やっほー、一葉です!ヾ(@^▽^@)ノ
弊宅500記事を記念して、りかちゃん様からお与かり致しました記念リクの続きをお届けいたします。
お楽しみいただけたら嬉しいです。
前話こちらです↓
■ 天使の落とし物 ◇3 ■
それから一週間ほどが経過した。
今のキョーコちゃんの状態だけを見ると、まるで何事もなく順調に回復したように見えるけどやはり最初は大変だったらしい。
骨折後2~3日は必ず炎症期が訪れる。痛みは骨からだけじゃなく骨膜や筋肉、靭帯、血管などからも発生する。
それは回避しようのないことで、その間はアイシングと鎮痛剤で痛みを和らげるほかに対応の術はないという。
足親指骨折の場合、腫れや強い痛み、内出血などが起こることを蓮はあらかじめ医師から聞いていた。
その言葉通り、キョーコちゃんの足は最初こそ外傷はほぼ見受けられなかったものの、蓮の言葉を借りるなら俺が帰宅してから数時間後。
キョーコちゃんが夜中に目を覚ました時には異常なほどひどく腫れあがったらしい。
足指に巻かれたテーピングは腫れた患部をさぞかし圧迫したことだろう。
腫れたらテーピングは外していいと蓮は指示を貰っていたそうだが、それでも悩まなかった訳じゃないだろう。
なぜなら骨折治療の基本は折れた骨を元の位置に戻し、骨がくっつくまで固定し続けることなのだから。
けど、痛いと呟き続けるキョーコちゃんのそれは見るに堪えがたいものがあったに違いない。
結局キョーコちゃんのために全てのテーピングを解いた蓮は、翌早朝、キョーコちゃんを連れて朝一番で再度病院へ向かったという。
キョーコちゃんのスケジュール調整と、事故後のドラマ撮影班との予定のすり合わせでゴタゴタしていた俺は、後日ことの顛末を聞いて、蓮を休みにしておいて本当に良かった…と、自分の采配が間違っていなかったことに安堵を覚えた。
「 はい、もういいですよ。うん、なかなかよろしいですよ、最上さん。ちゃんと言いつけを守って安静にしているようですね 」
「 そばに居る看護士が優秀なもので… 」
「 ……っっ!! 」
カーテンに仕切られた診察室の中。
複雑そうに眉をひそめながらつぶやいたキョーコちゃんの返答に、彼女の後ろに佇んでいた俺は蓮の顔を思い出して瞬間ふいた。
折れた骨を元の位置に戻し、以降、固定を妨げるような外力を極力かけないようにすることで、ほとんどの場合骨折は後遺症を残さず治すことが可能だという。
キョーコちゃんがケガを負ったあの日。
蓮の中で、少なからず簡単には拭えない後悔があったからこそ、入院を拒否したキョーコちゃんをあいつは自宅に連れ帰ったのだろうけど。
それが一番良い結果を生んだのかな、と俺は思う。
出来る限り安静を心がけ、特に足指には絶対に力を入れない様に…という医師からの指示は、階段の上り下りを常とする彼女の下宿先では難しいだろうと判断し、キョーコちゃんはあの日からずっと蓮の家で生活をしていた。
その際、それこそ小姑かと突っ込みたくなるほど蓮はひどく小うるさいらしいのだ。
最初にキョーコちゃんを診てくれたという中年男性の先生は、眼鏡の向こうで微笑まし気に視界を細めて有難いことですね、と穏やかに言葉を継いだ。
「 この分なら何の問題もないでしょう。また3~4日後にいらして下さい 」
「 はい、ありがとうございました 」
キョーコちゃんの今後についてはあの日、蓮と二人で話し合った。
治療について医師から一通りの説明を受けた蓮から俺がその内容を聞き及んだ限り、蓮はキョーコちゃんの症状がたとえ落ち着いたとしても通学は断固反対する気でいた。
何しろ往復だけでもかなりの距離を移動しなければならないし、そもそも学校でも階段移動は必ずある。
松葉杖で転びでもしたらシャレにならないと危惧し、5週間ぐらいの休みになったのだと受け取ってもらいましょうと言った蓮は、一人にするのは心配だからと仕事中も常にキョーコちゃんを自分の目の届く範囲に置いていた。
けれどそれは、必ずしもキョーコちゃんにとって良い環境ではないから。
予想通り、仕事が出来ないならせめて学校に行きたいとキョーコちゃんが言った時に俺が蓮を説得した。
移動教室が無い日に限り、俺がキョーコちゃんを学校まで送り迎えするからと言って。
加えて学校後の通院はこちらとしても都合が良かった。
診察時間ギリギリになるということもあって病院内はとにかく人がまばらで、おかげでひと目を気にする必要が無いから。
「 キョーコちゃん、待合室でちょっと待っててもらえる? 」
「 え? 」
「 俺、今後のことを少し先生と相談したいんだ 」
「 ああ、はい。…じゃ、ロビーの待合室で待っていますね 」
「 うん、悪いね 」
「 いえ 」
一週間が経って、確かにキョーコちゃんは安定しているように見えた。
けれど気は抜けなかった。
昼間は元気そうだけど、蓮が言うにはキョーコちゃんはまだ夜中に熱を出すらしいのだ。
「 ……夜中の発熱ですか?それで解熱剤が欲しいと?
うーん……。正直に言うとあまり処方したくないけど… 」
聞くなり先生は渋い顔を見せた。
「 どうしてですか? 」
「 解熱薬というのは体温中枢に作用して病的に上昇した体温を正常値まで下げる薬剤のことです。
彼女の炎症期はもう過ぎていますし、にも拘らず飲み続けたりすると今度は中毒になる場合もあり得る。熱はかなり高いんですか? 」
「 いえ、そこまで確認していませんでしたが…ただ熱が出るとしか… 」
「 うん、一応、痛み止めには解熱作用も含まれていますから微熱程度なら解熱剤は必要ないでしょう。ただ、あまりにも繰り返し発熱するようなら別に患部があるのかも知れないので注意が必要です。
体温を正確に計ってもらうのと、発熱の際どこか痛むような仕草をしないか確認するように伝えて頂けますか。その、敦賀蓮さん似のイケメン看護士さんに 」
茶目っ気を含んだ医師の言葉に俺は浮かんだ笑いを小さく留めた。
「 ……っ……判りました 」
「 ちなみに、処方されなかったからと言って漢方を飲ませたりしないで下さいね 」
「 はい? 」
「 時々ね、いるんですよ。そういう患者さんが。漢方は自然の生薬だから身体に良い…なんてイメージがあるせいかも知れませんが、そもそも服用作用がある以上、身体に影響があるものに違いはない。
誤った使い方をすれば当然、悪い作用も出ます。容易な服用はお勧め出来ません 」
「 判りました。併せて伝えておきます。じゃあ様子を見てまた後日、お願いします 」
「 はい、お大事に 」
有難うございました…と頭を下げ、キョーコちゃんを迎えに行くより前に会計に向かった。
今日のキョーコちゃんの登校は午前中のみ。
登校時間に合わせて彼女を学校に送り、一度蓮と合流したあと、蓮からの許可が下りなかった移動教室の授業が受けられないキョーコちゃんを時間通りに俺が迎えに行ったのだ。
その後の受診ということもあり病院の診察時間はギリギリで、会計にも待合室にも人はまばらにしか居なかった。
だからキョーコちゃんを見つけるのは容易で、見知らぬ男性と立ち話らしきものをしているキョーコちゃんの姿がすぐ視界に入った。
もっとも、キョーコちゃんはソファに座っていたけど。
「 お待たせ、キョーコちゃん 」
「 どうやら来たみたいだね。……お兄さん? 」
「 え? いえ、違いますよ 」
「 そうか。優しそうな雰囲気だからそうかな…と思ったんだけど 」
「 ふ…。確かに社さんは優しいですけど。でも、全然似ていないじゃないですか 」
「 …そうだね。でも、兄妹だから似ているとは限らないよ。実際、オレと妹もそうだし 」
「 えっと??? 」
「 ああ、オレは通りすがりの者です。前も人がまばらな時間に彼女を見かけて話しかけた事があったのでつい… 」
「 そうだったんだ 」
「 ええ…… 」
ソファに座ったキョーコちゃんのそばで立ち尽くしたその彼が、ふわり…と儚い笑顔を浮かべたとき、俺は不思議な奴だな、と思っていた。
どことなく蓮に似ている。
背は蓮より少し低めで
声に至っては全く蓮と違うのに
なのに雰囲気が物凄く似ている気がした。
そうだ。
社長にコイツのマネージャーをやってくれって、顔合わせをした時の蓮に似ている気がするんだ。
「 じゃあオレはこれで失礼します。お大事にね 」
「 あ、はい、わざわざどうも 」
そう言って歩いて行った彼は、片手に数種類の雑誌を抱えていた。
――――――― 妹…?
もしかしたらその子のお見舞いだろうか。
売店から購入して来たと思われるむき出しの雑誌達の、少なくとも見えた表紙を飾っていたのは蓮で、それがあの日、キョーコちゃんが抱きしめていた本と同じだと気付いた俺は慌ててキョーコちゃんに視線を移した。
だけど期待虚しく、キョーコちゃんには何の変化も無かった。
「 ……変なの 」
「 なに?キョーコちゃん 」
「 あの人、またあの雑誌を持ってる。敦賀さんが表紙の…… 」
「 え? またって??? 」
「 この前…骨折だって診断されたあの日、敦賀さんをここで待っていた間にあの人に声をかけられて、その時もあの人、あの雑誌を持っていたんです。その時は誰かのお見舞いかなって思ったんですけど…… 」
「 え?! 」
キョーコちゃんのセリフで弾かれるように俺は再び彼の姿を求めたけど、既に彼の姿はどこにも無かった。
――――――― …いや、いくら何でも考えすぎか?
けれど自分の中で何かが引っかかった。
そもそも蓮が表紙を飾ったそれは、働く女性をターゲットにした女性誌だったのだ。
少なくとも男性が何度も手にするような本じゃないし、ましてや彼は蓮とほぼ同い年に見える。もし仮に妹のお見舞い品だとしたらそもそも辻褄が合わないじゃないか。
だけど…。
たまたま、年上の女性のお見舞いが重なったとかも有り得る訳だし。
気のせいかも知れないし
そうじゃないかも知れない。
いずれにせよ、この件はあとで蓮の耳に入れておこうと思った。
「 さ、キョーコちゃん、蓮の所に行こうか 」
「 はい、でもその前に… 」
「 うん、買い物がしたいんだっけ? 」
「 はい!したいです。敦賀さんってば私がキッチンに立つことさえ許してくれないんですよ 」
「 ああ、それ、俺も蓮から聞いたけど。でもいくら何でもシェフ込みのケータリングはやり過ぎだよな~ 」
「 本当ですよ!なのに敦賀さん、何でもかんでも自分の意見を通そうとして、何かあるとすぐ、これ以上四の五の言うなら…ってハレンチなことを言うし!! 」
「 ……破廉恥?どこが? 」
「 とにかく!何でもお金をかければ良いってもんじゃない…って私が文句言ったら思いっきり拗ねる真似までするし。それで私、私が作るのがダメなら敦賀さんが作って下さいって言ったんです。そしたら、君が指示をくれればその通りに作るよって敦賀さん、そう言うから… 」
「 ええ~?そんなこと言ったの? キョーコちゃん、無謀~ 」
「 まさかそう返すと思わなかったんです!てっきり出来る訳ないって言うと思っていたのに 」
「 そう。それで買い物? 」
「 そうです!こうなったら本当に作って頂こうと思いまして。
缶詰めと高級レトルトの組み合わせなら敦賀さんでも簡単に美味しく出来ると思いますし、今後の為にもなりますしね。それに、今はお野菜とかもカットされたものが売っていますから何とかなるかと 」
「 なるほど、いい考えだね。ついでに俺も自炊の参考にしようかな~ 」
「 はい!して下さい、是非! 」
「 よし。じゃ、買い物の間は当然キョーコちゃんは車イスだよ 」
「 うううう~~~~。松葉杖で充分歩けるのに、車イスまで用意するとか。そもそもこの怪我は敦賀さんのせいじゃないのにやり過ぎですよね?! 」
「 いいじゃないか。蓮がそうしたいって言うんだからさせておけば。それに、俺はその方がキョーコちゃんにとって良い事だと思っているよ。はい、車に乗って 」
「 はぁい、お邪魔します 」
ともかく一時はどうなる事かと思っていたけど
特に問題も無く、二人が同居生活をそれなりに楽しんでいるらしいことを察することが出来た俺は、笑いながら車のハンドルを握った。
⇒ 天使の落とし物◇4へ続く
お話に全く影響がないので言ってしまいますが、キョーコちゃんを診察している医師の姿が何故か一葉脳内では藤道さんだったりします(笑)
パラレルだったらそれもアリですけどこれ違いますのでね。
たぶん、藤道さんの親戚あたりかなとか、妄想して楽しんでいたり(笑)
いや、ほんと、どうでも良い事ですけど。
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