■ご訪問有難うございます。一葉です。
こちらは10/19発売の雑誌に掲載されました、スキビACT205の未来妄想小説になります。
内容には、妄想とネタばれが大量に含まれております事をご承知の上、自己責任でお読みください。
どうぞよろしくお願いします。
ACT205未来妄想 ■side 蓮 ■Scene1 プロローグ
日本との時差、1時間
4月の平均最低気温 25℃ 平均最高気温 28℃
乾季に入って爽やかな熱気をまとうこの地で。
俺は、再び逢える君の事を想って胸を震わせた。
信じて欲しい。
クオンに翻弄されながら、それでも俺がここにいるのは
君が居てくれたからだ。
遠い、遠い日に捧げた俺の祈りを、君が大切にしてくれたように、俺は君を守りたいんだ。
親から愛情を与えてもらえず、いつも泣いていた君。
それでも人を愛する尊さを、君は知っていたね。
裏切りは君の心に鋭い刃を突き立て、簡単には覆せない傷痕を残した。
なのに君は、頭をうなだれることなく、まっすぐに前を見たんだ。
だから、負けたくないと思った。
他人に傷を負わされた君が、自らの脚で立ちあがろうとしているのに、己の未熟さが引き金となって闇を抱えた俺が、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないと思った。
君に、ふさわしい男になりたくて。
全ての罪を背負える強さを手中に収めて、
誰にも恥じない自分を勝ち取りたいと思った。
でも、今は少し後悔もしてる。
本当は離れているべきなのかも知れないと思う時もある。
自分の傲慢な欲求で君を泣かせるのは本望じゃない。
どうか、信じて欲しい。
俺はいつも君を守りたいと思っているんだよ。
ACT205未来妄想 ■side 蓮 ■Scene1.5 『戸惑い』
チン。
機械音が耳に届き、目前に道が開かれる。
俺はエレベーターから遠ざかり、ゆったりと歩を進めた。
(予定より遅くなったな)
ホテルの廊下にはめ込まれた大きなガラス窓からは、もう日の光は入ってこない。
カインの姿のまま目的地へと進む。
辿りつく部屋の中には、俺の妹 セツカがいる。
彼女の事を考えるだけで、自然と気持ちは前を向いた。
昨日、浜辺で遭った時は驚いた。
社長から、彼女がセツカとして再び俺のもとへ戻ってくるとは聞いていた。
冷却期間を置いて、再び自分の近くに来てくれると知った時は、本当に単純に嬉しかった。
昼間の件で、監督から事の詳細を聞き及んだ俺は、浮かれ過ぎていた自分を戒めた。
だがそれをおして尚、この地に彼女が来てくれた事を思うと、心の中に暖かい何かが灯るのを感じていた。
廊下の角を曲がり、ドアの前で一旦止まる。
日本にいた時とは違う場所。
だがこの扉の向こうに、君と俺だけの舞台がある。
部屋の造りこそ違えど、従うルールに変わりは無い。
(俺にとっては、あの子がいると思うだけで大きく意味が異なるけれど)
知らず緩む口元を手で覆い隠し、深く吸気を吐きだす。
冷静になって思う事は幾つもあり、今この扉をくぐる事でさえ緊張しないと言えば嘘になる。
だが、それに勝る想いが確かにあった。
目を閉じて、呼気を入れる。
思い出すのはダークムーン演技テストの時の自分。
自分から離れてしまわなかった美月を思い、嬉しさを体現したあの時の気持ち。
その何倍もの喜びを今、実感している。
(今なら、もっとリアルに彰著できそうだ)
一度視界を開けて、再び静かに瞳を閉じる。
今の俺は、カイン・ヒール。
心を動かされるのは芝居と妹だけ。
気持ちを切り替え、カードキーを差し込んだ。
ピ…カチ…。
明るい照明に満ちた室内に足を踏み入れる。
『 お帰り、兄さん 』
本来なら耳に届くはずの声が聞こえない事に、若干の胸騒ぎを覚えた。
しかしそれはすぐに気のせいだと気付く。
数歩進んだ先にある、折りたたみ扉の向こうに、水音が響いている。
清浄な音を立てたそれは、耳を澄ませばきちんと室内にも届いていた。
トストスと歩を進め、部屋の奥にあるテーブルに詰めよって、財布とタバコ、手袋を身からはがした時、ふと違和感に気付いた。
……風呂?
妙だな、と思った。
( 確か、俺が部屋を出る時に入ったんじゃなかったか? )
トラジックマーカー海外ロケ。
本日無事に初日を迎え、夕方には1日目の撮影を終えた。
打ち合わせを兼ねた夕食をとることになっていたが、俺とセツカは二人で部屋に戻って来たんだ。
久しぶりに食べたセツカの手料理。
打ち合わせまでのほんのひと時をこの部屋で過ごし、セツカを残して致し方なく部屋を出たのは2時間以上前のことだろう。
彼女がシャワールームの扉をくぐったのは、俺がこの部屋を出ていく時だったはず。
だが・・。
入浴時間をずらしたのかもしれない…。
変わらず届くシャワーの音。
水音の流れは常に一定で、まるで細い滝の水音を聞いている様だと思った。
心に滲む嫌な予感を携えながら、バスルームの扉をノックする。
コツコツ。
「 セツ? 」
返事を求めたが返る声は無い。
続く、変化を伴わないシャワー音。
どうしようかと一瞬だけ迷い、広がる不安に押しつぶされる前に思うより先に体が動いた。
「 セツ。入るぞ? 」
カチャリとドアが開く。
室内に充満した湿度と熱気がまとわりつくように襲いかかる。
シャワーカーテンの向こう側から変わらず音が聞こえる。
だが、その余りの気配の無さに視線を動かし目を見張った。
天井から下げられたクリーム色のシャワーカーテン。その裾とバスタブの間に挟まれる、細い腕が見えた。
バスタブに沿うように仰向けに投げ出された右腕。その手に力が入っていないことは、ゆるく開かれた手の平から安易に推察できた。
刹那に浮かぶ脳裏をかすめる想像。
あまりの展開にめまいを覚えた。
( 最上さん!? )
間髪いれずに勢いよくカーテンを開けると、バスタブに寄り掛かって横たわる彼女が目に飛び込んだ。
「 セツ! 」
湯こそはっていなかったが、浴槽につかるようにしゃがみ込んだ彼女は、左脚のひざをゆるく立て、右腕をバスタブに引っかけるようにして全体重を任せ、ぐったりと右肩に頭を預けていた。
瞼はしっかりと閉じられていて、降り注ぐ湯水が容赦なく彼女を打ち付けている。
あらわになった胸は守るものを持たず、力なくぶら下がった左手がかろうじて彼女の下半身を隠していた。
シャワーを止め頬を叩く。
「 セツ!セツ! 」
化粧を落とし、ウィッグもはずした状態の彼女は、どちらかと言えば最上キョーコだったけれど。
暖かい気温が幸いしたのか、それとも身に浴び続けた湯水のせいか、彼女の体は冷えてはおらず、同時に異様な体熱も存在していない。
細く呼吸を繰り返している事を除けば、彼女はまるでリアルな人形の様だった。
( 体を…拭かないと… )
無防備に空気に触れている細い身体にバスタオルを掛ける。
力なく投げ出された右手を持ちあげて、静かにバスタブから引きはがすと、重力に逆らえない彼女の頭がガクンと揺れる。
「 セツ! 」
バスタブから抱き上げ、いったん彼女を床に下ろすと、今度は背中側からバスタオルごとバスローブでくるんだ。
「 聞こえないのか?セツ!セツカ!」
頬を叩いても何の反応も無い。
細い肩に守られた小さな胸が、変わりなく上下に動いてるだけ。
( とにかく、あまり揺すってはダメだ。もし立った状態で倒れたのだとしたら、頭を打っているかもしれない )
備え付けのバスタオルを自分の左肩に掛け、濡れた彼女の頭をタオルへと引き寄せる。
鼻口をくすぐる彼女の香りに早鐘を打つ心臓を抑えつけ、宝物のようにそっと抱きあげて一番近いベッドへと横たわらせた。
白い肌に吸いついた幾つもの水滴が、効力を無くした魔法の呪文のようにあっけなく滑り落ちていく。
左肩に掛けたバスタオルを手に取り、細い手脚から滴を吸い上げる。
くるんだタオルとバスローブが、彼女の体から水滴を引き上げてくれる事を願ってみたものの、服を着せるかどうかでまた悩んだ。
愛しい彼女から視線をはずすと、床には滴った大量の水滴。
カインなら…何の躊躇も無いんだろう。
だが俺は…
社長室で会った彼女を思い出す。
俺の顔を見て、赤面するのではなく青ざめた彼女。
( 現実の残酷さを何度も味わうのは、勇気がいる )
カインとして動く事は出来る。
だが、今は良くてもトラジックマーカーのクランクアップは目前だ。
もう少ししたら俺達は、兄妹として顔を合わせる事は無い。
同じ事務所の…ただの先輩と後輩だ。
襲来する様々な思い。
俺の心をこんなにも揺さぶるのは、後にも先にもこの子だけだろう。
だが ―――――――
彼女の体調を考えると、選択出来るのはたった一つだと思った。
いくら暖かい気候とは言え、湿ったタオルにくるまれたままではやがて体温を奪われるだろう。
それが引き金となって、更に彼女の体力を奪う事は避けたかった。
そうだ、と思い立ち、自分の荷物から厚めのTシャツを取りだした。
( たぶん…大きいだろうが… )
カインは密着した服を好まないので、自分が着ても少し余裕のある服。でもこれ以外の方法は思い付かない。
彼女の上体を起こし、頭からスポンとかぶせて、とりあえずそのまますっぽりとTシャツでくるんだ。
彼女の膝までを覆い隠すような勢いに、こんな事態にも関わらず不思議と口元が緩む。
力の入らない彼女の右肩を自分の胸に寄り添わせ、華奢な背中を抱きしめるように左腕を回し、左手で細い肩を抱き寄せる。
濡れたタオルで肌を傷つけないようにと注意を払いながら、右手でTシャツの裾からゆっくりとタオルとバスローブを引き抜いた。
ボートネックのTシャツの端から白い肩がはだけただけで、簡単に背筋を這い上がる衝動を感じる。
大きくなる心臓の音を耳元で聞きながら、それでもなるべく平常心を保った。
自分が息を止めていることにはまるで気付かずに。
静かに体を横たわらせて、今度はTシャツの袖口から自分の手を差し込む。
彼女の細い腕を掴んで、袖を通す。少し身体が見えてしまったが、もうそれくらいは容赦してもらいたい。
( こんなに大きいならはずさなくても良かったな … )
胸元にある3つのボタンダウンが目に止まり、ちらりと覗く胸元に再び衝動が湧きあがる。
触れない様にと気を配りながら、細心の注意を払ってそのボタンを止めた。
息が、つまりそうだと思った。
ある意味これは拷問だろう。
それでも理性で抑えこめるのは、自分の中で定めたルールを、遵守したかったからに他ならない。
( 頭を … 乾かしてやらないと )
ベッドサイドのコンセントに電源を差し込み、おおざっぱで申し訳ないが髪を乾かした。
ここまでしても彼女が目を覚ます事はなく、しかも身じろぎひとつしない。
( なぜ、目をあけないんだ )
顔だけを見れば可も無く不可も無く、表情こそないもののただ穏やかに眠っているようにも見える。
( 本当だ。顔色が少し悪い… )
なぜ昼間に気付かなかったのか。
自分の不甲斐なさに腹がたった。
室内の照明を落として間接照明に切り替えると、ようやくこの部屋にも夜が訪れる。
ぼんやりと薄明るいベッドサイドのスタンド照明が、二人きりの世界だと教えてくれた。
オレンジの光が、彼女のやわらかそうな唇の稜線を浮き上がらせる。
されるがままの彼女の右手を取り、とう骨から脈を確認する。
正確に1分間計ってみると、ほぼ標準的な成人の脈拍と変わらない事に少し胸をなでおろした。
上掛けをかけ、ピクリとも動かない彼女のまつげに視線を落とす。
不安が胸のうちに溢れたが、それでも…と思いとどまる。
セツの正体もカインの正体も、誰にも知られる訳にはいかない。
( 様子をみよう、限界までは )
眠る彼女のベッドを壁に押し付け、2つのベッドの間の空間を拡げた。
備え付けの1人掛けのソファをそこに置いて、自分の居場所として陣を構える。
ソファに浅く腰かけ、前屈みで彼女を見つめる。
祈る気持ちは抑えなかった。
目を覚まして、早く自分を見て欲しい。
( …最上さん )
彼女がこの眠りから覚めた時、色んな呪縛からも解放されていたらいいのにと思う。
そして自分を見てくれたら…と。
もちろん、自分勝手な俺の願いなど、叶う訳ないと知っているけれど。
なんか…鬼のように長くなっちゃった…。
恐らくたかが15分かそこらの出来事なのに…。(蓮くん的には違うかもだけど)
しかし…初妄想でこれって長すぎですか?(--)
Please do not redistribute without my permission.無断転載禁止
◇有限実践組・主要リンク◇