猫鳴り/沼田 まほかる
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あらすじ


宿した命を喪った夫婦。

思春期の闇にとらわれた少年。

愛猫の最期を見守る老人。

それぞれのままならぬ人生の途に「奇跡」は訪れた。

濃密な文体で、人間の心の襞に分け入ってゆく傑作長編。

一匹の猫の存在が物語を貫く。




感想


とても辛かった。第一の冒頭で、まだあどけない子猫を捨てにいくところや、その人間の心理描写に、最初はかなり辛いものがあった。たぶん、そういう人のほうが普通なんだろう。捨て猫を預かってきれいにして、里親に引き渡すなんてことをしている人のほうが少数だ。だから捨て猫っていうのはなくならない。僕は一匹猫を飼っている。第二代目の猫だ。第一代目は、十五年生きて、唐突にいなくなってしまった。第二代目の猫は、猫の代表というくらいやんちゃで、甘ったれで、だけど飼い主にしか信頼をおかず、他人をめっぽう拒絶する。だけど、この本の猫は少し違う。それがまた愛らしい。どっちかっていうと、本に登場する猫は、第一代目として飼っていた猫によく似ている。おとなしいところや、毛が長くて抜けやすいところや、他人に平気で触らせるところ。だから、余計切なくなってしまった。文章も、人の心を静かにえぐるような、けれど闇の部分を照らし出すようなところがあって、最後の章ではぼろぼろ泣きながら読んだ。一日、いや、たぶん半日で読んだと思う。悲しいけど、結末を見届けないわけにはいかない。そんな気持ちにさせる本。きっと、猫が好きな人には読むには辛すぎる本だと思う。だけど、猫が好きで、なおかつその猫を亡くしてしまった人にこそ読んでほしい一冊である。きっと、なにか自分に違う価値観を与えてくれると思う。少なくとも僕はそうだった。だって、その本の余韻はまだ僕の中で残っているから。