#妄想物語/若返りの薬 | Chaotic Interest Club

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短編フィクション書いたり、次元上昇とか、スピリチュアルなど、日常も含めてとごちゃごちゃと興味本位でカオスなブログとなっております。手放そう!心のゴミは浄化に限る。目覚めよう!たぶん日本人は波動の底上げ担当ですぞ。みなで踏ん張りこの世界を乗り切ろう!٩( ᐛ )و

「見た感じ、何も変わらない気がするけど。」
「ああ、そうだね。いわゆる老若男女、すべてそろってる感じがするだろうね。」
「うん。若返りの薬があるって聞いてたから、若者ばかりだと思ってたけど。」
「期待外れってところかな。」
「うん。普通に老人がいるね。」
「ああ。だけど、例えば、あそこにいるカップル、彼らは僕の友達なんだけど、あ、こっちにきた。はーい!お二人さん!」
「やあ、ん?新しい友達かい?」
「んふっ。かわいい坊やね。」
「あ、こ、こんにちは。」
「紹介しておこう、彼は正真正銘の三二歳、そして彼女が、、、」
「んふっ。二十歳に見える六十四歳よ。」
「おー!すごい!あ、失礼しました。」
「いいのよ。こんなに驚いてもらえるなんてむしろ新鮮だわ。」
「・・・さて、僕たちはこれからランチに行くんだけど、君たちはどうする?」
「一緒に、と言いたいところだけど、デートの邪魔になりそうなんでね。」
「そうか、遠慮してくれるか。」
「ああ。」
「さんきゅう!じゃあ、また今度な。坊や、またな。」
「あ、はい。」
「また会いましょうね。」

「あーびっくりした!本当なんだね!」
「そうだよ。」
「でもさ、若返りの薬があんなに効くのに、なんでまだ老人がいるの?」
「それはね、ギリギリまで体験してみたいからなんだよ。」
「ギリギリ?」
「そうさ。」
「ギリギリって?」
「寿命のことだよ。」
「ああ。」
「残念ながら、寿命はまだ解明されていないんだ。だから、何歳まで若返るかはその人の人生最大の賭けなんだよ。」
「ふーん。」
「つまりね、今では生きている期間に関係なく、年齢は本人の意思でいくらでも変えられるということなんだ。」
「ふーん。」
「だから、例えば先日十六歳で亡くなった天才画家と呼ばれた少女は、生まれてから八十年間生きていた人だったし、三十二歳で亡くなった登山家は、百十年の間生きていた人だったんだよ。」
「なるほど。若返りの薬の使い道がわかってきた!」
「それはよかった。あと、この話はぜひ聞いてほしいんだけど。」
「なあに?聞く聞く!」
「ありがとう。えっとね、さすがに脳が育つ前にまで若返っちゃうと、これまで培ってきた記憶が消えてしまうんだ。」
「え?それじゃ、小学生くらいまで若返っちゃうと、これまで磨いてきた技や知識とかもなくなちゃうの?」
「そうなんだよ。だから昔は、若返りは十八歳までが最適といわれてたんだ。」
「うん。」
「ところがね、15年前、こんなエピソードがあってね。」
「うんうん。」

「・・・生まれてすぐ保育園の前に置き去りにされて施設で育った人がいてね、その人は人づきあいもうまくいかず天涯孤独で、六十年間さみしさを抱えたまま生きていたんだ。そしたらある日、彼はSNSで子供のできない若夫婦と意気投合してね、なんとゼロ歳児になる決意を固め、本当に彼らの赤ん坊として生きることを選んだんだよ。その家族のブログがあるんだけど、読んでるとね、もう愛情一杯で感動するんだ。」
「・・・その人、ほんとにまったく昔の記憶はなくなってるの?」
「ああ。全くないそうだ。でもね、家族を持ちたかった胸の内を、そしてそれを受け入れてくれた夫婦への感謝の気持ちを、ちゃんと動画に残していて、今は自分が七十五年間生きていることを受け入れ、寿命を全うするまで一日一日を大切に暮らしていきたいそうだ。」
「ああ、なんか感動するなあ。」
「だろう?」
「うん。」
「なんかさ、この頃いつでも若返ることができると思うと、不思議と一年ごとに年を取って老人に近づくことが愛おしく感じてくるんだ。」
「なんかわかる気がする。」
「まだわからんだろうが。」
「あはっ。わかんない・・・かも。」
「ははは。ま、日々大切に暮らそうってことだね。」

#妄想物語

 

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