いつもお付き合いくださりありがとうございます。
本日お届けするのは2020年蓮誕です。
もしかしたらこのタイトル、記憶にある方もいらっしゃるかもですが、記憶のある・なしに関わらず、原作19巻を読んでからお付き合い頂けたら嬉しいな、と思います。
…ていうか、読みたくなると思います。
タイミング的にすぐ読めないお嬢様は後ほど原作を読み返してくださいね♡
お楽しみいただけたら嬉しいです。
2020年祝・蓮誕
■ 褪せない想い ■
時間があるときは自宅のシアタールームに籠り
男の子…というよりは
いつの間にか男性と呼ぶにふさわしい顔つきになっていた息子の顔を穴が開くほど見つめながら、夫が持ち帰って来てくれたビデオレターをエンドレスで眺める日々を私は何か月も続けていた。
『 心から感謝します。二人の深い愛情に 』
胸に響く懐かしい声。
記憶のそれより少し低くなっている気がするのは、きっと気のせいではないのだろう。
今の息子の姿を脳裏に焼き付けようと大きく目を見開こうとするけれど、視界はあっという間に歪んでしまって、息子の顔をちゃんと見られた時などほとんどなかった。
「 ジュリ。またここで泣いているのか 」
「 仕方ないでしょ。泣きたくて泣いている訳じゃないのよ。出来ればちゃんと顔を見たいのに、声を聞いただけで自然と涙が出て来ちゃうの 」
そう言った私を見て、夫のクーは優しく微笑んで見せたけれど、その笑顔を見るたびに私はクーとの温度差を感じていた。
夫の目に涙が浮かばないのは、彼が父親だからだ。
きっとそれは仕方のないことなのだろう。だって絶対に違うはずだもの。
夫がどれほど息子を愛していたとしても
このお腹の中で育み
産みの苦しみを味わった母親のそれに
勝る愛情を持つ父親などいるはずがない、と私自身が思えるから。
――――――― もういや!!もう嫌よ、クオンに会わせて!!
『 ジュリ、待つんだ!いまあの子は自分の力だけを信じて日本で頑張っているんだ。だから…っ… 』
『 っっっ!!あなたなんて嫌いよ、クー!
あなたはいいわ!最後にクオンと会っているのだから!だからそんな風に自分に言い聞かせることが出来るのよ!ひどいわ、私がいない間に!あなたなんて大嫌いよ!! 』
クオンのことを想うのなら
我慢すべきと思ったけれど
それでも何度発作的に日本に乗り込もうとしたことか。そんなのはもう、数えきれない。
「 ほら、ジュリ。ココアだよ 」
「 …っ…ありがとう…… 」
夫が淹れてくれたココアは湯気さえ甘い香りで、心がホッと和んだ。
カップを持って瞼を伏せると、ぽたり、ぽたりと涙が溢れる。
ココアを一口味わってから目を開けると、水が流れ落ちた分だけ視界はクリアになっていた。
『 必ず自分の力で二人の元へ帰るから、その時は呼ばせてください 』
クオン。たった一人の私の息子。
壁にかかっているカレンダーを眺め、音の無い時計を見つめた。
LAと日本の時差は約17時間。
いまこちらが2月9日の14時ということは
日本は2月10日の朝7時頃のはず。
クオンのことを想えばこそ
何もしてはいけないと判っていたけれど
それでも抑えられなかった。
なぜなら2月10日は自分の人生で素敵な奇跡が起こった日だから。
「 ……蓮 」
「 なんですか、社長。朝っぱらからどうして現場にわざわざ… 」
「 今朝、俺のところにメールがきた 」
「 は? 」
「 見るか? 」
「 社長の所に届いたメールを俺が見てどうするんです 」
「 見てから判断しろ 」
「 はい? 」
それでも、ローリィにメールを送ったのは、理性の紐が細く残っていたからかもしれない。
もっとも、自分はいまのクオンの連絡先を知らないのだけれど。
ローリィに叱られるかしら…。
そう思いながらしたためたメールは
バースデーケーキの写真と一言だけのメッセージ。
ケーキは昨年のものだけど。
『 2月10日は私の人生で一番素敵な奇跡が起こった日です。お誕生日おめでとう 』
返信など来るわけないと判っていた。
それでも届けたいと思った。
あなたが自分の信念を曲げてまで
私のためにクオンの姿に戻り
ビデオレターを撮ってくれたそれが本当に嬉しかったから。
「 ジュリ、時間だ。わたしは仕事に行って来る 」
ビデオレターを何回見たあとだったか。
時間を確認すると2時間ほどが経過していた。
身支度を整え、すっかり俳優顔になっている夫に、ええ、と答える。
涙目のまま行ってらっしゃい、と伝えると、クーは私の頭を自分の元へ引き寄せた。
「 ジュリ。あんまり泣きすぎると頭が痛くなってしまうぞ。もう今日はやめておいた方がいい 」
「 ……そうね。あと1回見たらやめておくわ 」
「 クス。もう十分見ただろうに。…まぁいい。行って来る 」
もう一度、夫に行ってらっしゃい…と呟いた時だった。
ピロロロロン♪
メールの着信を知らせるメロディが流れた。
きっとローリィに違いない。
苦笑を浮かべて携帯を手にした私は
届いたメールを開いて、深く瞳を潤ませた。
『 俺にとって2月10日は母親に感謝する日です。お母さん、俺を生んでくれてありがとう 』
短かったけれど
心のこもったその言葉に
我慢がきかずに涙が溢れる。
あなたが居なくなってしまったあの日を思い出すと
今でも張り裂けそうになる。
でも、もうあの頃とは違うのね。
クオンはいつまでも子供だと思い込んでいたけれど
息子は自分が知らぬあいだに少年から青年に成長し
いつの間にか一人前になっていて
こんな風に
自分の信念に目をつむって
母親に優しさを示せる子になっていたのだ。
「 ……っ……ありがとう…ごめんなさい。もう大丈夫よ、クオン 」
大丈夫。本当にそう思った。
いまはちゃんと信じて待てる。
だってあなたは
必ず私たちの元へ帰りますと約束してくれたのだから。
E N D
メールの内容を英語にしようかで悩んだのですが、すっきり通じた方がいいだろうと考え、日本語にしました。でも本来なら英語ですよねー。あ、分かってる?なら良かった(笑)
ちなみに私の母はもう天国ですが、今年の自分の誕生日には感謝を捧げようと思います。
⇒2020年蓮誕◇褪せない想い・拍手
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