12月のとても寒くなった日の休み時間に真緒はクラスで一番仲良くしている芽依と話をしていた。
芽依はバスケ部で、とても運動神経が良くて性格のさっぱりした子。
同じバスケ部の男子と付き合っていて、もう将来もずっと一緒にいたいと話しているらしい。
クールなイメージの彼氏との結婚を口にする芽依のことを、自分にはほど遠い世界で生きていると感じながらも、ちゃんと女の子らしいのは健全と思っている。
沢木君は相変わらず男子バスケ部の中で一番上手いというのも、芽依からよく聞いていた。
 以前、沢木君に真緒のこと聞かれたことがあると言っていたけど、その時も芽依には彼への自分の特別な気持ちとかを何一つ伝えてなかった。

 沢木君は特に雰囲気がモテる男子の全てを備えている。
優しそうで、どこか影もあって、バスケが上手い。あと立ち振る舞いがスマート。
でも、それが真緒の気持ちを揺さぶるきっかけだった訳じゃない。
沢木君を想うのは、何か欠けている自分を見つめ直すとか、置いてきた感情と向き合うことに近いかもしれない。
それを直視すればきっと痛みを伴う。
ただ、一人で考え過ぎてそのままにしたらきっと後悔するのは分かっている。
苦さと、自分にもあった初恋の頃の憧れが入り混じる気持ち。

 自分の意思では逃れることのできない欲求が、急に近付いて来て飲み込まれそうだった。
こんな日は絶対来ないと思っていたのにと客観的に見ている自分。
 昼休みが半分過ぎた頃、真緒は沢木君に呼び出された。
男友達と一緒に真緒のクラスの廊下のところに来て、落ち着いた様子で真緒に話しかける。

 なんとなく流れる時間がスローモーションの様に感じていた。

…こう歩いて行って、彼と話して…告白されて、自分はうなずく…
携帯の番号を教え合って、何か喋った後、
彼は自信のある顔をして、
「後で電話するから」って、言って帰って行く…
でもずっと前から、こうなることは知っていた様な気がする。
彼が自分の何処を良くて、付き合って欲しいって言うのか理解できないけど、友達からならいいと、返事した。

 今、自分のしたいことをして、自分の知りたいことを探す。
それだけで、こんな覚悟がいるものかと思うけど、心臓の音が聞こえているんじゃないかと思うくらい大きく鼓動を感じた。
沢木君は以外と話しやすくて、思っていたよりずっと優しかった。
穏やかで、本心をそんなに言わなそう。
女子として多々、欠落のある自分が彼と友達以上の関係をすぐに決めたのか説明仕様もない。
尊生のことを思うと少し胸が痛んだけど、それを考えても誰のためにもならないと思う。

 学校の帰りには、沢木君は玄関のところで必ず待っていて、少し話をしてからそれぞれ部活に行く。
何かこれといって話すこともないなと思うけど、不思議な気持ちだけは毎回していた。
自分の隣にいるのは誰?
沢木君は、自分のことを彼女にしたいと本心から思っている?
でも、誘われてクリスマスに一緒に過ごすことになった。
断る理由も無くて、ただ何となくに近いけど、彼は自分にとって特別なたった一人の男子に違いないと感じていた。

蘭は二人の成り行きを見守っているけど、歳上の彼と自分の最近のことで頭がいっぱいの様で、あまり話を聞いてこない。
蘭からは、聞かされる度に子供扱いでつれないような彼の話をするので、真緒も疲れ気味に返事をしていた。
寒い季節は体調を崩すことも多い蘭の体調を気づかって、部活を一人で行くからと早く家に帰ってもらった次の日、蘭は学校を休んでいた。

 真緒は一人で部室に行って、蘭のロッカーの中に病院でもらった精神科の飲み薬の袋が放置してあるのを目にする。
よく見てみると、全然飲まれていないくらい残っている。
急に身体中に寒さが増して、真緒は道着に着替える気を失った。