おはようございます。
毎日『馬賊の太陽』をお送りしていますが、
それなりに閲覧が高くなってきました。
こうして巻頭に書くエッセイがよいのかもしれないけど
毎日、日々のことを考えながら綴るには
こうした77年以上前の日本のことを考えながら
今を考えると
また違う感性になりまするね
欲しいものに手を伸ばせば届く時代に
変わってしまったことに誰も現代人は気づいていない
美味しいモノは金さえあれば手に入る時代
そして
人の心も
金さえあれば買えると思ってしまう
また、金がなければ、愛されないと思ってしまう
それでは
馬賊の太陽
続きです
○同・林の中
晴れた朝。行商の恰好の男が太陽を見つける。男が恐々太陽を揺らす。
男「お、おい、生きてるか?仏さんか?」
太陽が薄く目を開け、手を動かす。
男「生きてた!お前、村のもんか?」
太陽がゆっくりうなづく。喜ぶ男。
男「名前なんていうんだ?おい!」
目を大きく開けて男を見る太陽。
太陽「・・わからない。俺、誰だ・・?」
日差しが太陽をまぶしく照らす。
太陽のポケットから出てきた母の写真。
太陽「これ・・誰だ?」
○韓国・京城の市場
T・日本統治下・京城(現在のソウル)
市場ののどかな風景。行きかう人々。
突然暴れ馬がいななき暴走。よろけながら走り逃げる人々。子供を抱いた母親が倒れ、馬が突進を続ける!
人々「危ない!」
汚れた服の太陽が親子の上に飛び込む。馬の足の下で親子を伏せさせる。
馬「ヒヒーン!」
馬の前足が伸び上がり停まる。太陽が首元にしがみつきなだめる。警察の制服の城田が走ってくる。慌てて、
太陽「どうどうどう。よーしよし、いい子だ」
城田「大丈夫か?ケガはないか?すまん。警察の馬なんだが、いきなり暴れ出して・・」
太陽が城田を睨み付け怒鳴る。
太陽「危ないだろ!ちゃんとしつけろよ!」
城田「本当に申し訳ない。よく止めてくれた。
ありがとう。君はこの市場の者か?」
太陽「そうだ。この店手伝ってるが何だ?」
城田「おい、随分強い言い方するな。日本人じゃないのか?学校で日本語習ったか?」
店の奥から金美恵(56)が出てくる。
美恵「すみません、この子は海道村の生き残りで、頭を強く打ったもんですから・・言葉がうまく話せないんです。御許しを」
城田「海道村?あの賊にやられた村か・私も
行ったが酷いありさまで・・一人でも生
き残ってて良かった。名前は何て言うんだ」
美恵「テヤン、日本語で太陽って意味です」
城田「太陽か。いい名前だな」
美恵「この頃市場にも盗賊団がやってくるんです。何とか警察で取り締まれませんか?賊が何だか増えてるような・・」
城田「・・そうだな。見回りを厳しくするよ」
美恵「お願いしますよ、ほら太陽も頭下げて」
太陽「・・お願いします・・」
馬を連れて行こうとする城田。馬が嫌がっていななき振り向く。動かない。
城田「この馬本当にダメだな!行くぞ!」
手綱をひっぱるが動かない。焦る城田。
太陽「お巡りさん、この馬の名前は?」
城田「これは・・風号。カゼと呼んでる」
太陽が手綱を取る。馬の目が穏やかになる。背中を優しく撫でる太陽。
太陽「よーしよし。カゼ。俺と行こう」
太陽と一緒に歩く馬についていく城田。
○総督府・警察馬舎
朝鮮総督府の看板。レンガの建物
馬に乗った城田。太陽が手綱を引く。
城田「お前、村ではどんな仕事してたんだ?」
太陽「全然覚えてない。でも、馬は昔から乗
ったり世話してたことは覚えてるんだ。あ
と友達かな、同い年ぐらいの男の顔で・・」
城田「そうか。親や兄弟はみんな村で・・?」
太陽「そうなんだろうけど、どれが親の死体かもわからない。だから悲しくもなかった」
城田「そうか・・可哀そうにな。今幾つだ?」
太陽「18歳くらいだと思う」
城田「学校は通ったのか?日本語がうまいな」
太陽「そうか?だってここは日本だろ?」
城田「はは、そうだな。そうお前も日本人で当たり前なんだ。ずっと市場で働くのか?読み書きはできるのか?」
太陽「話はできるけど、書くのがだめなんだ。勉強して、もっとちゃんとした処でも働いてみたいけどな」
城田「じゃあお礼に俺が教えてやるよ」
太陽「そんな時間なんかあるのか?」
城田「馬さえちゃんと乗れたら・・あるさ」
太陽「馬はなつけば話をしてくれるぜ」
城田「お前、馬の言葉がわかるのか?俺は馬とは全く気が合わなくてな・・」
太陽「カゼは、ケガしてる。家の馬舎で静かに休みたいらしい。ここの馬舎は気の強い馬が多いのか?落ち着かないそうだ」
城田「そうか・・馬たちが最近いななき多いのはそれか・・色々事件も多くてな」
太陽「馬は優しいから、無茶させたらだめだ」
城田「ううむ。奴らを調教してもらいたいよ・・」
相馬武(25)が走ってやってくる。
相馬「城田、そらちゃんが来てるぞ!大きくなったなあ。すっかり薩摩美人だ」
城田「えっ?駅で待つように言ってたんだが」
城田そら(18)がそっと後ろから城田に手で目隠しする。
そら「だーれだ?」
城田「オイオイ、そらに決まってるだろ!」
そら「もう~相馬さんが言うからでしょ!兄
さんびっくりさせるつもりだったのに~」
相馬「すまんすまん。つい嬉しくってなあ」
手を外して振り向く城田。笑顔で抱き付くそら。笑顔の城田。
そら「兄さん!久しぶり!元気だった?」
城田「そら!大きくなったな!今晩は女中さ
んにごちそう作ってもらってるから・・」
もんぺ姿の顔色悪いそらを眺める城田。
城田「随分痩せたか?ここにいれば太れるか
らな。洋服も着物も好きな物着るんだぞ」
そら「本国では毎日空襲が・・東京もこの前ひどい状態だったって・・配給も減って・・」
相馬「安心しろ、アメリカもここまでは空襲に来ないから。たくさん栄養つけてな」
相馬とそらが太陽に気付く。頭を下げる太陽。笑顔のそらが頭を下げる。
相馬「いいけど、この小汚い少年は誰だ?」
カゼがいななきをする。
太陽が、むすっとする。
続く