年の差のある元夫婦を両親に持つ夜学生の主任に、義理チョコにしては値が張るものを渡したのは、朝からバイトに入ってすぐだった。
それで、まだ人もまばらで受付で二人でチョコの話を色々していて
「これで福村主任も[僕も一度は、これこれこんなバレンタインチョコをもらったことがある]と自慢してね。これは有名な〇〇というメーカーのだから覚えておいて」などと、笑いながら恩着せがましく教えた。
すっかり主任を、これからも多分本命チョコを貰えない男子扱いをしていたものの、話を聞けばいろいろ苦労人ながら真面目な彼を応援したいという気持ちは大きかった。
私は何の色気もない言葉と共に渡したけれど、本気で嬉しそうな顔をした彼は可愛いかった。
そんな土曜日の午後、シフトの時間が来て、登崎君は何となく浮かれた様子で現れた。
「おはようございます…椋井さん!」
そう挨拶する彼は、いつもより笑顔が明るい。
「おはようございます。次の休憩でチョコ配りします。登崎君にも渡すね」と、伝えた。
今日はバレンタインイベントはあるけど、普通のバイトの一日が来て、普通に終わるはずだった。
一週間前に倉内さんと、お家デート的なことをするとなって二人で料理をした。
何となく予感はあった彼の計画に私は巻き込まれていた。
一緒に買い物に行って、並んで小さめのキッチンで料理を作る。私は医院の厨房でよく作ることのあるスープにすると言ったら彼は優しい笑顔でいいねと言った。
どうやら結婚していた時、倉内さんはあまり家庭を顧みない夫だったらしい。
今は反省していると切実な面持ちで言うところは、やっぱり営業マンらしい話のうまさがある。
隣で立って倉内さんはフライパンで厚切り肉を焼いて豪快に切る。男の料理を主張して、玉ねぎも大量に炒めていた。
私としては、人間としては好きな彼の、頼りになる大人の男感が目に余る。いつもそう思う。
別に男の人は頼り甲斐がないといけないとは私はあまり思わない。そんなものは、どうしたって人のその時々で変わって行くと思うから。
それよりも年も二つ上の彼が、素直な気持ちを言って笑う時は本当にいいなと思って、だからこんなデートとか、電話とか今までしていた私だった。
そして、倉内さんに正式に交際を申し込まれた。
私は、それを予想してたので、あまり驚くこともなく了承した。
後3ヶ月で、私も27歳になってしまう。
未来を見据えて落ち着くのはいいことだと思うから。
そして、私に彼氏が久しぶりに出来て一週間後、バイト先で男子高校に義理チョコを渡したら告白された。
年下過ぎるも彼を意識してしまってたけれど、まるで現実的ではないと、気持ちを断ち切って倉内さんと付き合うことにしたのに。
男子高校生と両想いになっていたなんて、ちょっと前までの私からは想像もつかないことで、いきなり私は現実逃避をした。
毎年バレンタインデーといっても、今まで特に何事もなく過ごして来た私にとって義理チョコ配るくらいしか体験がなかった。
昔、付き合ってた彼氏に渡すとかはあっても告白なんてしたことないし。
まさか逆にされるなんてびっくりを通り越して言葉も出ず、これから本屋の主任とかにも渡しに行くからと登崎君の前から去ってしまった。
あれからちょっと経って、侑斗君が真面目な顔で受付にいる私に話しかけて来た。
「あのチョコ買おうと思って椋井さんの言ってたスーパーに親と行ってみたけど、売り切れて無かったわ」
残念そうな顔で言う彼は子供らしくて可愛い。
で、急に話題を変えて言う
「椋井さん、、新汰のこと、ちゃんと振ってやってよ?それで気持ちが吹っ切れないと、諦められないと思うし」
それを彼は言いたかったんだと思うと、登崎君はここにいないのに胸がきゅっとなった。
友達だから、あの日のことを色々聞いているのだろう。そして、友達想いながら侑斗君は、よく理解している。
大人の余裕を少し見せて私は正直に答える。
「私は付き合ってる人がいるから、登崎新汰君とのこともこれまでです。なんか…もう気恥ずかしいなぁ」
私の顔を見て侑斗くんは、うなずいてスタッフルームに入って行った。
告白は、冗談でなくて本気なのは登崎君の目を見たらわかった。あれから連絡もして来ないけれど、ちゃんと返事をするべきだった。
次に会ったら、どんな顔でどう言うのか、ちゃんと決められない。自分はこんな性格だっただろうかと困っていた。
今は、ちょうど産院の患者さんが少ない。
産婦人科医院は寒い季節の早生まれの時期に少し暇になる。なので休みをもらって葉月さんが彼氏と旅行に行くという話で盛り上がっていた。
未希さんの、自分の旦那さん大好きアピールも少しも衰えを知らないけれど、葉月さんのところも仲良すぎるのがよく分かる。
そして、そう言う話を聞けば聞くほど、彼氏が出来たことをまだ皆に報告してない私は、自分の情熱の低さが後ろめたい。
ワクワクと旅行とか倉内さんと行きたいかと言えば謎だったり。
それに比べて、登崎君に言ってもらったあの言葉を思い出したら、ついニヤついた顔になってたらしく、未希さんに
「由夏さん、幸せそうに一人でニヤってしてるの何?」と、笑いながら聞かれてしまった。
倉内さん対しては、彼が営業で行って職場でまた会うことがあれば、もしかして翔子さんとの関係があるかもしれないとか、あれから思ったりするのに、嫉妬心が無いのが終わってる。
それなのに、高校生に告白されて喜んでいるのが、どうしようもなかった。
未希さんには到底わからない気持ちだろうから、言ったりはしない。ごまかして、さっさと未希さんの旦那さんの話へと変えた。