と自分に言い聞かせてきた。けれどそれはどだい無理なことなのだ。子供の頃の単純な考えは、大人になればなるほど失われていく。つまり、憎む気持ちは大人なればなるほど増加の一途を辿るのだ。この作品は、そんなことに気付かしてくれた作品だった。ただ、ミステリの密室のトリックや犯人の心理にも成功しているのだが、それを追う側の立場が、女性たちの偽善、猜疑などに筆を取られてしまって、疎かになっていた。ほんの少しだけ登場する刑事たちの名前まで出しているのだから、その刑事たちをもっと活躍させていたら、言うことなしのミステリ作品だったと思う。舞台となった京都の静けさ漂う描写もよかった。この人の違う作品もぜひ読んでみたいと思った。