鬼に捧げる夜想曲/神津 慶次朗
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あらすじ


―昭和二十一年三月十七日。

乙文明は九州大分の沖合に浮かぶ満月島を目指して船中にあった。

鬼角島の異名を持つこの孤島には、戦友神坂将吾がいる。

明日は若き網元の当主たる将吾の祝言なのだ。輿入れするのは寺の住職三科光善の養女優子。

祝言は午後七時に始まり、午前一時から山頂に建つ寺で浄めの儀式があるという。

翌朝早く、神坂家に急を告げる和尚。駆けつけた乙文が境内の祈祷所で見たものは、惨たらしく朱に染まった花嫁花婿の姿であった…。

―この事件に挑むのは、大分県警察部の兵堂善次郎警部補、そして名探偵藤枝孝之助。

藤枝が指摘する驚愕のからくりとは?

続発する怪死、更には十九年前の失踪事件をも包含する真相が暴かれるとき、満月島は震撼する。

第十四回鮎川哲也賞受賞作。




感想


うーん……。まあ、ぶっちゃけた話、かなり読み応えはあったと思う。読む手だって全然止まらなかったし、これのひとつ前の「首挽村の殺人」に比べれば、読み終わるのは圧倒的に早かった。三日もかかってないんじゃないかな?それだけ、面白い話ではあった。これもゆえに作者が当時「十九歳」という若さならではなのだろうか。ただ言うなら、その若さのせいで、人物描写が淡白なのは否めなかった。出てくるやからがみんな美男美女ときたら、読むほうも失せてくる。これはラノベやゲームではないのだ。そのため、現実味が欠ける。そういう人物描写の足りなさに作者の若さが見えた気がした。かくゆう、僕もその作者と同じ十九歳である。批判できる立場にはいない。あと数分で二十歳となりますがw。とまあ、人物に関することはこれくらい。キャラはなかなかよかったし、主人公の乙文明の行動力にはハラハラさせられながら読んだ。あとは、文章が雑、かと思ったら推理タイムになると無駄に長引かせる。そういうのはいらない。風景描写もいまいちで、作者の中で構成された「満月島」―またの名を「鬼角島」―という舞台である弧島が全っ然浮かんでこない。時々使われる古風を思わせるような文には失笑してしまった。漢字に変換しなくていいところまで漢字にしているし、無駄に難しい漢字を使えばいいってもんじゃない。それに、誤字が目立つ。鮎川賞は誤字脱字に厳しいと聞いていましたけど?あれ?

それらの欠点を踏まえても、覆るトリックや犯人が最も望んでいたもの―などには作者の思惑に見事にはまってしまった。