雪冤/大門 剛明
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あらすじ


平成5年初夏、京都で残虐な事件が発生した。

被害者はあおぞら合唱団に所属する長尾靖之と沢井恵美。

二人は刃物で刺され、恵美には百箇所以上もの傷が。

容疑者として逮捕されたのは合唱団の指揮者・八木沼慎一。

慎一は一貫して容疑を否認するも死刑が確定してしまう。

だが事件発生から15年後、慎一の手記が公開された直後に事態が急展開する。

息子の無実を訴える父、八木沼悦史のもとに、「メロス」と名乗る人物から自首したいと連絡が入り、自分は共犯で真犯人は「ディオニス」だと告白される。

果たして「メロス」の目的は?そして「ディオニス」とは?

被害者遺族と加害者家族の視点をちりばめ、死刑制度と冤罪という問題を題材にした衝撃の社会派ミステリ。

第29回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞W受賞作。





感想


一概には決して言えない犯罪者の身内たちの心を素直に、そして力強く表現していたと思う作品だった。

冒頭からぐいぐいとその世界観へと引き込み、終末まで疾走する。文体も読みやすいし、はじめて横溝正史ミステリ大賞受賞作を読むという人でも読みやすい作品になっていると思う。

特に死刑囚の父、八木沼悦史の息子を思う気持ちはとても尊敬に値した。

誰が本当のことを言っているのか、誰が嘘を吐いているのか、最後まで読者にじっくり考えさせる。

けれど終盤になるにつれて同じように名の者たちが相次いで出てくるため、整理して読んでいかないと、誰が誰だか分からなくなってしまう。真相が二転三転するのも少し分かりずらいし、最後の犯人の心理、僕には少し理解ができなかった。ただ、それらを踏まえても、最後の最後の決め手となるシナリオを読んだときは、読後感が素晴らしかった。これはぜひ、手元に置いておきたい一冊である。