秋の拙著、刊行へ向け、国立がんセンターでの取材が続いている。
面会時間が終わる頃、すっかり暮れたがんセンターでは
いつも切ない別れがある。
小学生の多分、4年生と1年生くらいのお嬢さんが二人、
パパに連れられてママのお見舞いに来ていた。
時間外通用路の端っこで、そのお嬢さん二人が
ママのパジャマの端っこをつかんで離さない。
もう、時計の針は20時を過ぎていた。
ママが
「ありがとうね。来てくれてありがとうね。
またね。ちゃんと宿題をするのよ」
とその二人の女の子の頭をやさしく撫で続けている。
その手がはっとするほどに細く、白く、
私はそこに目が止まる。
パパが
「もう、行くよ」と促すほどに
ママのパジャマの端っこをつかむ手は
ぎゅっと、強くなるばかり。
ママはしゃがみ
彼女たちの顔をじっとみつめながら
「おばあちゃんが心配するから、帰ろうね。
また、今度の土曜日に来てね、待ってるから」
と優しく言って、
そのお嬢さんたちは漸く手を離した。
暗い時間外通用路を歩く、我が子とパパの姿を
小さく手を振りながら見送るママ。
大きく手を振り続けながら、
ママ、ママと、泣きながら、
パパに引っ張られるように歩く子どもたち。
こんな風景は、どこの病院でも、多分、
毎日、毎日、たくさん、たくさん、あるシーンなのだろう。
だけど、やっぱり、祈らずにはいられない。
この子たちが、強く強く生きていけますように。